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「おいナツてめぇいつまで尻尾にくっついてんだよ、離れろ」
「お前が離れろ氷野郎」
「あぁん!?」
『なんだ2人とも、相変わらず喧嘩っぱやいんだな』

笑う尻尾に和やかな空気が流れていたのもつかの間。今にも殴り合いに発展しそうな2人の喧嘩を、尻尾は気にも留めない。

「なんであの状況で平気なのかしら…」
「ナツぅぅぅぅ!」
「うるせぇグレイくたばれ!!!」

ルーシィが不思議そうに呟く。気が付けば喧嘩は再開されていた。
ナツがグレイを吹っ飛ばし、吹っ飛ばされたグレイはギルドのメンバーに突っ込みそこからまた喧嘩が広がっていく。

「なんでこーなるの!?」
「おふっ」
「きゃーっ!!!」

ルーシィが叫んだところに、ナツに吹っ飛ばされたらしいグレイが突っ込んできた。それも全裸。

「へっへ〜ん」
「あーーーっ!!!オレのパンツ!!!」
「こっち向くなー!!!」
『わーグレイそれ最低だよ』
「!!?お嬢さんよかったらパンツを貸して‥」
「貸すかーーっ!!!」
『今の一番最低』

尻尾の最後の一言にキたようで、グレイはルーシィに殴られたあと、床にうつぶせたまま起きなくなった。

「やれやれ‥‥デリカシーのない奴は困るよね。ところで君どこのモデル?」
「なにコレ!!?」

気付けばロキはちゃっかりルーシィを姫抱きにしているし、

「漢は拳でぇーーーーーーーーっ!!!」

エルフマンは大声で叫びながら登場するし、

「邪魔だっての」

はすぐにナツが殴り飛ばした。
モノが飛び交い、バラバラになっていく机。そんな状況に耐えかねた、とある女が動いた。

「あーーうるさい。おちついて酒も呑めないじゃないの…あんたらいい加減に、‥しなさいよ‥‥」

カードを取り出し、発動させようとするカナ。
すると、次々に…

「アッタマきた!!!!」

左の手の平に右手の拳を当てて、冷気を漂わせるグレイ。

「ぬおおおおおおっ!!!!」

腕を違うモノに作り換えようとするエルフマン。

「困った奴等だ‥」

指輪に手を当て、光らせるロキ。

「かかって来いっ!!!!」

両腕から焔を出したナツ。


「魔法!!!?」
『ほんとに変わらんな』
「これはちょっとマズイわね」

ケンカは各々が魔法を繰り出そうというところまで発展し、尻尾が呆れ、ミラが言葉を発した直後。

「そこまでじゃ」

ズシィという音と共に、黒い影が現れた。


「やめんかバカタレ!!!!」

「でかーーーーーーっ!!!!」


ギルドの天井まである大きな影が、ギルド内の睨み合う魔導師たち全ての動きを止めた。
ルーシィはひたすら、そのでかさと周りのケンカが急に止まったことに驚く。

「あら‥‥いたんですか?総長(マスター)」
「マスター!!?」

「ち」
「フン」
「びっくりしたねー」
「ねー」
「酒」

喧嘩を止められた魔導士たちは、苛立ちを表しながらも素直に下がる。が、ナツはそうはいかない。

「だーっはっはっはっ!!!みんなしてビビリやがって!!!この勝負は俺の勝」

ぐちゃ。叫んだナツはあっさり潰されてしまった。……若干聞きたくない音だった。マスターはこちらに近づき、尻尾を視界に捉える。

「……尻尾か」
『うす。ただいまと、お久しぶりですマスター』
「今回は長かったのぅ」
『あー‥はい、少々長旅を』
「うむ、無事で帰ってきたならなによりじゃ………む、新入りかね?」
「は‥はい‥」
「ふんぬぅぅぅ‥」

マスターは尻尾に声をかけた後、隣にいる見慣れない金髪の少女に声をかけた。あたりには地響きがこだまする。
ルーシィは相変わらず口をパクパクさせて怯えている。無理もないと思うが…。

