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「たいへーーん!!!」
ラクサスと顔を合わせた次の日の昼、グレイの隣でぼんやりしていた尻尾は、ギルドに響いたミラの声に体を起こした。
『何事?』
「さあ」
「マスター!!!2階の依頼書が一枚なくなっています!!!」
ミラの言葉にマスターは酒を噴き出した。尻尾も目を丸くする。そこでラクサスが口を開いた。
「オゥ…それなら昨日の夜どろぼう猫がちぎっていったのを見たぞ。羽のはえた…な」
「ハッピー!!?」
「つー事はナツとルーシィも一緒か!!?」
「何考えてんだあいつ等!!!」
「バカだとは思ってたけどこれまでとはね…」
「勝手にS級クエストに行っちゃったの!!?」
騒がしくなるギルド。初めは驚いた尻尾だったが、ニヤニヤと笑い始めた。
『やりやがったなナツ』
「楽しそうな顔してんじゃねえか」
『いてっ』
小突かれた尻尾が額をさする。『だって楽しんだもん。ほんと問題児だなぁ、あいつ』とケラケラ笑った。
「これは重大なルール違反だ。じじい!!奴等は帰り次第、破門…だよな。つーかあの程度の実力でS級に挑むたァ…帰っちゃこねえだろうがな、ははっ」
「ラクサス!!!気付いてたのにどうして何も言わなかったの?」
マスターは黙り込む。ミラはラクサスに詰め寄ってるらしい。
「オレにはどろぼう猫が紙キレくわえて逃げてった風にしか見えなかったんだよ。まさかあれがハッピーで、ナツがS級行っちまったなんて思いもよらなかったなァ」
『なぁグレイ、あいつの方が楽しそうだぞ』
「お?アンタのそんな顔久しぶりに見たなァ…」
聞こえてくるのはどこか楽しそうな声のラクサス。ミラもそれをわかっていて、怖い顔をしてるんだろうなぁ、と尻尾はなんとなく思った。
「マズイのう…、消えた紙は?」
「呪われた島、ガルナです」
「悪魔の島か!!!!」
ギルドがまたざわめいた。ガルナ島。マグノリアに住む人に知らない者はいない、悪魔の島だ。
「ラクサス!!連れ戻してこい!!!」
『確か1番安い依頼だったかなァ…しかしよりによってガルナか』
マスターが叫ぶ。グレイは尻尾の言葉に返さず、ラクサスとマスターとのやりとりをじっと聞いている。
「今ここにいる中でオマエ以外誰がナツを力ずくでつれ戻せる!!?」
その言葉に、グレイが声を上げた。
「じーさん…そりゃあ聞き捨てならねえなァ」
「グレイ」
「オレが連れ戻す。いーだろ、じーさん」
「むぅ…」
『私も行くよ。それなら心配ないだろ』
マスターがため息をついた。
「くれぐれも一緒に行くんじゃないぞ。連れ戻してこい」
『って言ってたけど、信用されてねーのかな?』
「そうかもな」
もう出航しているかもしれないと、急いでギルドを出た2人。グレイはしかめっ面のまま歩いていた。
『まあグレイはノリそうだからなぁ』
「うるせーぞ」
しかめっ面の顔にさらに皺が入った。そうこうしているうちに、港町のハルジオンが見えてくる。
『もう出航してたらどうしようか』
「行先は悪魔の島だ。そう簡単に船を出す奴がいるとは思えねえ」
『それもそうだな』
そう話していると、石垣の上で項垂れているルーシィが見えた。隣でナツは元気に動いている。2人で示しあって背後から静かに近づいた。
「『みーつけた』」
グレイがルーシィの肩、ナツの頭に手を置き、尻尾は2人の前に降り立つ。体をびくつかせた2人を見て、にっこり笑った。
「グレイ、尻尾!!?何でここに!!?」
「つれ戻してこいっていうじーさんの命令だよ」
「どわー!!!もうバレたのかぁっ!!?」
『ミラが管理してんだぞぉ、出るなら夜のうちに出るべきだったな』
「尻尾余計な入れ知恵すンじゃねえ!!今ならまだ破門をまぬがれるかもしれねえ。戻るぞ」
「破門!!!」
『入ったばっかのルーシィはなりたくねえだろ、ハ・モ・ン』
「いやーっ!!!」
ルーシィが泣きそうな顔をする。そうだろそうだろ、なりたくねえだろと尻尾は言うが、ナツは聞く耳を持たない。
「やなこった!!!オレはS級クエストやるんだ!!!」
「オメーらの実力じゃ無理な仕事だからS級って言うんだよ!!!この事がエルザに知られたらオメェ…あわわ」
「エルザに知られたらァ…!!!」
「グレイ〜〜尻尾助けて〜〜オイラ、この2人に無理矢理…」
「裏切り者ォ!!!」
ハッピーがあっさり寝返った。ハッピー自分が第一だもんね、そういうの大事だと思う。
「オレはエルザを見返してやるんだ!!!こんな所で引き下がれねえ!!!」
「マスター直命だ!!!ひきずってでもつれ戻してやらァッ!!!ケガしても文句言うなよ!!!」
「やんのかコラァ!!!!」
「ちょ…ちょっと二人とも!!!」
『ものは壊すんじゃねーぞ』
