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ホームに到着してすぐ、男を問いつめた2人は、とんでもない事実を耳にする。

『本当の狙いはマスターたちだったのか…!』
「じっとしている暇はないな。おい、駅を包んでいる風の解き方を教えろ」
「知らねぇんだよ…」
『知らねぇじゃねえ。やれ』
「む…無理だって…魔風壁の解除なんて…オレたちができる訳ねえだろ…」

エルザはボロボロになった男に乗っかり胸ぐらを掴んでいる。尻尾はそれを見下ろしていた。男の態度に舌を打つ。そこに別の声が響いた。

「尻尾!!エルザ!!」
『グレイ』

声の主はグレイだった。

「ナツは一緒じゃないのか?」
「はぐれた!!つーかそれどころじゃねぇっ!!!鉄の森の本当の標的はこの先の町だ!!!じーさんどもの定例会の会場…奴はそこでララバイを使う気なんだ!!!」
『あぁ、さっきこいつに聞いたよ』
「しかし今この駅には魔風壁が」
「ああ!!さっき見てきた!!無理矢理出ようとすればミンチになるぜありゃ!!」

エルザの話を遮ったグレイは、2階の手すりから飛び下りてこちらに駆け寄る。

「こうしてる間にもエリゴールはマスターたちの所へ近づいているというのに…」
「こいつ等は魔風壁の消し方知らねえのかよ」
「よせ…彼等は知らない」
『変な話だよなぁ…誰一人魔風壁の消し方を知らねぇなんて』

同じギルトの奴が知らねぇのは不自然だ。そう言って考え込む尻尾。エルザがはっと息を呑む。

「そういえば鉄の森の中にカゲと呼ばれてた奴がいたハズだ!!!奴は確かたった一人でララバイの封印を解除した!!!」
『ナツを追いかけて行った奴!!』
「解除魔導士(ディスペラー)か!!?それなら魔風壁も!!!」
「探すぞ!!!カゲを捕らえるんだ!!!」
『おいってめぇ知ってたんじゃねーか!』

走り出すエルザとグレイ。下から舌打ちが聞こえた尻尾は、男を蹴ってから2人に続いた。

『駅が広い!!!』
「しっかり着いてこいよ方向音痴!!!」
『うるせぇ着いていっとるわ!!』

グレイに叫び返したところで、建物が揺れたのを感じて立ち止まる。

『!』
「近いぞ!!向こうだ」
「こりゃあナツに間違いねえ」

何かが破壊され、ぶつかったような音が響いた。少し走ると、奥に桜の髪が見える。

『いた!!ナツだ!!!』
「ナツー!!!それ以上はいい!!!彼が必要なんだ!!!」
「うお!?なんだなんだ!?」
「でかしたクソ炎!!!」
「さすがだなナツ」
「なんだよ二人して…これくれーなんともねえよ」
『いや満身創痍じゃねえか…』
「説明してるヒマはねえがそいつを探してたんだ」

きょとんとするナツ。エルザがカゲを掴みあげて刀を構えた。

「四の五の言わず魔風壁を解いてもらおう。一回NOと言う度に切創がひとつ増えるぞ」
「う…」
「オイ…そんなボロボロなんだいくらなんでもそりゃヒデェぞ」
「黙ってろ!!!」
『ボロボロにしたのはナツだろ』

やっぱりエルザはあぶねェ!!!と小声で言ったのはもちろん聞き逃さなかった。

「いいな?」
「わ…わか…ばっ」

了承を示そうとしたカゲの口から鮮血が飛ぶ。カゲの体から力が抜けていくのが、見ててわかった。

「カゲ!!!!」
「くそっ!!!唯一の突破口が…ちくしょオォ!!!」


今死なれちゃ困る。そんな思いで、カゲに駆け寄った。

『カゲ!!!』
「カゲ!!!しっかりしろ!!!」
「オイ!!!」
「おまえの力が必要なんだ!!!」

倒れたカゲに駆け寄って傷を見る。刀は胸を貫通していた。カゲの意識はなく、グレイもそれを見て叫ぶ。

「マジかよ!!!くそっ!!!」

尻尾は倒れたカゲの後ろから現れた、鉄の森にいた男を睨みつけた。拳に力が籠る。ナツも同じように、男が仲間を殺したことに怒りの矛先が向いたらしい。

「仲間じゃ…ねえのかよ…同じギルドの仲間じゃねえのかよ!!!!」

壁に潜り込んだ男を殴り飛ばすナツ。それを見て、視線をカゲに移した。

「カゲ!!!しっかりしないか!!!」
「エルザ…だめだ…意識がねえ」
「死なす訳にはいかん!!やってもらう!!」
「やってもらうったってこんな状態じゃ魔法は使えねえぞ!!!」
「やってもらわねばならないんだ!!!」
「それがおまえたちのギルドなのかっ!!!!」

