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妖精の尻尾は本日も騒がしい。
昼過ぎ、くぁあ…と欠伸をしながらギルドに顔を出した尻尾は、カウンターに腰かけレモンティーを飲んでいた。
「う〜ん…」
そこに、悩める少女が1人。
「"魔法の腕輪探し"に…"呪われた杖の魔法解除(ディスペル)"…"占星術で恋占い希望"!?"火山の悪魔退治"!!?へぇ……依頼っていろいろあるんですね」
『(呪われた杖、ねー)』
ズズッ、とレモンティーを飲んだ。依頼を探してるのはルーシィと、ナブ、ウォーレン。
でもナブ仕事行かねーじゃん。心のなかで毒づく。
声にこそ出さないが、ナブがどうやって生活をしているのかはギルドみんなが疑問に思っていることだ。
「気に入った仕事があったら私に言ってね。今はマスターいないから」
「あれ?本当だ」
「定例会があるからしばらくいないのよぉ」
いつも座って酒を飲んでいる場所にマスターがいない。その間、管理をしているのはミラだ。
「定例会?」
聞きなれない言葉をルーシィが繰り返す。
「地方のギルドマスターたちが集って定期報告をする会よ。評議会とは違うんだけど…う〜ん…ちょっとわかりづらいかなぁ?
リーダス、光筆(ヒカリペン)貸してくれる?」
「ウィ」
「そもそもギルドに加入したばかりじゃ魔法界の組織図ってわかんないよね」
キュ、キュッと音を立てて空中に文字を書いていくミラ。いつの間にカウンターから出たんだろ。
「魔法界で一番偉いのは政府とのつながりもある評議院の10人。魔法界におけるすべての秩序を守る為に存在するの。犯罪を犯した魔道士をこの機関で裁く事もできるのよ。
その下にいるのがギルドマスター…評議会での決定事項を通達したり、各地方ギルド同士の意思伝達(コミュニケーション)を円滑にしたり私たちをまとめたり…まぁ……大変な仕事よねぇ」
『そんな大変そうには見えないけどな、うちのマスターは』
「尻尾ったら」
「知らなかったなぁーギルド同士のつながりがあったなんて」
「ギルド同士の連携は大切なのよ。これをおそまつにしてると…ね」
「?」
不思議に思ったルーシィの背後に、影。
「黒い奴等が来るぞォォォ」
「ひいいいっ!!!!」
「うひゃひゃひゃっ!!!「ひいい」だってよ なーにビビってんだよ」
「もォ!!!おどかさないでよォ!!!」
「ビビリルーシィ略してビリィーだね」
「変な略称つけんなっ!!!」
3人、主にルーシィを見て、尻尾が『貴重なツッコミ要因が増えたな』と呟いた。ミラはクスリと笑って続ける。
「でも、黒い奴等は本当にいるのよ。連盟に属さないギルドを闇ギルドって呼んでるの」
「あいつ等法律無視だからおっかねーんだ」
「あい」
「じゃあいつかアンタにもスカウト来そうね」
ケラケラ笑うナツに一言もらすルーシィ。『確かにな』と笑えばナツは「何だよ」とふてくされた。
『ごめんごめん』
「おう。つーかルーシィ、早く仕事選べよ」
「前はオイラたち勝手に決めちゃったからね。今度はルーシィの番」
『何だお前ら、また一緒に行くのか』
「おう!チーム組んだんだ。尻尾も一緒にな!!」
『私組んだ覚えないけど』
「冗談!!!チームなんて解消に決まってるでしょ」
「なんで?」
「あい」
ルーシィの発言にきょとんとする二人。
「だいたい金髪の女だったら、誰でもよかったんでしょ!!」
「何言ってんだ…その通りだ」
「ホラーー!!!」
『…オイコラナツ、』
「でもルーシィを選んだんだ。いい奴だから」
にかぁと笑ったナツ。発言は腹立つものがあるが、悪気のない笑顔をされてしまっては何も言い返せない。
ルーシィも照れて、何も言えないようで。
『(天然はタチ悪いなぁ…)』
「なーに、無理にチームなんか決める事ァねぇ」
リクエストボードの少し離れた場所にあるテーブル、そこでタバコの煙を燻らせる男が口を挟んた。
「聞いたぜ、大活躍だってな。きっとイヤってほど誘いがくる」