『怖がらなくていーよ、ルーシィ。マスター、怒ってるわけじゃないから』
「え?え?」
『まぁ見てなよ』

楽しそうに笑った尻尾。ルーシィがマスターに目を向けると、目前に、小さくなったマスターの姿があった。

「ええーーっ!!?」
「よろしくネ」

わずかに妖精の尻尾の紋章が見える服を着、触角?のようなしましまの帽子。しゅたっ、と片手を挙げて挨拶したマスター……、
妖精の尻尾の総長(フェアリーテイルのマスター)、マカロフ。

マスター・マカロフは、その場からしゅばっと立ち去り、回転しながら2回の手摺に着地…しようとするが、後少しのところで頭をぶつけ、痛みに悶えた。尻尾は思わず吹き出す。それから何事もなかったかのように、今回の“始末書”をパタパタと見せる。


「ま〜た、やってくれたのう貴様等。見よ評議会から送られてきたこの文書の量を」
「(評議会‥‥魔道士ギルドをたばねてる機関じゃない)」
『よく聞いてなよ、面白いから』
「え?」

「まずは‥グレイ」
「あ?」
「密輸組織を検挙したまではいいが‥‥その後街を素っ裸でふらつき、挙句の果てに干してある下着を盗んで逃走」
「いや‥‥だって裸じゃマズイだろ」
「まずは裸になるなよ」
『てゆーか下着盗むってどこの変態だよ』
「尻尾‥‥!!!」

まあ、グレイのあれは癖だから仕方は無いが。人様のものを、ましては下着を盗むのはどうかと思う。つらつら尻尾が口にする中、はぁーーーーー、と長い溜息をついたマスターは、続いて文書を読み上げる。


「エルフマン!!貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」
「“男は学歴よ”なんて言うからつい‥‥」
『エルフマン筋肉馬鹿だもんね』
「尻尾‥‥‥‥」

あははっと笑い飛ばした尻尾を横目に、ふるふると首を振るマスター。

「カナ・アルベローナ、経費と偽って某酒場で呑むこと大樽15個しかも請求先が評議会」
「バレたか……」
『バレなかった方がすごくない?』
「ロキ‥‥評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償がきておる」
『どこで引っ掛けたんだよ』
「そしてナツ‥‥」

がっくんと首を垂らした。

「デボン盗賊一家壊滅するも民家7軒も壊滅、チューリィ村の歴史ある時計台倒壊、フリージアの教会全焼、ルピナス城一部損壊、ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止、ハルジオンの港半壊。」

呆れたようにいうマカロフ。
これまでは一つ一つ丁寧に突っこんでいた尻尾も、流石にこればかりは対処しきれない。最早怒りすらこみ上げてくる。

『ナツ‥‥加減覚えろって言ったよね?うん言った、確かに私、ナツに向かって言った筈なんだけど』
「うぐ………」
『ほんっと、どこに迷惑かけると思ってんだ、よっ!!!!』

チョップ、と後付けしてナツの頭に手刀を打ち込んだ尻尾。
軽く言ってはいるが、尻尾は”馬鹿力”というもので。鈍い音と一緒にナツは崩れ落ちた。

『全っ然学習しねぇなナツ。てかお前自覚してやってんじゃないだろうな?』
「………………」
『無言は肯定とみなすぞ、ナツ』
「まぁ待て。尻尾」
『んぁ?』
「ナツの壊した物件分の金を置いていったらしいな。感謝状が来ておる。それと、トルク村の遺跡に居座っていた盗賊共を全滅。村長より感謝の物が来とるぞ。
………しかし、その遺跡を全壊。管理人が問いただそうとしたところ殴って逃走。管理人は全治一週間の怪我。
喧嘩をふっかけてきたゴロツキ魔導士を瞬殺…まではいいが、隣の肉屋の商品約半分を吹っ飛ばしてそのまま逃走。請求書が来ておる。
また、レイジ老師の孫娘がお前に惚れたそうじゃ。会いたがっとるらしい……お前一体何したんじゃ……」

