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オニバス駅の次の停車駅、クヌギ駅に着いた尻尾たちは、鉄の森連中が列車を乗っ取ったことを知った。

『大胆なことするなぁ』
「馬車や船とかならわかるけど列車って…」
「あい…レールの上しか走れないし、奪ってもそれほどのメリットないよね」
「ただし、スピードはある」

上からバサッという音が聞こえた。

「何かをしでかす為に奴等は急がざるをえないという事か?」
「なぜ脱ぐ」
『飛んでいっても知らんぞ』

窓の縁に座り、グレイが脱ぎ捨てた服を回収して後ろから投げつけた尻尾。さらに服を脱ごうとするグレイの手を止め、服を着るのを確認して車内へ戻る。

「もう軍隊も動いてるし捕まるのは時間の問題なんじゃない?」
「………だといいんだがな………」
『念の為に先の駅まで行くか?』
「そのつもりだ。しっかり捕まっておけ!」

気がつけば街中を走っていた。

『エルザ、命あるものはひかないでね』
「善処する」

曲がり角でスピードを落とさず曲がる魔導四輪。普通なら聞こえない音がタイヤから鳴っていた。

「エルザ!!とばしすぎだぞっ!!!SEプラグが膨張してんじゃねーか」
「あの笛が吹かれれば大勢の人が死ぬ…。音色を聴いただけで人の命が消えるてしまうんだぞ」
「わかってっけど奴等の目的もはっきりしてねえし…一戦交える可能性もある。そんなにスピード出したらいざって時におまえの魔力が枯渇しちまうぞ」
「構わん。いよいよとなれば棒切れでも持って戦うさ」
『構うわ。SEプラグよこせ』
「!」
『ギルドまるまる1つが相手って言ったのエルザだろうが。相手の大将はエリゴールだぞ、誰がやることになるかは分からんが万全を期しておくに越したことはない』
「フ…。おまえたちもいるんだ。問題はない」
『あのなぁ…』

SEプラグを自分の腕にはめ、そのまま座り込む。正面では絶賛車酔い中のナツが窓の外まで身を乗り出し、ルーシィがそれを支えていた。

「ルーシィ、変、魚、おいしー、ルーシィ、変」
「変って💢 あ!!」

ルーシィが見ている方向に目を向ける。駅の建物と、そこから立ちのぼる煙が見えた。

「何だあれは…」

オシバナ駅の前は人で溢れていた。駅員はスピーカーで列車の脱線事故を原因として、駅の封鎖を案内していた。

「行くぞ!!」
「でも封鎖って」
「いちいち聞いてられっかよ」
「うぷ」
「人酔いしてんじゃねえ!!!…尻尾はどこいった!?」
『後ろだ』
「どわっ!!!驚かすんじゃねえよ」
『人混みを進むにはかき分ける人の後ろにいるのが丁度いいんだ』
「オレを使うな!!!」

人混みの中で騒いでる間にエルザは駅員を見つけだし、駅内の様子を聞いては頭突きをくらわしていた。妖精の尻尾が苦言を呈される原因の一つは絶対にエルザだ、尻尾はそう思う。本人はあれで真面目に考えた結果なのだから、どうしようもない。、

「即答できる人しかいらないって事なのね」
「だんだんわかってきたろ?」
『つくづく恐ろしい人だよな…』

エルザの行動にに冷や汗を流す3人。ルーシィはナツを背負っていることに疑問を呈すが、3人と1匹は耳を貸さず駅の中へ入ることを決めた。
駅内に人影はない。奥へ進む間に、軍の小隊が突入して戻ってきていないこと、テロリストも出てこないから中で戦闘が起こっているであろうことをエルザに聞かされる。ホームに続く階段。そこには軍の小隊であろう人達が血を流し倒れていた。

