両親はおっとりした人だった。僕にもその血が色濃く流れていれば、今のこの訳の分からない状況も躱せたのだろうか?

「おまえと結婚、する」
「は?」
「名前なんて言うの」
「え、あの、悟様。私は、」
「悟でいいよ。結婚するのに様はおかしいだろ」
「いえ、あの、ですから」

五条家の使用人達は皆ぽかんとしているけど、そんな場合じゃないと思う。五条家の分家の端っこに位置するうちの家族──父と母、そして12歳の僕──がなぜ本家のお屋敷にいるのかというと、主な理由として僕の頭が良いから。天与呪縛だと言われていて、筋肉量が人より少ない代わりに、既に大学受験のために解くような問題集を理解できている。
とにかく、僕は遊び相手兼教育係として呼ばれた筈なのだけど、8歳の悟様の中では「結婚」になっていた。話が飛躍しすぎでは。

そしてこれは十中八九、僕の性別を勘違いしている可能性がある。可能性っていうか、絶対そう。目上の方の前では「私」と言え、とそう両親に言われたのを鵜呑みにした僕のばか! うっかりぽろっと「僕」と言っていれば、回避できたかもしれないのに……!

「さ、悟様。私は悟様のお見合いの相手ではなく、空いた時間に遊んだり、勉学をお教えする為に此処におります」

混乱した中で、取り急ぎこう答える。何故「結婚」に至ったのかを考えると、数日前に聞いた「五条家に多数の縁談が申し込まれている」という話が頭をよぎった。縁談を受けたかどうかは別として、連日のように自分の屋敷に来て結婚相手にぜひ、などと言われていたら、誰か客が来たら見合いの相手が来た、と思ってしまうのも無理はないのかもしれない。

「分かった」
「! ありがとうございます。それと、」
「結婚は、何歳になったらできる?」
「………ええと」

「私は男です」と言うのを遮られ、僕はまた口を噤んでしまった。とりあえず悟様は何も分かっていなかった。







両親との話し合いの結論を言ってしまえば、「一旦女のフリをしろ」「男であることを隠し通せ」だった。これは五条家からもそう依頼があったかららしい。無理があると思う。流石に。

だけど反論なんかできるわけもなく、今日も女物と取れなくもないような着物を着て、五条家の敷居を跨ぐ。

五条悟の初恋&一目惚れを書いてみたかった。
この後、ぶっちゃけ男ってすぐに気づくけど、女っぽい格好した夢主はかわいいから暫く夢主が男であることに気付いてないフリをする五条悟。という感じで書きたかったのですが筆が乗らなかったので供養。