2

次の日、マグノリア駅。
人で賑わうこの駅で、ナツとグレイはやはり喧嘩していた。

「なんでエルザみてーなバケモンがオレたちの力を借りてえんだよ」
「知らねぇよ。つーか"助け"ならオレと尻尾2人で十分なんだよ」
「ならオマエ1人で行けよっ!!!オレは行きたくねえ!!!」
「じゃあ来んなよ!!!あとでエルザに殺されちまえ!!!」
「迷惑だからやめなさいっ!!!!てか尻尾!アンタも注意してよ!」
『めんどくさいから嫌だ』
「なんなのぉ…」

2人の喧嘩は素知らぬ顔で、尻尾は本を片手に壁に寄りかかっていた。周りから冷たい目で見られているのに自覚はある。止めるのに無駄な労力を使いたくないのだ。

「もおっ!!!アンタたち何でそんなに仲悪いのよぉ」
「何しに来たんだよ」
「頼まれたのよっ!!!ミラさんに!!!仲を取り持ってって!!!尻尾がいてもあんまり意味ないからって…ミラさんの頼みだから仕方なくついてってあげるのよ」
「本当は一緒に行きたいんでしょ」
「まさか!!てか3人の仲とりもつならアンタがいたじゃない!!うわーかわいそっ!!ミラさんに存在忘れられてるしー」
「あい」
『よく分かってんなあミラは。私、2人の喧嘩止める気ないし』
「ミラさんの言う通りっ!!」

そう言ってる間にも、ナツとグレイは睨み合い口喧嘩を続けている。内容はどうしようもなくしょうもない。ルーシィは面倒だと呟くが何かを思いついたらしく、ぱんっと手を合わせた。

「あ!!エルザさん!!!」

ビクッと体を震わせたふたり。次の瞬間には肩を組んで、「きょうも仲良くいってみよー」「あいさー」と笑っていた。

「あはははっこれ面白いかも!」
「「騙したなテメェ!!!」」
「あんたら本当は仲良いんじゃないの?」
『……っふふ…ルーシィ、GJ』
「尻尾のツボ分からないわね…」
「「尻尾笑うんじゃねぇ!!」」
『ルーシィの言う通り、仲良しだろお前ら』
「冗談じゃねえ!!何でこんな面子で出かけなきゃならねえ!!胃が痛くなってきた…」
「魚食べる?」
「いるかっ!!!」

勘弁してくれ…と呟くグレイに尻尾はにやけた顔を本で隠して『貰っとけばいいのに』とその顔をのぞき込んだ。「見えてるぞ」と本を指で倒され、尻尾はさらに笑みを深める。そこに、エルザの声がかかった。

「荷物多っ!!!!」
『いつもあんなんだよ。よぉエルザ』
「ああ。ん?君は昨日妖精の尻尾にいたな…」

エルザとルーシィがお互いに自己紹介を始める。ニヤけてんじゃねぇぞ、とグレイに小突かれた額を撫で、その光景を眺めていると、ルーシィが「危険!!!?」と驚いてる様子が目に映った。

『まぁま、大丈夫だよルーシィ。ほらエルザがいるんだし』
「ほ、ホントかしら」
「フン。なんの用事か知らねェが今回はついてってやる。条件付きでな」
「条件?」

見ると、真剣な顔のナツ。なんとなく、尻尾の心がザワついた。

「バ…バカ…!!!オ…オレはエルザの為なら無償で働くぜっ!!!」
「言ってみろ」

ナツはすぐには答えない。尻尾は持っていた本を閉じ、向かい合うナツとエルザを見守った。

「帰ってきたらオレと勝負しろ。あの時とは違うんだ」
「!!!」
「オ…オイ!!!はやまるなっ!!!死にてえのか!!?」

閉じた本を落としそうになった。ナツは強い。でもエルザに勝てる人は、うちのギルドではほんの一部の魔導士だけ。

「確かにおまえは成長した。私はいささか自信がないが…いいだろう。受けて立つ」

ナツの条件にエルザは笑っていた。髪をかきあげ、落ち着いた声でそれを快諾する。

「自信がねえって何だよっ!!!本気で来いよな!!!」
「フフ…わかっている…だが…おまえは強い…そう言いたかっただけだ。グレイ、尻尾…おまえたちも勝負したいのか?私と」

グレイは勢いよく首を横に振り、尻尾は「勘弁」とだけ答えた。
5人と一匹が乗り込んだ列車が駅をでる。揺れる車内で、先程まで闘志を燃やしていたナツはぐったりとしていた。

「なっさけねえなぁナツはよォ……うっとおしいから別の席行けよ…つーか列車乗るな!!走れ!!」
「う…」
「まいどの事だけど…つらそうね…」

息苦しそうなナツ。そう邪険にすんなよ、と言うがグレイは聞く耳を持たない。

「まったく…しょうがないな、私の隣に来い」
「あい…」
「どけってことかしら…」
『はは、そうだな。失礼するよグレイ』

座っていた席から追い出された尻尾とルーシィは、グレイに少し寄ってもらって向かいの席に座る。やれやれとため息をついたエルザは、躊躇い無くナツの腹に一発拳を打ち込み、ナツを気絶させた。

