めでたい誕生日
「くちゅん!」
朝起きると、さっそくくしゃみを一発。
なんか寒気するし、昨日だって早く寝たのに眠いし、ぼーっとするし…。どうやら風邪を引いてしまった模様。なんでよりによって今日なの…。
今日は1/25。結婚してから初めての翔ちゃんの誕生日。
ケーキとかもろもろ作ったりする予定あったのに全部台無しか。
「どしたの風邪?」
「あ、おはよ。起こしちゃったね」
私のさっきのくしゃみで起きてしまったらしい翔ちゃん。
もうちょっと寝ててほしかったんだけどな。
「風邪じゃないよ。ちょっと肌寒いだけ」
風邪だと認めてしまうと翔ちゃんはベッドから出してくれないだろうから、口から出まかせの嘘を付いておく。
いや、肌寒いのはほんとかな。
「よし、バレてない…かな」
翔ちゃんを送り出してからソファーで一息付く。ちゃんといってきますのちゅーは拒否ったよ。不思議な顔されたけど。オリンピックがあるのに風邪引いてもらったら困ります。
「さて、ケーキと夜ご飯作るのどうしよ…」
材料はあるけど、身体がこれでは作れない。朝ごはんはトーストだったから作らなくて済んだけど。
「しぃちゃん料理できるっけ」
確か特技料理って言ってたようななかったような。
とりあえず電話してみるか。
『もしもし、』
「もしもししぃちゃん。芽依です」
『…どしたん?元気ないね?』
「ちょっと風邪かもしんない。あ、しぃちゃん今日オフ?」
『大丈夫なの?…まぁオフだけど』
「もしかして暇だったりする?」
『いや、まぁ、うん』
「私の家でケーキと晩ご飯作ってくれない?」
とりあえず作ってほしいということを伝える。これで断られたらお兄ちゃんの奥さんに頼むしかない。
『いいよ。今日旦那さんお誕生日なんでしょ?材料あんの?』
「え、本当にいいの?」
『だって芽依風邪で動けないんでしょ。親友の危機は救わなきゃね』
「しぃちゃん…ありがとう」
『いいって。今から向かうけど、なんかいる?』
「だいじょーぶ。待ってるね」
電話を切っても何もする気になれなくて、しばらくボーッとしていた。
誕生日の日くらい豪華な物作ってあげたかったなぁ…。
ケーキなんて誕生日の日にしか食べないのに。
「はぁ…。しぃちゃん早く来ないかな」
ソファーに横になると、猛烈な睡魔が襲ってきた。
しぃちゃんが来るまでしばらく寝ることにした。
Erika.T side...
芽依から電話があり、芽依の家に向かうことになった。
どうやら風邪を引いたらしい。
「どうせなんにもしてないんだろうな…」
そう思った私は、家にあった風邪薬を持って家を出た。
芽依の家までは、電車で40分くらい。
あまり近いとは言えないけど、お姉さんの都姫ちゃんも今ドラマやってるし、頼れる人がいないのだろう。
ピンポーン…
インターホンを鳴らしてみる。いつもは返事があるはずなのに、今日はない。
「芽依?」
ドアをノックというか、叩きながら返事を待っていると
ガチャ…
「しぃちゃん、ごめんね
」
いつもはもっと元気なはずなのに、今日は元気のない声。
顔だって赤い。
「大丈夫…じゃないか。ほら上ろ」
「うん…
」
リビングに行くまでの足取りもいつもと違う。なんて言うかちゃんと歩けていない感じ。
よくそんなので櫻井さんにバレなかったね。
「朝からなんか食べた?」
「…なんも
」
「じゃあ薬もまだか…」
「しぃちゃん、私のことはいいからケーキと晩ご飯お願い、
」
「バカ。目の前に病人いるのにほっとける訳ないでしょ。まずは芽依優先。
あとケーキなんだけど、やっぱり櫻井さんも芽依の作ったやつ食べたいと思うし、芽依が元気になってから作んなよ」
「でも翔ちゃん今日誕生日…
」
「あー、もう!とにかく私の言うとおりにする!あんたはあっち行ってなさい」
「はーい…
」
なんとか芽依をリビングの方へ追いやった私は、一人用の鍋にお米と水を入れて煮立たせる。
とりあえず何か食べてもらわないと薬が飲めない。
「芽依ー、今日何作んの?」
「ビーフシチューの予定
」
「了解」
「しぃちゃん、私眠いからちょっと横になってるね
」
「薬飲んでないのに眠いの?(笑)」
「最近いくら寝ても眠いの
」
「ふーん…」
You side...
「芽依ー、できたよ」
「ん、ありがとう
」
しぃちゃんがお粥を持ってきてくれた。しかし、今何かを食べたい気分ではない。食べないと薬飲めないっていうのはわかってるんだけどな…。
「いただきます
」
恐る恐ると言ったら変だけど、お粥を口に持っていく。
「……!
」
その瞬間、猛烈な吐き気が襲ってきた。トイレに駆け込み今食べたお粥を戻してしまった。
「芽依!?大丈夫?」
「ごほっ…ごめんしいちゃん
」
「大丈夫だから。って…身体熱くない?」
「最近体温高いの
」
「………………」
そういうとしいちゃんは黙ってしまった。なんか変なこと言ったかな?
「ねぇ芽依。今月生理来た?」
「そういえば来てない…
」
「そっか…。これ、真面目な話ね。櫻井さんと最後にしたのいつ?」
真面目なの?でもしいちゃんの様子からふざけているようには見えない。
「えっと…年明けてちょいくらいだから3週間くらいかなぁ
」
「…芽依、多分あんた風邪じゃない」
「え…?
