その圧倒的な強さを目の当たりにする度、悔しさ、羨望、衝撃、その他諸々色んな感情が湧いては消えて、目が離せなくなる。

強い人はそれだけ、危険に晒される可能性が高くて、だからといってじゃあ俺は太刀川さんに危うさや儚さを感じるかと言うと、そうでもない。そうでもないけど、まあ、心配にはなる。



そんな強すぎる人と、レポート(という名の地獄だと本人は言う)の課題を決して早くない入力速度でただただ打ち込むその人は、紛れもなく同一人物である。ボーダーの攻撃手の中で一番強く、チームランク1位である太刀川隊の隊長だ。戦闘にステータスを全振りしているといっても過言ではないため、その他のことはそんなに器用にこなせる方ではない。戦術の話になれば頭が回るのに、勉強は本当にできないらしい。

「あ゛ーーー終わんねーーーーー……」
「まだ始めて30分っすよ」
「むしろ俺が30分もよくパソコン打てたなって感じだろ」
「自己評価高すぎますね」

太刀川さんは机に突っ伏して、もう無理だの疲れただのとぐだぐだ弱音を吐いている。戦場ではどんな近界民にも負けないのに、レポートには勝てる見込みがないらしい。

「なあなまえ」
「なんすか」
「俺、ご褒美がある方が頑張れるタイプなんだよな」
「……………はあ」
「これ終わったら、なんかくれよ」

俺は読んでいた本から目を離した。後輩にご褒美を強請る隊長なんて、たぶんボーダー広しと言えどこの人だけだと思う。風間さんあたりが聞いたら、呆れてモノも言えなそうだ。

「……何がほしいんですか」

そう思いながら一応は聞いてやらないと、面倒くさいことになる。そう思って聞いたものの、どうせ餅だろう。この人は勝手に焼いて食べるだけだから手間もかからない。調達はスーパーだし、他の薬味を求められたらそれはそれで面倒だけど、出水に手伝わせよう。

「なまえのチュー」
「…………は?」
「たまにはいいだろ?」
「たまにはどころか一回もしたことねぇっすね」
「そうだっけ?」

ニヤニヤという効果音がしっくりくるその表情と、抱き寄せられた肩に触れる手の大きさと、いつかの誕生日に隊のメンバー名義でプレゼントした香水の匂い。部下ではあるけど別に恋人同士であるわけもないし、そもそも男なんだから、どうせ本気ではないだろうけど。

なんとなく、いつも模擬戦だの世間話だの相手をしてくれるこの人が、レポートにかかりきりなのがちょっとだけ、面白くないことも事実で。

素直にその肩に頭を預けてみれば、僅かに揺れた気がした。顔を見ないようにして、そして自分の顔も見せないようにして、ぽつりと呟く。

「まぁ、頬とかになら、してもいいっすよ」

言ってから恥ずかしくなって、その肩に額を擦り付けた。なんか頭の上で変な呻き声がした気がしたけど、顔を上げることはできなかったので、太刀川さんがどんな顔をしてるかなんてことは知る由もなかった。









「出水聞いてくれ」
「なんですか?」
「なまえがめちゃくちゃかわいい」
「……今更じゃないですか?」

みたいな感じで太刀川と出水に溺愛される太刀川隊夢主が見たかったから雑に書いたもの供養