MHA短編の続編供養




そいつはクラスの中でも視野が広くて頭の回転の早い奴で、女が好きそうなツラと人当たりの良い笑顔がまず目につく奴だった。俺にも躊躇なく意見を言って、それはいつも至極真っ当なものだったから、俺は余計に苛立ったりもしたが、そいつ───みょうじは、さほど気にも留めていないようだった。

体育祭である程度目立ってからは、みょうじには女どもが分かりやすく寄ってくるようになった。それをあいつは拒まないが、喜ぶというより、どう対処すればいいか決めかねて迷うという感じだった。たとえば今みたいに普通科の女数人に囲まれても、困ったように愛想笑いしかしねぇみょうじにイラついて、無理やり腕を引っ張って寮へ引きずった。

「ありがと爆豪、助かった」
「あんなもん睨みつけて退かせろや」
「まあ俺も正直、俺のこと何も知らないのに絡んでくるのはどうかと思ったけどさ」

優男、という印象だったのに、どうやら案外、思ったことは言うらしい。思慮深い印象は変わらねぇが、もっと色々腑抜けた感じだと思っていた。実際は、冷たくあしらってヒーロー科の印象が悪くなるのが嫌だっただけ、らしい。んなこと気にしてどうすんだ。馬鹿か。





そういうことがあってから、気付けばみょうじを目で追うことが増えた。そしたら当然、みょうじの視線の先にも気付く。そこからは芋づる式だ。みょうじは切島を見ていて、切島は芦戸を見ている。知ってしまえば後は簡単だった。あいつの恋は、叶わない。



だというのに、学年が上がっても、卒業してプロヒーローになっても、みょうじの視線は切島を追う。きっと他の誰も気付いてない。ずっとみょうじを見ている俺だけが知ること。

そしてついに、切島と芦戸が結婚した。それは別にいい。似合いだと思うし、素直にめでたいことだ。切島は何も知らないから、当然、W仲の良い友達Wとして、みょうじを結婚式に呼んだ。残酷なことだが仕方ない。何か理由をつけて断れば良いのに、出席すると決めたのはみょうじだ。見届けることに決めたんだろう。



式のあと、二人の時に聞いた。回りくどい聞き方なんか知らねえから、ストレートに問いかけた。そろそろこっちを見ろと言いたかったし、実際言うつもりだったのに、それも言えなくなる。みょうじは未だに切島が好きで、俺のことも何もかも、見えちゃいなかった。



「もし切島とヤるとしたら、てめェはタチとネコ、どっちが良いんだよ」
「………はい?」
「抱きたかったんか、抱かれたかったんか。どっちだよ」



別に、どっちでも良かった。こいつが抱きたいってんなら、別に俺がWそっち側Wをやっても良いと本気で思っていた。男に掘られる趣味なんざ無えが、こいつがもし本当に本気の意味で俺に触れて、触れさせるってなんなら、抱かれてやったって構わない。たとえばそれが、切島の代わりでも。

「切島になら、抱かれたかった、かなぁ」

抱かれたいと言ったその顔はあまりにも整っていて、あぁこんなツラなら本当に女に困らないだろうに、それでも切島がいいのかと、身体を許したいほどに心が決まっているのかと、もやもやした気持ちになった。それと同時に、脆さを感じた。他人の機微に聡いとは思わないが、勘には自信がある方だ。

「慰めてやるよ」
「え、」
「切島だと思って、抱かれてろ」

そう言って抱き寄せた。香水か何かだろう、酒の匂いに混じって爽やかな匂いがするのが、こいつらしいと思う。顔が見えなくても、戸惑っていることがわかる。けど、そんなことはもうどうでも良かった。ソファに押しつけるようにして覆い被されば、こいつの抵抗なんか無いに等しい。

やっと、やっとだ。
やっと、こいつに触れられる。
たとえ切島の代わりでも、酒に酔った勢いと思われても、弱ったところにつけこんだ結果だとしても。

なんでもいい。俺はずっとこいつに触れたかったんだと、今思った。

唇を塞ぐ。多少の抵抗はするものの力の入ってないそれは、半分は戸惑いでもう半分は受け入れているからだと、都合のいい解釈をする。まあ受け入れてるのは俺じゃなく切島のことだろうが、構わない。

手近にあったなまえのネクタイで目隠しをする。輪っかを作ったままのそれは、簡単にその目を塞いだ。本当はその目を見ながら抱きたかったが、切島だと思い込ませるには視界を奪うのが一番いい。それに、目隠しをした奴にいいように触れるのは素直に興奮した。それがなまえなら、尚更だ。

書こう書こうと思ってなかなか書けなかったものを発掘しましたので供養。