「少しは楽になるだろう」
「「…………」」
『…いい抱き枕だなー』
「潰さないでね」

尻尾は目を逸らして膝の上のハッピーを抱き締めた。
列車は音を立てて進む。ルーシィがナツ以外の魔法を見た事がない、という話を始めたことから、それぞれの使う魔法の話が始まった。

「エルザの魔法はキレイだよ。血がいっぱい出るんだ、相手の」
「キレイなの?それ」
「たいした事はない…私はグレイの魔法の方が綺麗だと思うぞ」
「そうか?ふん!!!」

グレイは左手の掌の上に右手の拳を重ね、小指から拳を開いていく。冷気を発しながら、開いた両手の中には、氷で作られた妖精の尻尾の紋章が浮いていた。

「わあっ!!!」
「氷の魔法さ」
「氷ってアンタ似合わないわね」
「ほっとけっての」
『綺麗だなこれ。売れる?』
「勝手に売ろうとすんじゃねえ」
「氷!火!!あ!!!!」

ルーシィが声を上げる。

「だからアンタたち仲悪いのね!!!単純すぎてカワイー」
「そうだったのか?」
『近いものはあるよな』
「………どうでもいいだろ!?そんな事ァ。つーかそろそろ本題に入ろうぜエルザ」

否定せず話題を変えたグレイ。エルザはそれもそうだと、3人を誘うに至った経緯を話し出す。
仕事の帰り、オニバスにて魔導士の集まる酒場に寄ったエルザ。そこで、"ララバイ"が封印されており、"カゲちゃん"という男が封印を解いて"エリゴール"の元へ持って帰る、という話を聞いたらしい。

「ララバイ?」
「子守歌…眠りの魔法か何かかしら」
「わからない…しかし封印されているという話を聞くと、かなり強力な魔法だと思われる」
「話が見えてこねえなァ……得体の知れねえ魔法の封印を解こうとしてる奴等がいる…だがそれだけだ。仕事かもしれねえしなんて事ァねぇ」
「そうだ…私も初めはそう気にはかけていなかった。"エリゴール"という名を思い出すまではな」
『…"死神"だな。駅に着いたぞ、降りよう』
「そうだ。魔導士ギルド鉄の森のエース、死神 エリゴール。暗殺系の依頼ばかりを遂行し続けついた字だ。本来、暗殺依頼は評議会の意向で禁止されているのだが、鉄の森は金を選んだ」

結果、鉄の森は6年前に解散し、今は闇ギルドとして活動している。

「…帰ろっかな…………」
「でた」
『前もあったのか?』
「マカオを助けに行った時にね」
「不覚だった…あの時エリゴールの名に気づいていれば…全員血祭りにしてやったものを…」
「ひいいっ」
『エルザァ、殺気殺気ー』

上を見上げながら、そういや、オニバス駅で降りたのは初めてだなぁ、と思った。グレイはエルザに納得の意を示す。

「その場にいた連中だけならエルザ1人で何とかなったかもしれねえ。だがギルドひとつまるまる相手となると…」

エルザは頷く。あぁなるほどな、読めたよエルザ。

「奴等は"ララバイ"なる魔法を入手し何かを企んでいる。私はこの事実を看過することはできないと判断した。鉄の森に乗り込むぞ」
「面白そうだな」
『報酬が無いのが残念だ』
「来るんじゃなかった」
「汁出すぎだって」
「汁って言うな」
「で…鉄の森の場所は知ってるのか?」
「それをこの街で調べるんだ」
「あれ?やだ…嘘でしょ!!?ナツがいないんだけどっ!!!」
『えっ』

尻尾はルーシィを振り返る。そして辺りを見回したが、あの目立つ桜色の頭はどこにも見えない。まじか、と呟いたら、先頭にいたエルザが響く声で叫んだ。

「なんという事だっ!!!!話に夢中になるあまりナツを列車においてきたっ!!!あいつは乗り物に弱いというのにっ!!!私の過失だっ!!!とりあえず私を殴ってくれないかっ!!!!」
「まあまあまあ」
『なあ、ハッピーは相棒なのに、ナツがいなかったの気づかなかったよな』
「あい、尻尾に抱っこされてたから気づかなかったです」
『私のせいかよ』