」
「妊娠…してんじゃない?」
妊娠…確か初期症状が風邪と似てるって聞いたことある。
でもまさか自分が妊娠だなんて…。
「とにかく産婦人科行ってみよ?私も着いてくから」
「…う、ん
」
私はさっきしぃちゃんに告げられたことが未だに信じられなかった。
「おめでとうございます。3週目です」
「…ほんと、ですか?
」
「えぇ。産まれますか?」
「…少し考えさせてもらっていいですか
」
バタン…
「どうだった?」
待合室で待っていたしぃちゃんが訪ねてくる。
「できてたよ
」
「おめでとう。それにしては浮かない顔だね?」
「私…産んでもいいのかな?
」
私が妊婦になるということは、嵐の活動にも支障が出る訳で。
それが私個人のものだったらいいけど、もうそんなことも言っていられなくなる。
ファンのみんなに求められている嵐が出来なくなる。
コンサートだってそう。私1人の身体じゃなくなるから踊れなくなるし。
中絶するという選択肢も私にとっては必要。
「あんたバカじゃないの?どうせ芽依のことだから『メンバーに迷惑掛かる』だったり、『嵐の活動に支障が出る』とか思ってるんだろうけど、何万人のファンのためにこの小さい命捨てんの?ほんとバカ。櫻井さんも産めって言うよ、絶対。メンバーのみんなだって。嵐ってそんな上辺だけの関係じゃないでしょ?」
「しぃちゃん…っ
」
もししぃちゃんがいなかったら、1人で考えてこの妊娠はなかったことにしていたかもしれない。
「とりあえず今後のことは櫻井さんとかメンバーと話し合えばいいじゃん。私も力になるからさ」
やっぱりしぃちゃんは大人だ。年上の私よりもずっとずーっと。迷った時には的確なアドバイスをくれる。
「うん。翔ちゃんに相談してみる
」
「そうしなさい(笑)。さ、家帰ろ。まだビーフシチュー作ってる最中だもん」
「そうだね(笑)
」
「よし、完成!」
「わっ…しぃちゃんありがとう
」
キッチンに行くと、そこには私が作るのよりも美味しそうなビーフシチューがあった。
翔ちゃんがこれを「美味しい!」って何杯もおかわりしてたら嫉妬するな多分(笑)
「私はもう帰んなきゃなんなくなったけど…ほんとに大丈夫?」
どうやらしぃちゃんは急用が出来てしまったらしく、帰ることになった。
今までも散々お世話になったし、あとは翔ちゃんに言うだけだから大丈夫。
「大丈夫だよ。1人でも
」
「そっか。じゃあ帰るね」
「うん。今日はありがとね
」
ガチャ
その時玄関のドアが開く音がした。きっと翔ちゃん。
「翔ちゃんが帰ってきた」そう思うだけで緊張してしまう。
「櫻井さん?」
「…多分
」
「ただいまー
」
ほらやっぱり。今1番会いたかった人が帰ってきた。
「靴が二足あるから誰が来てるのかと思ったら恵梨香ちゃんか(笑)
」
「あ、はい。お邪魔してます」
「いえいえ。ゆっくりしてってね
」
「あ、いえ。急用が出来たのでそろそろと思ってたところなんです」
「あぁ、そうなんだ。じゃあまたおいでね
」
「はい。ありがとうございます。…じゃあ芽依、頑張るんだよ」
しばらく翔ちゃんとしぃちゃんのやりとりをボーッと見ていた私は、急に話を振られて我に返った。
「へっ?…あ、うん。ありがと
」
「じゃあ、お邪魔しました」
しぃちゃんが帰っていった。どうやって話を切り出そう…。単刀直入に?それとも回りくどく?
あ、そう言えば誕生日おめでとうって言ったっけ?
「翔ちゃん、誕生日おめでとう
」
「…朝言ってくれなかったから、忘れてんのかと思ってた(笑)。ありがとう
」
あ、この流れ。いけるかもしれない。今なら言える。
「翔ちゃん、あのね、真剣な話しする
」
「…どうしたの?別れ話以外なら聞く
」
「別れ話とかそんなんじゃないよ。あのね、私妊娠、してるの
」
翔ちゃんの顔が見れなくて、目をぎゅっと瞑って言った。
そしてまだ続ける。
「私が1人の身体じゃなくなって、嵐の活動にも影響出てくると思う。私は翔ちゃんが「産むな」って言うなら堕ろすつもり。でも私産みたいの。…迷惑かな?
」
一通り私の言いたいことをぶつけると、身体が温かいものに包まれた。
翔ちゃんだ。
「俺が堕ろせなんて言うと思う?俺は産んでほしいよ、芽依に
」
「翔ちゃっ…ありがとっ…
」
「うん。あー、もう泣かないの!お母さんでしょ(笑)
」
「そ、だね…!うふふ
」
よかった。ほんとによかった。受け入れてくれなかったらどうしようとか考えたけどその心配は無用だったね。
「メンバーは…いいって言うかな?
」
「大丈夫だよ。15年も一緒にやってきたんだもん
」
「ふふっ。そうだね
」
「どしたの?(笑)
」
「翔ちゃんもしぃちゃんも言うこと一緒だなぁと思ってさ
」
「え、先越されてた?
」
「『何万人のファンのために小さい命捨てんの?』とか『嵐って受け入れてくれないような上辺な関係じゃないでしょ?』とかいろいろ
」
「うわー、恵梨香ちゃんかっけぇ(笑)
」
「ね(笑)。自慢の親友です
」
めでたい誕生日
新しい命が誕生しました。