※最新話ネタバレ(と言っても名前だけ)
※すべてがただの妄想です
「ただいま、なまえ」
「おかえりなさいませ、宗一郎様」
ええ子にしとった? と俺の頭を撫でて微笑むその表情はいつも通りに見えるけれど、少しばかり疲れているようにも見えた。しかしそれをわざわざお聞きするのも憚られて、普段通りにお出迎えし上着をお預かりする。綺麗に編み込まれた毛先がその動作に合わせてゆらりと揺れた。たとえお疲れお疲れであっても大人の余裕と色香があるなと不謹慎なことを思う。
宗一郎様のご帰宅は随分と久しぶりだ。怪獣が多く発生しなかなか帰れないと先日ご連絡をくださった。家にではなく、個人の携帯メッセージでだ。
宗一郎様に他意は無い。何気なく触れられることも俺個人への連絡も、親愛が込められた優しいものだ。弟の宗四郎様も上京していてご不在だから代わりに可愛がって下さっているだけかもしれない。
「なまえ。今日の仕事の進捗はどない?」
「え?」
「終わっとったら晩酌、付き合うてくれん?」
お疲れではないのですか、と主を気遣う言葉がすぐに出てこなかったのは、この人にお声をかけられたことが嬉しかったからだ。結局「私で良ければ」と承諾する言葉を返してしまったけれど、「ほな先、風呂入ってくるわ」と笑いかけられてまた頭を撫でられた。
触れられたところが熱い。主に抱くべき感情ではないことには何年も前から気付いているが、認めてしまえばこの家の使用人ではいられない。
晩酌というのでてっきり広間かと思っていたが、宗一郎様はお部屋で寛がれるらしい。やはりお疲れなのだろう。頃合いを見てお休み頂こうと心に決めた。
しかし、屋敷の一室ならまだしも宗一郎様個人の空間となると緊張する。離れの一角にある主の部屋は洗練されていて、目の前で日本酒を飲まれるそのお姿は風呂上がりで普段より更に艶やかで直視できない。その緊張をほぐすために酌をするが気は紛れず、勧められるままに酒を飲んだ。
「……なんやえらいペース早いな思てたけど、もう酔ってしもたんか」
「顔真っ赤やで」と頬に触れられ、その手の甲がひんやりと随分と優しく熱を冷ますものだから、反動で触れられたところから更に体温がぐつりと上がった気がした。
この方に他意はない。意識するな。
そう思い込んでも、アルコールで判断の鈍った頭ではうまく理性が働かず、その手に擦り寄るようにして頬を寄せた。お慕いしています、などと言えるはずがない。俺を弟のように思い可愛がってくださっているこの方の、信用と信頼を失いたくない。
それと同時に、伝わってしまえばいいのにとも思ってしまう。いずれ好い方と出会い婚約されるのだから、それまでに見限られてこの人の前から居なくなれば少し心が凪ぐのではないかと考える自分もいるのだ。
「なまえはええ子やけど、悪い子やなぁ」
「え……?」
「あいつらに付き合うた時も、そないな可愛い顔見せとったん?」
わるいこ、という言葉を咀嚼する。「良い子」と称されたことは数知れずあるが、悪い子だと言われたのは初めてだ。あいつらとはきっとご兄弟のことで、晩酌に付き合えと言われることは時々あるからその時のことだろう。ただ根本的な意味を考えあぐねていると、思いのほか目の前まで宗一郎様の顔が近付いた。
「うっかり食べられても文句言われへんで」
「……? あ、えと、つまみが足りないようでしたら、追加でお持ち、します」
「……いや、ええよ。水持ってくるから、ちょっと待っとき」
宗一郎様は少しいつもと違う表情で微笑んでから、いつも通り頭を撫でて部屋を後にした。
「……あー、あぶな」
「疲れとる時はあかんなぁ」
扉の外で宗一郎様がそう呟いていたことも、頭を掻いてため息をついていたことも。酔いが回って微睡む俺には知る由もなかった。
2022年9月30日の初登場ありがとうございます記念です。2コマしか出てきてないので口調やらなんやら当然全てが妄想で捏造です。情報が固まる前に書くのはリアルタイムで連載を読んでいる時の醍醐味かなと思いまして…。
実際に本編でもっと情報がでてきたら多分消します。
一言で言うとビジュアルが好みでした。いずれ保科隊長との絡みが見られたらいいな。