長々と述べた後、手をついておよよよ……となったマカロフ。
尻尾は少しバツが悪そうな顔をして、目線をあさっての方向に向ける。

『マスター……上げた後に落とすの止めてもらえませんかね』
「どっちも同じじゃ」
「なんだよ尻尾だって変わんねーじゃねぇか!!!」
『お前よかマシだ!!!』

ギャーギャー騒いでいる少し離れたところで、ルーシィ達は。

「レイジ老師の孫娘に…………惚れられた!?」
「ふふ、さすがは尻尾ねっ」
「え!?尻尾さんって男の人だったんですか!?」
「あら、尻尾はれっきとした女の子よっ!でもね、なんというか…男前なのよね!小柄だけれど」
「そ、そうなんですね…?(小柄だけど…)」
「ふふ、だから尻尾、たまに女の子引っ掛けて帰ってくるのよねぇ。本人にはそんな気ないんだけど、女の子達が着いてきちゃうのよ」

モテモテよね〜。小さいけどっ。というミラの話し方は、語尾にハートがついてるのが想像できる。誉めているのかいじっているのか。
ミラはクスクスと笑いながら尻尾を見た。
ナツと言い争いをしていた尻尾は、ハッと思い出したかのようにナツを投げ捨て2階のマスターへと視線を向けた。

『って!!!ちげーんだよマスター!!!!トルク村んとこの管理人には流石に悪かったから賠償金置いてきたし肉屋んとこは商品買って帰ったしレイジ老師んとこのお嬢さんは…絡まれてたとこ助けてやったの。むしろ感謝して欲しいんだけど』
「……コホン。とりあえず尻尾はいいだろう。次じゃ」

マカロフはペラ、とページをめくる。
投げ捨てられたナツは未だ転がったままだ。

「アルザック、レビィ、クロフ、リーダス、ウォーレン、ビスカ…etc.」
「オレもか…」

次々と名前を呼ばれ、それぞれがまずい、といったような顔をする。
マカロフは、体を震わせて言った。

「貴様らァ…ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ……」

ギルド内は静まり返った。誰一人顔をあげようとしない。尻尾は1人、顔をあげてマカロフを見つめていた。

「だが…評議員などクソくらえじゃ」

マカロフは言ったと同時に火を使って、請求書を燃やした。

「え?」

ルーシィの顔が驚きに染まる。
マカロフはそのまま請求書をポイと投げ捨て、「よいか…」と言葉を紡ぎ出す。ナツは炎に飛びついた。

「理を超える力はすべて理の中より生まれる。
魔法は奇跡の力なんかではない。
我々の内にある"気"の流れと、
自然界に流れる"気"の波長があわさり、
初めて具現化されるのじゃ。

それは精神力と集中力を使う…
いや、己が魂すべてを注ぎ込む事が魔法なのじゃ。

上から覗いてる目ン玉気にしてたら魔道は進めん。
評議員のバカ共を怖れるな。

自分の信じた道を進めェい!!!!

それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士じゃ!!!!


…オオオオオオオオオオ!!!!

全員が盛り上がり、笑いだし、活気づくギルド。
食べ物は投げるわ酒ビンは投げるわで酷い状況だが、笑い声は絶えなかった。

「じゃあナツが火竜(サラマンダー)って呼ばれてたのか!?他の街では」
『なんだ、知らなかったのか?結構有名だぞ』
「そうなのか?ま、確かにオメーの魔法にはそんな言葉がピッタリだな」
「ナツが火竜ならオイラはネコマンダーでいいかなぁ。ねぇねぇ」
「マンダーって何よ…」
『いいじゃんネコマンダー。可愛いし』
「わーい!」
『しっかし相変わらずよく食うなーナツは。つーかこのファイアパスタってどう作ってんのミラ』
「内緒っ」
『ちぇー、』
「ふふ。ルーシィ、ここでいいのね?」
「はいっ!!!」
『お、』

ポンッ

「はい!!これであなたも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員よ」
「わぁっ」
『よかったな』
「はいっ!ナツー!!!見てー!!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマーク入れてもらっちゃったぁ」
「!よかったなルイージ」
「ルーシィよ!!!!」
『ナツ、お前が連れてきた子の名前間違えてどうする』

尻尾はチョップを繰り出した!!