尻尾はハッピーを抱き締める力を強くする。痛いよぉ尻尾、ともがくハッピー。その間にエルザは駅員に列車の停止を要求していた。

「尻尾は無関心だし…妖精の尻尾の人はやっぱ、こーゆー感じなんだぁ…」
「オイ!!オレはまともだぞ」
「露出魔のどこが!?」

うりうり、とハッピーで遊んでいると、エルザから「ハッピー」の声。これ幸いとハッピーは尻尾の腕から抜け出す。

「あいさー!!!」
『あっ逃げた』

下ろされた緊急停止信号のレバー。ベルが鳴り響き、駅がざわめきで満ちた。

「ナツを追うぞ!!!すまない、荷物をホテル・チリまで頼む」
「誰…アンタ…」
「尻尾」
『へーい。すみませんねぇ。これ、お心ばかりですけど受け取ってください』

迷惑料です。いや…持っていかないし…。いやいやそんな、受け取ってください。そんなやりとりをする尻尾を見て、慣れてる…とつぶやくルーシィ。

「もう…めちゃくちゃ…」
「だな…」
「服!!!なんで!!?」
『グレイ服着て。エルザ!!魔導四輪借りれたぞ!!!』
「いつの間に!?」
「さすがだな。行くぞ!!!」

手際がよすぎる!とルーシィは叫んだ。エルザが運転席に座る。後ろに乗り込んだルーシィと尻尾、何故かグレイは屋根の上に登った。およそ乗り物とは思えない音を立てて魔導四輪車は爆走する。しばらくすると、先程乗っていた列車が小さく見えてきた。

「見えてきた。あの列車だ」
『ナツ生きてっかなぁ。どう運びだそうか』
「追いついて飛び乗ればいい」
『そのために上に乗ったんか?』

窓から身を乗り出してグレイを見上げた時、何かがガシャンと割れる音が聞こえた。

「ナツ!!?」
『は!?』
「なんで列車から飛んでくるんだよォ!!!」
「うぉあっ」
「どーなってんのよ!!!」
『グレイ危な…!』

鈍い音に、一瞬だけ目を瞑った。悲鳴が続く。

「ナツ!!!無事だったか!!?」

ぶつかった2人は勢いのままに飛ばされたらしい。転がる2人に駆け寄った。

「痛ーーっ!!!何しやがるっ!!!ナツてめえっ!!!」
「今のショックで記憶喪失になっちまった!!誰だ、オメェ。くせぇ」
「何ィ!!?」
「ナツーごめんねー」
『悪い悪い』
「ハッピー!!エルザ!!ルーシィ!!尻尾!!ひでぇぞ!!!オレをおいてくなよっ!!!」
「すまない」
「ごめん♡」
「おい…随分都合のいい記憶喪失だな…」
『ナツにしては頭使った皮肉だな』
「何に感動してるんだお前は」

え、だってそうだろ。グレイの方を見た瞬間にガシャッと言う音がして、ナツがエルザの硬い胸で抱き締められた事を悟る。無事でよかった、というエルザに無事なモンかとナツが叫んだ。

「列車で変な奴にからまれたんだ!!!何つったかな?アイ…ゼン…バルト?」

固まる4人。ナツの左頬に、エルザの平手が入った。

「バカモノぉっ!!!!」

先程、ナツとグレイがぶつかって飛んで行った位の距離を、今度はナツだけが飛んで行った。

「鉄の森は私たちの追っている者だ!!!」
「そんな話初めて聞いたぞ…」
「なぜ私の話をちゃんと聞いていないっ!!!」

理不尽に怒られてるナツ。他はそりゃあんたが気絶させたからな、と思うが、思うだけ。口に出したら怖いのは、多分ルーシィも分かっているんだろう。

「さっきの列車に乗っているのだな。今すぐ追うぞ!!!どんな特徴をしていた?」
「あんまり特徴なかったなぁ。なんかドクロっぽい笛持ってた。三つ目があるドクロだ」
「なんだそりゃ趣味悪ィ奴だな」
『闇ギルドにはお似合いじゃないか』

エルザが魔導四輪のプラグを手首につけた。尻尾は魔導四輪に乗り込んで、足が止まったルーシィに声をかける。

『ルーシィ?』
「三つ目のドクロの笛…」
「どうしたのルーシィ」
「ううん…まさかね…あんなの作り話よ…でも…もしもその笛が呪歌だとしたら…子守歌(ララバイ)…眠り…死…!!!」

ルーシィが顔を上げる。

「その笛がララバイだ!!!!呪歌(ララバイ)…死の魔法!!!!」
「何!?」
「呪歌?」
「あたしも本で読んだことしかないんだけど…禁止されてる魔法の一つに呪殺ってあるでしょ?」
「ああ…その名の通り対象者を呪い、"死"を与える黒魔法だ」
「ララバイはもっと恐ろしいの」

笛の音を聞いた者全てを呪殺する…"集団呪殺魔法"呪歌(ララバイ)!!!!

「集団呪殺魔法だと!!?そんなものがエリゴールの手に渡ったら…おのれ!!!奴等の目的は何なんだ!!?」
『呪殺、か』
「あ?」
『なんもねーよ。地獄耳かテメーは』

魔導四輪車は進む。尻尾は景色が流れていくのを眺めながら、ぼんやりと物思いに耽っていた。


- 7 -

<< >>

しおりを挟む