※10000hit企画『僕のものになってよ』続編
なし崩しに五条と恋人同士になった。何でも手に入れられるだろう男がやたらと俺を欲しがるので、あとはあまりにも周りへの牽制がしつこくて俺と話す人間があまりにもビビってしまって俺のコミュニティが本当にゼロになる恐れがあるので、とりあえず頷いたんだがそれが運の尽きである。
とはいえ、お互いに任務も多く忙しいのであまりゆっくり会うような時間はない。というより、相変わらず五条が俺に割り振られるはずだった任務を代わりに受けているらしいと聞いて別れを真剣に考えたが、付き合う前からそうだったので意味がないと思ってやめた。結局、一人で受ける任務を減らして他の準一級以上の術師を同行させるという、この人手不足の業界で本来割けるはずのない人員調整が行われた。どこから突っ込めばいいか分からないから、もうそこに関しては気にするのをやめた。
解消されたのはあくまで五条がスケジュールの合間に勝手に任務を横取りすることであって、本質的な忙しさはそう変わらない。体が資本だと言うのに連勤が10を超えることなんてザラなこの業界なので、結局そこまで時間が重なるわけじゃない。それでも五条はよく俺の家に来るのだからつまり睡眠なんかの時間を削っているのだと分かってから、「ルームシェアでもするか?」と持ちかけたら「同棲したい」とその単語をずいぶん強調された。薄々分かってはいたけどどうやらこいつは本気で俺に入れ込んでいるらしい。それにしては好意を寄せる相手へのアプローチが嫌がらせという圧倒的クソガキ感はあまりにもだけど。
「ナマエさんってさ、なんで僕と付き合ってくれてるの」
そんな恋人(クソガキ)は目隠しも外さずこちらも見ず、本心を隠しに隠してそう言った。その言葉に「またか」と口に出さなかった俺は褒められて然るべきだ。何度目か分からないこの質問への回答はいつも決まっている。
「お前が『恋人になって』とか言ったから」
「じゃあそう言われたら他の奴とも付き合うってこと?」
「はぁ……。何、ケンカ売ってんの。それか別れ話か?」
「………」
ソファの隣に座って拳二つ分の距離を取ったかと思えば、すり、と肩に額を寄せてまるで猫が甘えるような仕草を見せて「ごめん」と呟いた。でかい体を折りたたんで窮屈そうではあるが、自分でやっているのだから好きにさせておく。
五条はこうして時々、言葉をねだったり気持ちを確かめたりしようとする。体に触れるのを赦して、体を開くのを赦して、誰にも見せたことがない姿を晒すことを赦している俺に対し、それでも信じられなくなる時があるらしい。コイツは俺を舐めているんだろうか。いや間違いなく舐めてるな。無下限切って油断してるタイミングでタンスの角に小指をぶつけてしまえと思う。
猫や犬がマーキングでもするようなその時間が終わったかと思うと、そろりと腕を回されて抱き寄せられた。さほどオチに欠けるバラエティ番組ではあるが一応テレビを見ていたというのに、五条のルームウェアに遮られて視界がライトグレーで埋まった。
ちなみに家でも仕事の時とほぼ変わらない黒のインナーウェアに身を包もうとする五条に、そこそこ値の張るリカバリーウェアをパジャマとして使えと誕生日プレゼントと称して渡したのは俺だ。一緒に住むことになった時、どんなに任務が詰め込まれても疲れなど知らないかのように振る舞う五条にむかついて、ついでに普段から黒の上下しか着ていないのに家でも同じものを着ていることにもイラついた。さらに言えば寝具は適当に買ったものだと言うから呆れて物も言えず、百貨店の寝具売り場の高級な部類に入るブランドで五条に合うマットレスと枕をオーダーメイドした。文字通り腐るほど金があるから支払いは五条のブラックカードを使ったけど。
「オンオフを切り替えられないなら、一緒にいても疲れるだけだから同棲なんかしない」と言い張れば五条はそれはそれは驚いていた。家でもずっと仕事や任務でオンにしたスイッチを切らないでいる自分に気付いていなかったようで、反転術式なんてもので疲労も何もかも誤魔化せる五条にはいっそ引いた。
この仕事は体が資本で食事と睡眠は基本だと言うのに、食べる時はちゃんと自炊して食べるが食べない時はコーヒー(とんでもない量の角砂糖入り)だけという意味不明な食生活で、睡眠の質なんてものは考えたことすらなかったらしい。それであの肉体と強さを維持できてるんだからぶっ壊れてる。
