なまえの何もかもを見透かすようなその眼が時々嫌いで、何よりも好きだった。

 大嫌いで大好きだったから、部屋に閉じ込めた。別に手枷も足枷もつけない。毎日キスして、一緒に寝て、ときどき縋るようになまえを抱く。

 なまえは此処にいるだけでいい、何処かへ逃げようとしたら殺す。そう言った俺に「分かった」と笑った。他の奴に目移りしないでと言えば「俺が好きなのはマイキーだけだよ」と言った。

「もしいつか、昔の仲間を殺したくなったらさ。真っ先に俺を殺しに来て」

「俺を殺すまでは、誰も殺さないって約束して」

「もしみんなを殺したら、俺も同じ場所に行かせてよ」

 なまえは度々そう言って、仕事へ行くオレを送り出した。なまえは知っているようだった。俺の中にある黒い衝動。オレの中の楽しかった思い出とか大切な仲間とか、そういう過去の記憶を自分から切り離したくて、身体が勝手に動いてしまいそうな時がある。たとえそれが元東卍の仲間でも。
 オレはなまえには一言も言っていないのに、どうしてかなまえは全てを理解した眼でオレを見る。大好きで、大嫌いな眼だ。

 離れるな。何処にも行くな。居なくなるな。暗示をかけるようにその耳元に囁いてから眠りにつく。そうしないと眠れなかった。なまえが寝ているか起きているかなんてどうでもよかった。ただそう言葉にしないと、自分の気が済まなかった。

 どうしても不安と焦燥に駆られる日は、ゆっくりと丁寧になまえを抱いた。隙間を埋めるように身体を重ねてなまえのナカに自身を沈めると、どうしようもなく安堵した。なまえと繋がることで感じられる自分のこの幸福感も増していく情欲も、その悩ましげに歪められた目元や控えめに喘ぐ声から分かるなまえの身に走っている快感も。
 頸や喉元に噛みついて痕を残せば、自分の中の足りないものが補われていくような感覚だった。真一郎、エマ、場地。今はもう近くにいない、東卍創設メンバーや仲間だった奴ら。そいつらを求める心を、全部なまえにぶつけた。それでもなまえは、オレを大好きと言ってくれた。

「ねえ、マイキー」
「……何」
「頼みがあるんだ」

 なまえをこの部屋に閉じ込めて丸2年。なまえがオレ以外と関わらなくなって1年半。最初は幹部の奴らには身の回りのことを任せていたため会わせていたが、オレが耐えられなくなって辞めさせた。
 外に置かれた食事を部屋の中へ運ぶのも、全部オレがやった。その間もなまえは我儘一つ言わずオレに笑いかけていたから、そのW頼みWは叶えたいと思った。
 だからその続きを促せば、いつもの何気ない話をする時と同じ声で言った。

「俺を殺して」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。耳からの情報が脳へ届くまでに随分とかかり、ようやく発することができたのは「なんで」という情けない言葉だった。

「マイキー。何があっても嫌いになったりしない。だから本当のことを教えて」

「なんでみんな殺したの」

 どうして。何故それを知ってるんだろうか。
 誰にも言っていない。誰にも会わせていない。
 この部屋に持ち込んでいる唯一の連絡手段であるオレの携帯だって、緊急時以外は3段階のセキュリティでロックをかけてある状態だから開けるはずもない。

「俺じゃ駄目だった?」
「違う、まって、なまえ……ッごめん、ごめん、オレ、」
「マイキー」

 なまえが静かに呟いた自分の名前。その声に、呼吸をするための全ての細胞が凍りついたみたいに息ができなかった。

自分がマイキーの側にいることで東卍のみんなを守りたかった夢主と、夢主がいても抑えられなかったマイキーのお話が書きたくて書いたのですがしんどくなってきて供養。
書けていない要素として、夢主は本当にマイキーのことが好きで大切で側にいたのですが、マイキーにとってはそうじゃなかったと感じて諦めているという感じです。
みんなを殺したのが分かったのはマイキーの様子がおかしい日がこれまでに何度かあって、ある日を境に眠りが浅くなったから、皆いなくなったんじゃないかという風に考えた的な背景です。