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「やっぱりシャバの空気はうめえ!!!!最高にうめえっ!!!!自由って素晴らしいっ!!!フリーーーダァーーーッム!!!」
「うおっ!!やかましい!!」
「おとなしく食ってろ!!」
「もう少し入ってればよかったのに」
『同感』
食って飲んで叫んでを繰り返すナツに呆れるギルドメンバー。帰ってきてからずっとナツはこの調子だった。
『うるせーなぁ…たった1日閉じ込められてただけだろーが』
「けっきょく"形式だけ"の逮捕だったなんてね…心配して損しちゃった」
「そうか!!カエルの使いだけにすぐ"帰る"」
「さ…さすが氷の魔導士ハンパなくさみィ!!!」
『誰か毛布』
「そんなにか」
ルーシィの言った通り、逮捕は形だけのもの。有罪ではあったが罪にはならなかったのだ。
「…で、エルザとの漢の勝負はどうなったんだよ、ナツ」
「漢!?」
「そうだ!!!忘れてたっ!!!エルザー!!!この前の続きだーっ!!!」
「よせ…疲れてるんだ」
エルザは一切ナツの方を見ずに答えるが、ナツは構わずにエルザに突っ込んでいった。
「行くぞーーっ!!!」
「やれやれ」
そう言って大きな槌をぶん回したエルザ。もろに頬に食らったナツはそのまま吹き飛ばされ、意識を失った。
「仕方ない、始めようか」
「終ー了ー!!!」
『一瞬とはこのことだな』
勝負は始まったと同時に終わった。
「ぎゃはははっ!!!だせーぞナツ!!!」
「やっぱりエルザは強ェ!!!」
「おいこの間の賭け有効なのか?」
『主催カナだろ?今日いなくね?』
「あ〜あ…またお店壊しちゃってぇ」
グレイとエルフマンは腹を抱えて笑う。前回の賭けが有効ならば貰おうとするマックスとさせない尻尾。店を壊したことを非難するルーシィ。いつもの風景に、ミラはクスッと笑った。
「ふぬ…」
「どうしました?マスター」
「いや…眠い…」
カウンターに座るマスターの声を拾ったミラがマスターに問い掛ける。
「奴じゃ」
「あ」
「!」
「これは!!」
『う…』
「くっ」
「眠っ」
ギルドメンバーが次々と猛烈な眠気に倒れていく。尻尾は完全には落ちなかったが、意識はぼんやりとしていて瞼は重く、開かない。
「…ガン」
マスターの声がかすかに聞こえる。次に「行ってくる」と聞こえた声に、ミストガンだ、となんとなく思った。
「これっ!!眠りの魔法を解かんかっ!!!」
「伍」
聞こえる数が少なくなる。尻尾は顔をあげようとしたが力は入らず、聞こえる数字は最小のものになった。
「壱」
零。そのタイミングで目がぱちっと開いた。さっきの眠気が嘘のように。
「こ…この感じはミストガンか!!?」
「あんにゃろォ!!!」
『くっそ…今回も起きてられなかった…』
「相変わらずスゲェ強力な眠りの魔法だ!!!」
それぞれが目を擦ったり顔を手で覆ったりしながら起き上がる。眠らされたギルドメンバーはいつも悔しそうに文句を言うのだ。
「ミストガン?」
「フェアリーテイル最強の男候補の一人だよ」
ルーシィの問いに答えたのはロキ。それに気づいたルーシィと、ルーシィに気づいたロキが驚いたように顔を合わせる。
「どういう訳か誰にも姿を見られたくないらしくて、仕事をとる時はいつもこうやって全員を眠らせちまうのさ」
「なにそれっ!!!あやしすぎ!!」
「だからマスター以外誰もミストガンの顔を知らねえんだ」
ロキに続けて説明するグレイ。目を擦りながら尻尾が『声は聞こえるんだけどなぁ』と言うと、「それはお前だけだな」と返される。
「いんや…オレは知ってっぞ」
上から唐突に聞こえてきた声。みんなが顔を上げた。
『!』
「ラクサス!!!」
「いたのか」
「めずらしいなっ!!!」
ギルドにいるのも声を発するのも珍しいラクサスが声を出したことで、眠りこけたままのナツも目を覚ます。
「もう一人の最強候補だ」
グレイが不服そうな顔で言う。ルーシィは口を開いて驚いていた。
「ミストガンはシャイなんだ、あんまり詮索してやるな」
『ラクサス…』
妖精の尻尾所属のラクサス・ドレアー。ギルドを見下ろすその姿は久しぶりに見たものだった。
「ラクサスー!!!オレと勝負しろーっ!!!」
『ナツ…勝負のことしか頭にねーのか』
「さっきエルザにやられたばっかじゃねえか」
「そうそう。エルザごときに勝てねえようじゃオレには勝てねえよ」
馬鹿にしたような顔で言うラクサス。エルザが殺気を帯びた。
「それはどういう意味だ」
「オイ…おちつけよエルザ」
「オレが最強って事さ」
両腕を広げるラクサス。見上げているせいか、その体はとても大きなものに見えた。
「降りてこい!!!コノヤロウ!!!」
「おまえが上がってこい」
「上等だ!!!」
2階に上がる階段に向けて走り出したナツを、マスターはカウンターの上で叩き潰した。
「2階には上がってはならん。まだな」
「ははっ!!怒られてやんの」
「ふぬぅ…」
「ラクサスもよさんか」
マスターが諌めようとするが、ラクサスは口を止めない。
「最強の座は誰にも渡さねえよ。エルザにもミストガンにも、あのオヤジなもな。もちろんおまえもだ、尻尾」
『…私にはまだ早いよ。勝手にやってろ』
「おまえは最近2階に上がってこねえなァ?」
ラクサスが尻尾に絡む。尻尾はうっとおしそうな顔で答えた。
『S級魔導士はS級クエストしかやっちゃいけねえルールでもあったか?どんな依頼をやってようとお前に関係ないだろ』
「S級クエストをやらねえ理由を作るんじゃねえよ、S級ならな」
『…至極真っ当な意見をどーも』
「ハッ…誰にも譲らねえ。最強は…オレだ!!!」
不服そうな顔で見る一部の人間と恐ろし気な顔で見る大多数。言うだけ言って満足したらしいラクサスはそのまま奥に引っ込んで行った。
「お前もスゲーな…ラクサスにあれだけ言える人間はいねえぞ」
『お互い古株だしなあ…。あいつの考えてる事は分からんが、S級なりのプライドがあるんだろうよ』
ナブに言われた通り、このギルドでラクサスに物申せるのはエルザやミラ、尻尾など限られた人間。尻尾自身はそれを特別なことと思ってはいないが、同じS級同士、なんとなく通ずるものもあるらしい。そんな尻尾は、胸騒ぎを感じていた。
『なーんか、嫌な予感するんだよなぁ』
次の日、この予感は的中することとなる。
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