「ひいいっ!!!」
「全滅!!!」
「相手はひとつのギルド、すなわち全員魔導士。軍の小隊ではやはり話にならんか…」
「急げ!!!ホームはこっちだ!!!」

さらに奥へ。開けたホームに出た時、相見えるは鉄の森だった。

「やはり来たな。妖精の尻尾」

エリゴールは列車の上に座っている。その前に、ざっと50人。

「待ってたぜぇ」
「貴様がエリゴールだな」

空気は一触即発。向こうはエルザに気づいたらしい。後ろではルーシィが必死にナツを起こしていた。

「ナツ起きてっ!!!仕事よ!!!」
「無理だよっ!!!列車→魔導四輪車→ルーシィ、3コンボだ」
「あたしは乗り物なのっ!?」
『ほらルーシィコントやってないで立って』
「なんであたし!?」
「ハエがぁ〜おまえらのせいで…」

黒髪をひとつに束ねた男がこちらを睨みつける。尻尾はにやにや笑いながらルーシィを茶化した。

「てめぇは何を笑ってやがる!!」
『いやちょっと』
「貴様らの目的は何だ?返答次第ではただでは済まさんぞ」
「遊びてぇんだよ。仕事も無ェし暇なモンでよォ」

鉄の森連中はそれを聞いて汚く笑った。風の魔法で宙に浮いたエリゴールは、「まだわかんねぇのか?駅には何がある」と問う。

「駅?」

宙を飛び続けるエリゴール。答えないこちらに顔色も変えず、「ぶーー」と言い放った。コツン。エリゴールが手の甲を当て音を鳴らしたのは、駅の拡声器。

「ララバイを放送するつもりか!!!?」
『何っ!?』
「ふははははっ!!!!この駅の周辺には何百…何千のヤジ馬どもが集まってる。いや…音量をあげれば町中に響くかな…死のメロディが」
「大量無差別殺人だと!?」

エリゴールは高々に話す。これは粛清だと。権利を奪われた者達からの、権利を掲げて生活を保全している者への罰を、死神が与えに来たのだと。"死"という名の、罰を。

「そんな事したって権利は戻ってこないのよっ!!!てゆーか元々、自分たちが悪いってのに…あきれた人たちね」
「ここまで来たらほしいのは"権利"じゃない、"権力"だ。権力があれば全ての過去を流し、未来を支配する事だってできる」
「アンタバッカじゃないのっ!!!」

ルーシィが叫ぶ。男が構えたのが見えて、戦闘態勢をとった。

「残念だなハエども。闇の時代を見る事なく死んじまうとは!!!」
「きゃあ!!」

男の黒い影が伸びてルーシィに襲いかかる。まずい、間に合わない!!

『ルーシィ!』
「やっぱりオマエかぁあぁぁあっ!!!」

ナツの炎が影を断ち切った。安堵して、尻尾はほっとため息をつく。

「今度は地上戦だな!!!」

復活したナツ。口元を緩めた尻尾は前を向いて敵を見据えた。その時一瞬だけ見えた、安心したグレイのアホ面に笑いそうになった。

「こっちは妖精の尻尾の最強チームよ。覚悟しなさい!!」

睨み合い、お互いを牽制し合う。空中でエリゴールが笑った。

「後はまかせたぞ。オレは笛を吹きに行く。身のほど知らずのハエどもに…鉄の森の…闇の力を見せてやれぃ」
『あ゛?』

そう言い放つと、ガラスを割りその場から立ち去った。

「逃げるのか!!エリゴール!!」
「くそっ!!!向こうのブロックか!?」
「ナツ!!グレイ!!2人で奴を追うんだ」
「「む」」

ナツとグレイ、2人の声が重なった。

「おまえたち2人が力を合わせれば、エリゴールにだって負けるハズがない。ここは私と尻尾とルーシィでなんとかする」
「なんとか…ってあの数を女子3人で?」
『ダイジョーブダイジョーブ。』

へらりと笑った尻尾。ルーシィの顔は引きつったまま。尻尾は自らの左目を撫でて呟いた。

『いざという時の奥の手もあるしな』

エルザの話を聞かず睨み合っているナツとグレイを見る。エルザに一喝され、エリゴールを追いに走り去っていった。さながらハッピーのようであった。ルーシィが「最強チーム解散!!」と言ったのが聞こえて、『さっき覚悟しろって言ったのにな』と笑う。

