愛美愛主が半壊させられた。

 そんな話が舞い込んできたのは、先日のこと。パーのダチが愛美愛主の奴らに襲われて、大事には至らなかったものの怪我をし、しかも彼女がレイプされかけた。そんな胸糞悪い話を聞き、オレ達で愛美愛主を潰す、と決めた矢先のことだった。
 パーのダチとその彼女に関しては通りがかった一般人によって未遂で済んだものの、下劣で許せない行為。前々からやってることがゲス極まりない奴らだと知ってるから、これを機に叩こうと思っていた。そんな折。

 愛美愛主はデカいチームだ。それが半壊。しかも、どこのチームがやったか分からない。そんなデカい抗争があったならどこかしらで情報は得られるはずなのに。

 そんなとき、タケミっちが俺らの集まりに割り込んできた。愛美愛主をどうするか、頭がやられたわけじゃねえからやっぱり抗争して真正面から潰しとくべきか、なんて話をしていた時、「大変です!」って息を切らして慌てた様子のタケミっち。落ち着かせて話を聞くと、「愛美愛主が一般人にWお礼参りだWって言って、囲んで連れて行ってしまって…!」とどうにか伝えてくれた。

 その不良と一般人との話の流れ的に、その一般人はパーのダチとダチの彼女を助けた奴らしいこと。そして、愛美愛主を半壊させた奴と仲良さそうに話していたことを聞いた。それらからタケミっちは、『たまたまレイプの現場に居合わせてそれを助けたW一般人Wが、愛美愛主の奴らを半分潰した奴と友達だったために、諸々のお礼参りと称してリンチに遭ってしまう』という結論を導き出し、一人で行ってもどうにもならないとマイキー達に助けを求めた。ちなみに携帯は電池切れでここまで走ってきたらしい。

「とりあえず行くぞ。その話が本当なら、パーのダチの恩人かもしれねえ」

 そう声をかけてそれぞれ愛機に跨った。リンチ現場らしい工場跡地には15分足らずで到着したが、やけに静かだった。もう終わったのなら、たとえばサンドバッグにされ捨て置かれているかもしれない。もしそうならすぐに手当をし、最悪の場合は救急車を呼ばなくては。
 そう思って急いで中に入ると、そこにいたのは一人の男。

「……誰?」
「は……?」
「もしかしてこいつらの仲間?」

 こいつら、とその男が顎で指した先には、愛美愛主の特攻服を着た奴ら。仰向けに伸びてる中には長内もいる。鉄パイプ、金属バットなんかも散乱しているので、それらの武器も使ったんだろうが、それにしても。

 男は息ひとつ乱しておらず、見える範囲だが傷もない。
 50人はいるだろうか。死屍累々というその空間に立つ男は、綺麗な顔をしていた。傷も殴られた痕もないがそれだけではなく、整った中性的な顔立ちをしている。
 染められていない髪。耳にはピアスもなく、見かけだけなら一般人だ。しかし紛れもなく、これだけの人数相手に顔も殴られず全員をボコボコにしたとなれば相当喧嘩慣れしているはずなので、まず一般人であるというその先入観を排除した。

「……聞いてる?」

 この殺伐とした光景に似合わない穏やかな声。随分と優しい声をかけられ、視覚から得た情報でキャパオーバーを起こしていたオレ達の中で、最初に言葉を発したのはマイキーだった。

「オレたちは、東京卍會。そいつらは愛美愛主ってチームの奴らで、だから仲間じゃない」
「………」
「オレの仲間が、アンタが愛美愛主に連れて行かれたのを見て、ここに来ただけ」
「あぁ、助けようとしてくれた? ありがとな」

 礼を言われても言葉につまる。助ける必要なんかないほどだったので反応に困っていると、そのままマイキーが問う。

「アンタ、どこのチームの人?」
「チーム?」
「……え、入ってないの?」

 その強さで? と、マイキーの言わんとすることが全員に伝播した気がした。入ってねえよと微笑む男の後ろに、伸びた不良たち。コントラストが強すぎて苦笑いが漏れる。

「ねえ。名前、教えてよ」
「うーん……。簡単に名乗るなって言われてるんだよな」
「……じゃあ学校名」
「それ言ったら押しかけてくるやつじゃん。他の生徒が怖がるからやめろよ」

 そこまで言って、外にどこからか聞こえてきたバイクの音。数はそんなに多くなく、せいぜい二台くらいか。愛美愛主の残党にしては少ないなと思っていると、バイクが止まった。黒の学ランを着た黒髪と銀髪。目の前の男が知り合いにするように手を挙げた。