叫び声だけがあたりに響く。その場に今到着したルーシィは、その雰囲気の中に飛び込む勇気はなかった。

「お邪魔だったかしら…」
「あい」
『 …ナツ、そいつ縛り上げとけ』

カゲをゆするだけだった尻尾が口を開いた。

『エルザのいったとおり、死なせる訳にはいかないから』

エルザに代わり、横たわるカゲの隣に座った尻尾。両の手のひらを合わせる。

『重力操作="浮(フ)"』

流れていた血が小さな塊となって浮いていく。

「なにしてるの…?」
『流れる血を止めた』
「どうやって、」
『魔法の応用だよ』

尻尾はふっと笑った。額に汗が滲む。エルザやルーシィに手伝ってもらい、血を止めたまま止血のための包帯を巻き付けた。

『行こう。グレイ、運んで』
「…あんまり無理すんじゃねえぞ」
『わかってる』

グレイにカゲを背負って運んでもらい、駅の入口付近に戻る。魔風壁を視認すると同時に、ルーシィが声を荒らげた。

「エリゴールの狙いは…定例会なの!!?」
「ああ…だけどこの魔風壁をどうにかしねえと駅の外には出れねえ」

駅を覆う大きな風。ナツが飛び込んでいくも、大きな音とともに弾かれてしまう。

「な?」
「あわわ…」

壁に向かっていくのをやめないナツ。グレイは力じゃどうにもならない、己の魔法で凍らせることもできないと話した。

「ぬぁあああっ!!!!」
『ナツ!!本当に死ぬぞ!!』
「やめなさいって!!!」

尻尾が言うと同時に、ナツはルーシィによって風から引き剥がされた。

「そうだっ!!!星霊!!!」
「え?」

するとナツはルーシィに掴みかかる。
そのまま2人は、2人にしか分からないやり取りを始めた。グレイに『分かる?』と聞くが「わからん」と答えられる。

「エバルーの…鍵…あーーーーーーーーっ!!!!」

突然叫んだハッピーにびっくぅ、と肩を揺らした尻尾。ハッピーはルーシィに思い出したと詰め寄った。

「な…何が?」
「来る時言ってた事だよぉ!!!これ」

背負っている風呂敷を中をまさぐり、出してきたのは鍵だった。

「それは…バルゴの鍵!?ダメじゃないっ!!!勝手に持ってきちゃー!!!」
「違うよ、バルゴ本人がルーシィへって」
「ええ!!?」

なんとなく、以前変態屋敷に行った時の話かな、と考えた。にしても、

『星霊の鍵?初めて見た』
「何の話だ?」
「こんな時にくだんねえ話してんじゃねえよ」
「バルゴ…、ああっ!!!メイドゴリラか!!!」

反応がバラバラすぎて面白いな。と思いながら珍しい金色の鍵を見つめる尻尾。妖精の尻尾に星霊魔導士はいなかったし、魔法ショップもそうないので星霊というものに触れるのが初めてだった。
ハッピーから渡されたそれをほぉーと見ていると、ハッピーの口から今最も必要な情報が飛び出てきた。

「バルゴは地面に潜れるし…魔風壁の下を通って出られるかなって思ったんだ」
「何!!?」
「本当か!!?」
「…そっかぁ!!!やるじゃないハッピー!!!もう!!!何でそれを早く言わないのよぉ!!!」
「ルーシィがつねったから」
『まぁま、拗ねるなよハッピー』
「拗ねてないよ」
「尻尾貸して!!!我…星霊界との道をつなぐ者。汝…その呼びかけに応え門をくぐれ。開け!!!処女宮の扉!!!バルゴ!!!」
「お呼びでしょうか?御主人様」
「え!?」

すぐさま星霊を呼び出したルーシィ。そこに降り立ったのは、かわいらしい女の子だった。

『メイドゴリラ?』
「やせたな」
「あの時はご迷惑をおかけしました」
「やせたっていうか別人!!!あ…あんたその格好…」

ルーシィの問いに、バルゴは御主人の忠実なる星霊であり、主人の望む姿で仕事をすると答えた。ナツ曰く前の方が迫力があって強そうだったらしい。ならばと姿を変えようとするバルゴをルーシィが止める。

「へぇーかわいらしいじゃねえの」
「ルーシィか…やはりさすがだ」
『へえ、グレイのタイプはメイドさんなのか』
「テキトーなこと言ってんじゃねえぞ!?」

冗談だよ冗談。にやにやと笑う尻尾にグレイはヘッドロックをかました。

『いてえ!!!』

叫ぶ尻尾の横で、バルゴのご主人様呼びを嫌がるルーシィ。「姫」呼びにそんなトコかしらね、と頷くルーシィにグレイが突っ込んだ。

「そんなトコなんだ!!!つーか急げよ」
『つーか離せよ!!』
「おぉ、悪ィ」

あぁ苦しい。そう訴えて転がった尻尾。視線の先ではバルゴがアスファルトに潜り込んでいく。

「いいぞっ!!!ルーシィ」
「痛っ」
「おし!!!起きろ尻尾!!!あの穴を通っていくぞ!!!」
『へーい』

エルザの硬い鎧に顔を押し付けられたルーシィにご愁傷さま、と呟いて起き上がる。「何してんだナツ!!」というグレイの声に振り返ると、ナツがカゲを背負っていた。

「オレと戦った後に死なれちゃ後味悪ィんだよ」

その言葉を聞いて少し口元を緩ませ、尻尾はバルゴの穴に飛び込んだ。


「出れたぞー!!!」
「急げ!!!」
「うわっすごい風」
『邪魔…』
「姫!!下着が見えそうです」
「自分の隠せば」

はためくコートを鬱陶しく思いながら髪をかきあげると、ルーシィのスカートを抑えるバルゴのスカートが風にあおられ、パンツが丸見えになっていた。

『グレイおまえやっぱり……』
「不可抗力だ!!!」

その光景に目を逸らさないグレイに冷たい目を向ける。頬を染めながら言うものだから説得力の欠片も無い。

「無理だ…い…今からじゃ追いつけるハズがねえ…オ…オレたちの勝ちだ…な」
『お、意識戻ったか』

カゲの意識がはっきりしていることを確認して、腕をとり背負う。すぐにグレイが代わってくれた。

「!ナツはどうした!?」
「あれ?」
「ハッピーもいねえぞ」
『先に行ったか?さっさと追いかけよう』

あいつすぐどっかしらに行くなぁ。と愚痴って魔道四輪を停めた場所へ急いだ。



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