「2人逃げた」
「エリゴールさんを追う気か?」
「まかせな。オレが仕留めてくる!!!」
「こっちも!!!あの桜頭だけは許せねえ!!!」

ナツとグレイを追い、2人消えた。だが元々の人数が多いため少なくなったと感じることは無く。

「こいつ等片づけたら私たちもすぐに追うぞ」
「うん」
『はいよ』
「女二人とチビで何ができるやら…それにしても二人ともいい女だなァ」
「殺すにはおしいぜ」
「待て、さっき女三人と聞こえた」
「とっつかまえ売っちまおう」
「まてまてっ妖精の脱衣ショー見てからだっ」

ニヤニヤと男達が笑う。尻尾の顔が凄んだ。

「下劣な」
『誰だチビっつったの』
「かわいすぎるのも困りものね」
「ルーシィかえってきてー」
「これ以上妖精の尻尾を侮辱してみろ。貴様等の明日は約束できんぞ」

エルザは魔法剣を取り出した。

「剣が出てきた!!魔法剣!!!」

この世界では魔法剣を扱うものは珍しくはない。敵も数名が魔法剣を手にエルザに襲いかかる。エルザはそれを物凄いスピードで薙ぎ倒していき、遠距離魔法に槍、双剣、斧と次々に魔法剣を"換装"する。

「換装?」
「魔法剣はルーシィの星霊と似てて別空間にストックされてる武器を呼び出すって原理なんだ。その武器を持ち換える事を換装っていうんだ」
「へぇ〜…すごいなぁ」

次々に倒されていく仲間を見て、複数の男がこちらに襲いかかってきた。

「くっそ…!こっちのチビだ!」
『またチビっつったな。重力操作、』

標的にされた尻尾は掌を胸の前で合わせる。

『="沈(シェン)"!!!』

そして両手を地に付けた。2,3人の男がその場に沈む。


「?聞きなれない言語…そういえば尻尾の魔法については聞いてなかったけど…」
「あい!尻尾の魔法は重力魔法だよ。人とかものとかの重力を操れるんだ!ちなみにあれは東洋の言葉だよ」
「へぇ…」
『制限アリだけどねー』
「くそ…!だがこれなら落とせねーだろ!!!」

遠くから聞こえた声と、飛んできた魔法。

『"落(ラウ)"』

尻尾はその魔法を、文字通り落とした。

「魔法の重力も操れるの!!?」
『その通り。もっかい"沈(シェン)"!』
「すご…」
「エルザと尻尾のすごいトコはここからだよ」

魔法を飛ばした男とその周辺が沈みこんだ。

「まだこんなにいるのか…面倒だ。一掃する」
『んなら私も』

エルザの鎧が剥がれていく。尻尾は両掌を合わせた。

「騎士(ザ・ナイト)!!!!」
「うわぁ」
「おおおっ!!!」
『重力操作="零(リィン)"!!!』

合わせた尻尾の手のひらから漏れ出す光。それと同時に敵の体が光り、1人、また1人と地上から足が離れる。

「うわああっ!!」
「体が浮いて…!!!」
『エルザ今だ!!!』
「循環の剣(サークルソード)」

エルザの剣が円を描いた。空中に浮いた者達に逃げ場はなく、次々と斬られていく。男が1人向かってきたが、エルザはそれを一撃で仕留めた。

「すごぉぉーい!!!」
『さすがエルザ』

魔法を解除しエルザに近寄ると、男が1人逃げていくのが見えた。

「エリゴールの所に向かうかもしれん。ルーシィ追うんだ!!」
「えーっ!!?あたしがっ!!?」
「頼む!!」
「はいいっ!!!」
『頼む態度ではねーな』

ケラケラ笑って走っていくルーシィを見送った尻尾。エルザが換装を解いたのを見て、笑うのをやめた。

『魔導四輪の飛ばしすぎだな』
「後半はお前の魔力だろう」

呼吸を整え、すぐさま歩き出したエルザ。尻尾は彼女の後を追う。

『?どこいくんだ』
「入口だ。街の人たちを避難させなければ」
『…パニックになるぞ』

そう言いつつも、尻尾はエルザを止めなかった。
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