妖精の尻尾
グレイ・フルバスター
「ルーシィ……僕と愛のチームを結成しないかい?今夜二人で」
妖精の尻尾
ロキ
「イヤ…」
「な?」
『ロキは軽い男だから辞めた方がいいよルーシィ』
「酷いじゃないか、尻尾」
『本当の事だろ』
「まぁ…傭兵ギルド南の狼の二人とゴリラみてーな女やっつけたんだろ?すげーや実際」
「そ…それ全部ナツ」
「てめェかこのヤロォ!!!」
「文句あっかおぉ!!?」
『あーもー喧嘩すんなお前ら。ルーシィ引いてっから』
掴み合った腕をほどく尻尾。
ミラが笑顔で「グレイ……服。」と言うと「あ"あ"あ"あ"っまた忘れたぁっ」と赤面して叫ぶグレイ。ナツが小さく「うぜェ」とこぼす。
それが聞こえてまたナツに掴みかかるグレイ。言い返すナツ。ロキは笑顔でルーシィに近づく。
尻尾はめんどくさくなって見守ることにした。
「てめっ」
「このっ!!」
「あ?」
床に転がって殴り合う二人をよそに、ロキはルーシィを口説こうとする。
「君って本当キレイだよね。サングラスを通してもその美しさだ………肉眼で見たらきっと目が潰れちゃうな………ははっ」
「潰せば」
手馴れた口説きにルーシィは動じない。めっずらしーい。ピュウと口笛を鳴らした。なかなか見ない光景だと観察していると、視界の隅に音を立てて光るものが入った。あ、ロキも気付いた。
「うおおっ!!!き…君!!!星霊魔道士!!?」
「?」
「ウシとかカニとかいるよ」
『その情報いらんだろ』
「な…なんたる運命のいたずらだ……!!!ゴメン!!!僕たちここまでにしよう!!!」
「何か始まってたのかしら……」
ロキはルーシィから手を離し逃げ出す。
「何あれぇ」
「ロキは星霊魔道士が苦手なの」
「はァ?」
「どうせ昔女の子絡みで何かあったのよ」
呆れた顔をして言うミラ。
『(まぁ半分間違っちゃいないからな…)』
尻尾は再びレモンティーに口を付けた。すると去ったはずのロキが焦った様子で走って戻ってくる。
「ナツ!!!グレイ!!!マズイぞっ!!!」
「「あ?」」
「エルザが帰ってきた!!!!」
「
あ゛!!!!?」
『ぶっっ!?』
ギルドが揺れた。人が歩くテンポで、また揺れる。
「オレ……帰るわ…」
『(一人称“僕”のロキがオレって言った…)げっほげっほごほ』
地響きを鳴らし現れたのは一人の女性。
キリッとした目を持ち、赤い髪を靡かせ、鎧をまとい、彼女の3倍はあるであろう大きな何かの角を片手で持ち上げている。
それを見て、みんなが冷や汗を流した。(ミラ以外は)
「今戻った。総長(マスター)はおられるか?」
『(ズドって音したズドって)』
「お帰り!!総長は定例会よ」
「そうか……」
『(誰か突っ込め)』
「エ…エルザさん…そ…その……バカでかいのなんですかい?」
「ん?これか。討伐した魔物の角に地元の者が飾りをほどこしてくれてな…綺麗だったのでここへの土産にしようと思ってな……迷惑か?」
「い…いえ滅相もない!!!」
「討伐した魔物の角……か」
「すげ…」
『(土産にすんのはいいけどどこに置くんだよそれ)』
冷や汗をかいている。(二回目)
「それよりおまえたち、また問題ばかり起こしているようだな。総長が許しても私は許さんぞ」
「な…なにこの人…」
「エルザ!!とっても強いんだ」
『(変わってねーなぁエルザ…)』
エルザに背を向け、尻尾はカウンターでレモンティーを飲み続ける。
「カナ……なんという格好で飲んでいる」
「う…」
「ビジター 踊りなら外でやれ。ワカバ 吸いがらが落ちているぞ。ナブ……相変わらずリクエストボードの前をウロウロしているのか?仕事をしろ。全く…世話がやけるな。今日のところは何も言わずにおいてやろう」
「(ずいぶんいろいろ言ってたような…)風紀員か何かで……?」
「エルザです」
なんかギルド中の空気が重くなった気がする。そんな中、尻尾は1人ルーシィの風紀員発言にツボっていた。
『……っ、……(くくくくっ…風紀員…っくく…)』
「ところでナツとグレイはいるか?」