「そこ!!?」
ナツとグレイがそれぞれ魔法を繰り出す。それを見た一人の船乗りが反応した。
「あんたら…魔導士だったのか…?ま…まさか島の呪いを解く為に…」
『あ?』
「オウ!!!」
「い…一応…自信なくなってきたけど…」
「行かせねーよ!!!」
『なんでナツは自信満々なんだよ!!』
船乗りの男は僅かに震えていた。そして、衝撃的な言葉を口にする。
「乗りなさい」
『えっ』
止めてる人間は目に入らないのか、男は乗船を促した。次の瞬間、隣にいたグレイが蹴飛ばされた。
「乗せろ!!!」
「ちょっとグレイもつれてくの!?」
「コイツがギルドに戻ったら次はエルザが来る」
「ひいいっ!!!」
『止まれ、ナツ』
冷めきった声が出た。ルーシィが固まって、ナツがゆっくり顔を上げる。声とは裏腹に、尻尾は笑っていた。
「尻尾、オレはS級クエストに行く!!じっちゃんに認めてもらうんだ」
『そのためならルールも破るって?感心しねえなぁ』
「強くなりてえんだ」
ナツの目は真っ直ぐ尻尾を見つめる。
『…ルールはルールだ。そしてそれを破らせたくねえ。悪ぃがナツ、お前を止めるぞ』
そう言ってナツの左頬を殴りつけた。
「尻尾!!!ナツ!!!」
『ルーシィは手を出すなよ。元々乗せられてきたんだろ』
「でも…!」
殴られたナツが海へ落ちた。尻尾はその場から動かず、海をじっと見つめる。
「ぅぉおおおらァ!!!」
『っぐ、』
海の中から飛び出してきたナツが尻尾を殴り返す。気絶するのを狙ったらしいその拳は鳩尾に入った。
『っは…!どうやってでも行くつもりなんだな』
「当たり前だ!!!」
ナツが叫ぶ。尻尾はナツに向かって駆け出し、そのまま海に体を乗り出し吐いた。
『おええええええ!!!』
「えーーーっ!!?」
ナツはびっくりして固まってるし、ルーシィは叫んでいる。尻尾は苦笑いしながら言った。
『いや…すまん…昨日の酒が抜けてなくて…ナツに殴られた場所が丁度よく…おえ、』
「さっきまですごい殺気出してたのに!!!」
「チャーーーーンス!!!」
ナツが尻尾を担ぎあげる。肩に乗せられた尻尾はえずいた。
『おまえ…その持ち方やめろ…気持ちわりぃ…』
「行くぞルーシィ!!!悪魔の島へ出発だ!!!」
そのまま船に乗せられ、船は港を出発してしまった。
「うぷ」
『あーあ』
3秒前威勢よく叫んだナツが、船に揺られた瞬間顔を青くする。その姿を見て尻尾は呆れた声を出した。
『やっぱり連れ戻すべきだった…うえっ』
「なんでお前も乗せられて酔ってんだよ…」
『昨日飲みすぎてさぁ…』
「理由になってねえぞ」
船が出てすぐにグレイも目を覚ました。あたりは既に暗くなっていた。船が動いているのに気づいたグレイに尻尾は睨まれたが、お互いヒモで縛られていて動けない。
「今さらなんだけどさ…ちょっと怖くなってきた」
「てめ…人を巻き込んどいて何言ってやがる。つーかオッサン!!何で急に船を出したんだ」
いいめーわくだ、と続けたグレイ。男は遠くを見つめている。
「オレの名はボボ…かつてはあの島の人間だった…」
「え?」
変な名前だな…と呟いたグレイを蹴った。ボボは気にせず静かに話を進める。
「逃げ出したんだ。あの忌まわしき呪いの島を」
「ねえ…その呪いって?」
「呪いは君たちの身にもふりかかる。あの島へ行くとはそういう事だ。本当に君たちにこの呪いが解けるのかね?」
一度言葉を止めて、ボボは右腕を見せてきた。
「悪魔の呪いを」
ボボが出した右腕は紫色に変色しており、およそ人間のそれとは異なっていた。それを見た3人は息を呑む。
『悪魔の呪い…』
「オッサン…その腕…」
「呪いって…まさか…その…」
ボボは何も答えない。目線を遠くにやったかと思うと、「見えてきた」と告げた。
「ガルナ島だ」
3人と1匹がその姿を目にする。不安がなんとなく胸をよぎった。
「ねえ…オジさん」
ルーシィの声に振り返る。振り返った先、船尾には、誰もいなかった。
「あ…あれ?いない?」
「落ちた?」
すぐさまハッピーが海に飛び込み探すがいないと言う。
「うそ?どうなってんの?」
『どこに…』
消えたボボを探している間に、何かの音が近づいてきていた。
「な…何の音?」
『嘘だろ…そういう海域?』
後ろから、大きな波が迫ってきていたのだ。
「きゃあああ!!!大波!!!」
「のまれるぞ!!!」
『ア゙ア゙ア゙ア゙!!!』
「ハッピー!!!船を持ち上げて飛ぶのよ!!!」
「無理だよォ!!!」
「おぷ」
「つーかコレほどけ!!!死ぬ!!!」
『私もォ!!!』
波は狙ってきたかのように船を巻き込んだ。船がひっくり返る瞬間に縄が解けて、尻尾はとっさにグレイを抱き締めた。
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