「尻尾、頼むから加減しろっ….」
『してるつもりだ』

ふん、と鼻を鳴らす尻尾。ナツは痛みに悶え、床を転がる。

「おまえ、あんな可愛い娘どこで見つけてきたんだよ」
「いいなぁ〜うちのチーム入ってくんねえかなぁ」
『ワカバ、穴という穴から煙出すのやめろよ…』

そう言うと「面白いだろ?」と言って悪乗りするワカバ。どこがと溜め息をつくと、ナツが顔を上げて立ち上がった。

「ナツ、どこ行くんだ?」
「仕事だよ金ねーし」
『ナツの金欠も相変わらずかぁ』
「うっせーぞ尻尾!!一緒行くぞ!!」
『わりーな、パス。帰って来たばっかなんだ、休ませてくれー』
「ちぇっ…じゃあ次、行こうぜ」
『わかったよ』

そう言うと満足げな顔でリクエストボードに向かったナツ。優しげな顔でそれを見送った尻尾は、だらだらしている目の前のおじさん魔導士を見た。

『アンタらも仕事しなよおっさんども』
「俺達は一昨日行ってきたからい〜のよ」
「そーそー。それよりナツ、やっぱ変わってねぇなー」
『お前らずっと一緒にいただろ。んな今更な』
「そーじゃなくてよォ。お前がいることに関係してんの。1年前だって仕事行こう仕事行こうってよく誘われてたじゃねぇか」
『そーだっけ?』

やんややんやと騒いでいると、突如ズシィと鈍い音が響いた。
音の方を見ると、リクエストボードに入ったヒビと、そこに入り込んだ依頼書。

「オイイ!!ナツ!!リクエストボード壊すなよ!」

視線を右にそらすと、表情が伺えないナツが荷物を持って外に出ようとしているらしかった。ナブの声も聞こえてないらしい。ハッピーも慌ててその後をついていく。

「マスター…ナツの奴ちょっとヤベェんじゃねえの?」
「アイツ…マカオを助けに行く気だぜ」
「これだからガキはよォ………」
「んな事したって、マカオの自尊心がキズつくだけなのに」

ナツに言いたい放題言う男どもに、少しだけ冷たい目を向けた尻尾。だが特に何も言わず、目線を元に戻す。

「ど…どうしちゃったの?アイツ…急に……」

ルーシィは先程までのナツとの変わりように少し驚いていた。

「…ナツもロメオくんと同じだからね」
「え?」
「自分とだぶっちゃったのかな」

ルーシィからは見えないが、悲しげな顔を浮かべるミラ。近くにいる尻尾にもその言葉は聞こえていた。

「ナツのお父さんも出ていったきりまだ帰って来ないのよ。お父さん…っていっても育ての親なんだけどね。しかも、ドラゴン」

ガタン、と音を立てて椅子から転げ落ちたルーシィ。大袈裟だな…少し離れたところから見て尻尾は思う。

「ドラゴン!!?ナツってドラゴンに育てられたの!!?そんなの信じられる訳…」
「ね」

ミラはクスリと笑う。

「小さい時そのドラゴンに森で拾われて…言葉や、文化や…魔法なんかを教えてもらったんだって。でも、ある日ナツの前からそのドラゴンは姿を消した」
「そっか…それがイグニール…………」
「ナツはね…、いつかイグニールと会える日を楽しみにしているの。そーゆートコがかわいいのよねえ」
「あはは」

カラン。
氷が音を立てる。

「私たちは…フェアリーテイルの魔導士たちは………みんな…みんな何かを抱えてる… …キズや…痛みや…苦しみや…、私も…」
「え?」
「ううん。何でもない」

一瞬見せた顔はどこかに消え、いつもと同じ明るい笑顔を見せたミラ。ドンチャンドンチャン騒ぐギルドの中で、その空間だけが静かで。
ルーシィは黙りこむ。尻尾も口を開かなかった。


**


後日、マカオがかなりの傷を負ってギルドに来た。話を聞いたら、ルーシィも助けに行ったとかなんとか。ロメオが嬉しそうに笑ってて、ナツがした事は間違いじゃなかったんだと思って、少しだけ安堵した。

また後日、ナツ、ハッピー、ルーシィが変態公爵エバルーの屋敷にいき、なかなかの活躍をしたらしい。ナツの話によると「ルーシィの色気全然きかねぇ」だそうだ。まぁあいつ、ちょっとずれてるって話聞くしな…。
その間私はレビィたちと一緒に仕事に行ってたんだけど、帰ってきたらナツに「なんでオレとは行かねぇんだっ!!!」って怒られた。お前ルーシィと行ってたじゃねぇか。
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