「あー? まだやってたの?」
「……今からまた始まるところとか?」
「この子たちは違うって」

 その二人組の元へ歩くその男の手を、マイキーが掴んだ。咄嗟に掴んでしまった、というのが正しい。その男はきょとんとしているだけだったが、男の後ろから「あ?」とガラの悪い声がした。

「誰のに触ってんだクソガキ」

 そう言ってバイクから降りた男は、オレよりも上背のある男だった。190はありそうな長身、長い足。丸いサングラスを外したその顔はとても整っていて、ギラリとマイキーを睨むその眼は鋭い。

 マイキーに殴りかかりそうなそいつを「悟」と穏やかに諫める声。狂犬のような雰囲気がほんの少しだけ軟化した。いかにも不良という風貌の男が、見かけだけなら普通の男子高校生である男に大人しく従っている。まあ今にもオレたちに噛みつきそうではあるが。

「俺に何か用か?」

 さっきまで不良をノしていた男とは思えないほど穏やかな声と表情で、マイキーにそう問いかけた。マイキーは暫し沈黙した後、「なまえ」と呟く。

「……名前、教えて。あと、連絡先」
「おいこらクソガキ」
「悟、煽んないで」
「無茶言うな、今どきどんだけ下手クソなナンパでもそうは聞かねーよ」
「ナンパじゃない、礼がしたいだけ」
「ハァ? お礼参りなら受けて立つけど?」
「……傑」
「了解」

 後ろでバイクに跨ったまま生還していた男は名前を呼ばれただけで察したのか、こちらへ近づいてくる。オレと同じぐらいだろうか、どっちにしてもデカい、そしてゴツい。

「おい傑、邪魔すんな」
「話の邪魔してるのは悟だけどね」
「ああ?」
「……あー、悪いな。で、なんだっけ?」

 黒髪ロン毛の男に引きずられていく銀髪の男。それについ視線を持って行かれていたオレ達に平然と問う、不良に見えない男。

「オレ、佐野万次郎。お兄さんの名前教えて」
「なまえだよ」
「苗字は?」
「ナイショ」
「……男ボコされて彼女がレイプされかけてたの、助けてくれたのってなまえくんなの?」
「あー、そんなことあったな」

 「はあ?」と二人分の声が後ろから聞こえてきて、「そんなクズなことやってたんだ。もっと思い切りヤっておけばよかった」「やっぱボコした奴に残りの仲間呼び出させてヤったほうが良かったんじゃね」「そうだね、今度からそうしよう」「でも終わってから次のが来るまで待つのダルいし、やっぱ最初から全員集めさせてさぁ」という会話から、どうやら愛美愛主を半壊させたのは後ろの二人らしい。他にも仲間がいるのかもと一瞬思ったけど、なんとなくそうじゃない気がした。一人あたり何人ボコせるかなんて話が出てきたせいもあるが。

「あの、本当にありがとう」
「うん?」
「助けてくれたの、オレのチームのダチなんだ。……おい、パー」
「お、おう。……あのよ、アンタのおかげでダチと彼女は助かった。ありがとう」

 パーが頭を下げて、オレたちもそれに倣う。しばらく沈黙していたけれど、「頭上げてよ」というその声に視線を持ち上げた。ゆるく細められた目元が優しくて穏やかで、つい見惚れてしまう。

「カッコいーね」
「え……?」
「大事な仲間なんだな。俺は好きだよ、そういうの」

 大したことはしてないけど守れたなら良かったよ、と笑うその人から、目が離せない。「とはいえ喧嘩はほどほどにな」とそれっぽいことを言われながら、その人は今度こそオレたちに背を向けた。ら、その後ろにいた男2人に抱き込まれていた。

「っうわ」
「ハイなまえ回収〜〜〜」
「なまえ、人誑しも大概にしたら? しかも不良ばっかり」
「何もしてねえよ」

この後、夢主がマイキーに懐かれたり、昔から夢主のペットに立候補してる灰谷兄弟が夢主の新たなペット候補出現してキャットファイトする。最強コンビはペットの中でも正室ヅラしているので余裕が多少ある。
攻め主のイメージ。

ただ不良してる最強コンビが見たかったので軽率に書いてしまいました。夢主絶対守るマンしてたらいつの間にか喧嘩の強さで有名になった最強コンビ、守られなくても強いそこそこ最強設定夢主。