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First Attendance





「失礼します」


そう声を掛けて室内へ進むと、たくさんの目がこちらを向いた。その中でも若い男女数人と口ひげを蓄えた壮年の男性が私を見て、ああ!と合点がいったように反応した。


「志貴くんだね、待っていたよ。さ、こっちだ」
「はい」


導かれるままにそちらへ行き、それぞれの机に向かうなり立って動くなりしていた人たちに向き直る。何事も第一印象が大切だ。


「今日付けでこちらに配属となりました、志貴ひよりです。アリスとして尽力する所存ですので、よろしくお願い致します」


よし、言えた。普段は慣れない堅苦しい敬語でそう言い切り、頭を下げて礼をする。顔を上げて、と言われたので上げれば、それぞれが自己紹介をしてくれた。


「資料は読ませてもらったよ。それで少し聞きたいことがあるんだが……良いかね、志貴巡査部長?」


口ひげの男性、目暮警部が問う。もちろん何の問題もないのではい、と答えれば、警部は良かった、と言って真面目な顔になる。


「君は、警察学校も交番勤務も経ていない様だが……大丈夫かね?」


まあ、尤もな質問だろう。そう思った。だって普通じゃないもんな、こんな経歴。アリスであってもそういないだろうから。


「はい、大丈夫ですのでご安心ください。私は学園にいた時には幾つか任務に当たったこともありますから、それがそれら2つに当たると見て良いでしょう」
「そうか……なら、良いのだが」


“任務”の内容については触れるなとでも言われているのだろうか、この事についてそれ以上追及されることはなかった。

次に何を聞かれるのだろう、と考えて構えていた時、上から声が降ってくると同時に頭に重い何かがのし掛かってきた。何だ!?とそちらを見れば、若い見目の男性がいる。あれ?と違和感を覚えて高校長から貰った『アリス保持者判別』のアリスで見てみれば、ふわりと光るものがあった。


「……アリス?」
「おお?君凄いじゃないか!判るんだな、俺がアリスだって」
「えっと、はい、まあ」
「……ん、誰だって思ってるだろ」
「そりゃそうですね」
「ハハッ、悪い悪い。俺は柴浦柊って言って君のお隣、一課の四係所属。学園の卒業生だよ。君、卒業生の中でも俺たちの世代じゃ随分噂になってるぞ」


そう言ってハハハッと笑うその人は目暮警部や佐藤警部補たちに挨拶をする。そこはきちんとしているらしい。『柴浦警部!』と佐藤警部補が驚いていて、なるほどこの人は警部なのだと知った。思ったより階級が高いな。しかし噂になる要素なんてあったか?と記憶を探っていると、ああ、と言って私に目線を合わせる。あれ、これナメられてない?


「志貴さんの妹が来るらしい!ってな」


それを聞いた私は、ようやく納得した。確かに兄は生徒会長だったと聞いているし、この先輩は見るに30代前半といったところなので世代もドンピシャなんだろう。


「そうでしたか。兄はしばらく行方知れずだったので、私はあまり昔の兄の記憶が無くて……何しろ当時私は1歳だったものですから」
「ん?そういや君、やけに若いな。幾つだ?」
「18です」
「じゅ、18歳!?」


さすがの先輩も、これには驚いている様だった。それを見た高木巡査部長が、あれ、警部も驚くんですか?なんて聞いていた。それに律儀に答える彼は必要だと判断したのか、学園の高等部の仕組みも説明していた。






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