いずみ、と、一つ一つの音を丁寧に発音するような、そんな声が好きだ。

にこりと笑って、おれを甘やかして、時には少し厳しく指導して。

最初はその声を好きになって、次にその目元が綺麗だと思って、ソファに足を抱えて座るその体勢がかわいいと思って。

師匠であるその人に近付きたくて、頼られたくて、だから強くなりたかった。自主練して、ランク戦して、一人で反省会して自主練して、時々修行つけてもらって、また誰かとランク戦して。そして気付いたら射手ランクは二宮さんに次いで2位になってて、どうしてかあの人はおれを避けるようになった。

指導を仰いでも、「もう出水に教えられることなんかないよ」なんて言って苦笑いして、すぐにどこかへ行ってしまう。

なんで。認められたかっただけなのに。強くなれば、同じ景色が見られると思ったのに、なんで遠くなんの。

一度そう思ってしまえば、腹のなかでぐるぐると渦巻く焦燥。ギリギリ押しとどめられているそれは、日に日に大きくなっていって。そしてついに、あの人が二宮さんにアドバイスしているところを見て、ブツリと何かが切れて、ダムが決壊するのを感じた。




「こう、へい」
「なんで、二宮さんには教えて、おれには教えてくんねーの」
「………」
「二宮さんは1位で、おれはそれより下なのに、なんで?」

なまえさんに割り当てられた部屋の、その一角にあるソファに押し倒して、上に覆い被さって、その綺麗な顔を見下ろした。なまえさんは困惑をその眼にのせて、おれを見る。きっとおれが何を考えてるか分からないんだろうな。おれもなまえさんが何考えてるか分からないから、おあいこだけど。

なまえさん、と名前を呼んで鎖骨のあたりをなぞると、むず痒そうに肩を竦めた。自分の欲望には、ずっと前から気付いてた。この人に向ける感情は、普通の親愛じゃない。もっと重くて、しんどくて、熱くて甘い、そういう種類のものだ。そうじゃなかったら、自分の師匠が他の人間と話すくらい、軽いやきもちで済ませられた。

似た意味だけど明らかにもっとドロドロした、嫉妬にまみれた独占欲が、この人を他の人に見せたくないとか、そういうことを考えさせる。

「おれ、何かした?」
「え………」
「なまえさん、おれのこと、嫌いになったの」
「出水? どうしたんだよ」
「ランクとかポイントとか関係なしに、おれの、師匠なのに」

敬語が似合いすぎる出水くんの年下攻めが書きたかったけど筆が進まなかった