「あい」
エルザはそんな尻尾には気付かず、お目当ての二人の所在を聞く。ハッピーは従順に二人を差し出した。
「や…やぁエルザ…オ…オレたち今日も仲よし…よく…や…やってるぜぃ」
「あ゛い」
「ナツがハッピーみたいになった!!!!」
がっしりと肩を組み手を繋いだグレイとナツ。尻尾は何度見てもこの光景に笑ってしまうし、夢にも出てくる。面白すぎる。
「そうか…親友なら時にはケンカもするだろう…しかしわたしはそうやって仲良くしてるところを見るのが好きだぞ」
「あ…いや…いつも言ってっけど…親友ってわけじゃ…」
「あい」
「こんなナツ見たことないわっ!!!」
尻尾は背中を向けたまま、噴き出すのを耐えていた。やべえにやけがとまらん。ミラも小さく笑った。
『やってるなあ』
「ナツもグレイもエルザが怖いのよ。図で説明するわね」
「ええっ!!!?てか図にする必要あるのかしら…しかも超ヘタだし…」
『ミラ?やめとけ?』
「ナツは昔喧嘩を挑んでボコボコにされちゃったの」
「まさかぁあのナツが!?」
「グレイは裸で歩いているところを見つかってボコボコに…」
「あらら…」
「ロキはエルザを口説こうとして半殺し」
ルーシィは言葉が出ない模様。言ったじゃん?ロキは軽いからやめておいたほうがいいって。
「二人とも仲が良さそうでよかった。実は二人に頼みたいことがある。仕事先で少々やっかいな話を耳にしてしまった。本来ならマスターの判断をあおぐトコなんだが、早期解決がのぞましいと私は判断した……尻尾!!!?」
このタイミングで気付かれるんかいと、名前を呼ばれた尻尾は肩を跳ねあげた。がっしゃんがっしゃん鎧の音を立てて近付いてくるエルザの迫力たるや。胸の前に手のひらを出す。エルザは止まらない。
「お前…帰っていたのか!?」
『おーうエルザ…つい先日帰ってきました…お久しぶりで…』
「お前連絡もせず1年間もどこをほっつき歩いていたんだ!!心配するだろう!!」
『いや…うんすまん!!心配かけた!!悪かったと思ってる!!続きをどうぞ!!』
勢いのままきたエルザに勢いのまま返す。合わされた両手を見てか、エルザは尻尾の肩を掴んだ両手を下ろした。
「お前は…。それならお前にも頼もう。話は聞いていたな?三人の力を貸してほしい。ついてきてくれるな」
「え!?」
「はい!?」
『あー…』
エルザが軽くため息をついて、グレイとナツに向き直り発したその言葉は、ギルドをざわめかせた。
「ど…どういう事!!?」
「あのエルザが誰かを誘うトコなんて初めて見たぞ!!」
「こんなでけェ怪物倒す女だぞ…」
「何事なんだ…!?」
「出発は明日だ。準備をしておけ」
「あ…いや…ちょっ…」
「行くなんて言ったかよ!!!」
「詳しくは移動中に話す」
話したいことだけ話して去っていく背中。尻尾はストローに口をつけ、残っていたものを喉に運んだ。
「エルザと…ナツと…グレイ…それと尻尾。今まで想像した事もなかったけど…これって、妖精の尻尾最強チームかも…」
「!!!」
ミラが震える声で発した言葉に、ルーシィが驚きで息を吸ったのが分かった。そんなわけあるか。ざわついたままのギルド。エルザが完全にギルドから離れた後、グレイが口を開いた。
「む…無理だ…こいつと一緒ってだけでうぜェのにエルザが一緒だなんてー!!!」
「こんなチームありえねえっ!!!つーか行きたくねぇーっ!!!」
「「尻尾!お前もだろ!?」」
『うるせぇ。…エルザの頼みを断れねーだろ』
ナツ、グレイに目もくれず言った尻尾に返せないふたり。
ナツは勢いよくルーシィを見て、ルーシィの髪をセットして「お前今からナツだ」と満足げに腕を組む。
「無理だって」
「あい」
エルザが力を貸せというのだ、おそらく簡単に済むような内容ではないのだろう。左目に巻かれた包帯を撫でながら、そこはかとなく感じる嫌な予感に胸をざわつかせた。
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