そうして世話を焼いてやっているのは俺の気まぐれなんかじゃないことは五条も分かっているはずなのに何が不安なのか。無駄にデカいその腕の中におとなしくおさまりながらも考えていると、五条が何かを呟いた。聞き取れなくて聞き返すと、少しの沈黙のあとに口を開く。
「僕より先に死なないでね」
祈りのような告白のようなその言葉を発した時にも、心臓の鼓動の速さが変わらないことが気に食わない。ただ、声はいつも通りを装っているだけでその内側に少しの臆病さを感じたのでギリギリ人間らしさが残っているらしい。
「お前が言うとクッソ重いな」
「恋人からの健気なお願いじゃん。聞いてくんないの」
「つーかいきなり何。プロポーズのつもりか?」
「呪いのつもりだったけど」
「どっちにしても全然健気なお願いじゃねえだろ」
そう言うと五条は下手くそに笑ってサングラスを外して、俺を上向かせて唇をくっつけた。いつもより早急に舌が侵入してきて水音が鼓膜に響く。コイツは体がデカいからか舌も長くて、大して掻き乱されてもいないのに呼吸すらも絡め取られる心地がして苦しい。
「っん、ふ……、ごじょ、ン、ぅ」
「ごめんね」
「ん、ん……っ」
「ごめん」
酸素が足りないままソファに沈められ、体を押しても更にのしかかってくる。これはソファで1回ヤって風呂に連れていかれてそこで1回、ベッドで更に2,3回コースだと予測を立てて脳内では阻止を諦めるものの、とりあえず息苦しいので抵抗は続けてみる。が、「ごめん」と言いながらまったく俺を気にかけない。
「ナマエさん、好き」
「俺のこと好きじゃなくていいから、俺だけの物になって」
今みたいなキスの合間、それと行為の最中にだけ、一人称を取り繕うことも忘れてまるで独り言みたいに「好き」と呟く。返事をしようとすると物理的に俺の口を塞いで、最中なら深く奥を突き上げたり指を口に突っ込んだりして俺が喋る隙も余裕も呑み込ませて有耶無耶にする。
コイツはやっぱり小指どころか全部の指をぶつけるべきである。しかし日頃から無下限を纏うその身にそんなことが起こる訳もない。
ああ、もう、いいか。俺もいよいよ認めるべきなんだろうな。少なくとも、自分より先に死なないでほしいって思う気持ちが理解できてしまうから。
舌を吸われて上顎をくすぐられて、悔しいことに気持ちいい。しかしムカついているのも本当なので、流されそうになる思考をどうにか止めてその舌を噛んだ。そこまで力を入れて噛んではいないが五条は反射的に舌を引っ込めて唇が離れ、ようやく深く呼吸できるようになった。
「五条、」
「ごめん、嫌だったよね」
「話聞け」
「やだ、ナマエさんごめん、今日はもうしないから」
話聞けっつってんだろ! と言葉を遮って言うのも面倒になって、その唇にそれこそ噛み付くようにキスをした。ちゅう、とわざわざ音をたてて唇を離してやると、五条はぽかんとアホ面を晒していた。そんな顔すら整っているんだからつまらないにも程があるが、間抜けなその表情は滅多に見られないのでチャラにしてやろうと思う。
「さっきの、普通に言え」
「え……?」
「俺に言いたいことあんなら、あんな誤魔化しながらじゃなくて普通に言えっつってんの」
五条はほんの一瞬だけ泣きそうな情けない顔になってから、なんとも言えない表情でじわりと頬を染めた。時々何かしらの衝動に駆られてか、俺を壊したいのかと思うようなえげつないセックスだってしてくるくせに、今さら言葉一つ伝えるのに照れるなんて有り得ないとは思う。が、コイツは生まれた時から普通ではないのできっと仕方ないことなんだろう。
「……一番だめな呪い方、していいの」
「今更だろ」
「言ったら振られるとかないよね?」
「振ったらどうなんの?」
「一生閉じ込めて僕だけしか会えないようにする」
「お前が言うと冗談で済まねえな」
お前の背中を守るだとか一緒に戦うだとか、そんなことができたのは後にも先にも夏油だけだった。最後の最後にはきっと誰にも、これだけ求めはするくせにもちろん俺にも頼らず独りになろうとするだろうお前の強さは相変わらずムカつくので、最強様の言葉で俺を縛り付けて隣に居続けてやろうと思った。
愛も呪いもおまえのもの
さてその最強サマはといえばいやに物騒なことを言ったくせに、少し震える声で言った言葉は「だいすき」なんてあどけない響きで、思わず笑ってしまった。
2023.10.22
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