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妖精の尻尾のギルドの前に立つ、小さな人影。
人の笑い声と、何かが壊れる音と、言い争う声がひっきりなしに聞こえ、彼女は頬を緩めた。
そっと中を除き、変わらない光景に声が出た。
『……………うわ、何事?』
「「「「「!!!!!!!!」」」」」
「え、なにかしら急に…」
騒がしかったギルドが静まり返った。全員が、声がした方に首を向ける。視線が集まる。
尻尾はフードを取る。見えたのは鮮やかな紅色。薄く笑みを浮かべて、言った。
『ただいま、みんな』
「「尻尾っ!!!」」
ルーシィの目の前を通り過ぎていった二つの影は、叫びながら小柄な少女に向かって走り出した。
叫んだのは、もちろん少女の名前。
『お…ナツとグレイじゃん…久しぶぐえっ!!!!』
二人はそのまま尻尾に向かって飛び込み、下敷きにして倒れ込んだ。尻尾は押し潰されて苦しそうな声を出す。
その光景を見て、目を真ん丸にしたのはルーシィ。ギルドのメンバーはハッと意識を戻し、玄関へ目を向ける。無論、そこにいるのは尻尾と尻尾を下敷きにしたままのナツとグレイ。
『ったぁ…頭打った………オイそこ2人、どいて』
「………………………」
『オイ、どけってば。重いし動けないんだけど』
「………………………」
「ホラ、2人ともどかなきゃ尻尾が立てないだろ?」
それを見かねてか、丁寧な口調ながらも二人をべりっと引き剥がし「尻尾、立てるかい?」と言って手を差し出すロキ。
『………ロキ?』
「はは、もう忘れたの?酷いなぁ」
『……んにゃ、別に。ありがと、ロキ』
ロキの手を借り、んしょっと言って立ち上がる。途端、人が集まった。
「尻尾!!今までどこて何してたのよ!!」
「心配かけさせんじゃないよ、尻尾」
「死んでないとは思ってたけど、いくらなんでも連絡入れなさすぎだよ…」
「漢なら連絡ぐらい入れんか!!!」
レビィにカナ、アルザックにエルフマン。次々に言葉をかけられる尻尾は、困ったように笑った。
『はは…すまん。最初は依頼3件パパッと終わらせて帰るつもりだったんだけど久しぶりに遠くまで行ったもんだからさ…ついいろんなとこに立ち寄っちゃって、迷子になって』
「「「お前ほんとなにしてんの!!?」」」
あはは、なんて笑いながらサラリと迷子になったことを言う尻尾は、ふらっとどこかに行ってしまう癖があった。それと普段からボーッとしている事も伴い、遠出すると毎回のように迷子になって帰ってくる。
ただいつもは1ヶ月あれば大体ギルドのメンバー(主にナツやグレイ)に引きつられて帰ってきていたのに、今回は1年間という旅のようになってしまった。
「1年間迷子でしたーとか言うのか…いや言うよな、尻尾だもん」
『いや今回は自分の意思。迷ったのは否定せんけど、ギルドに戻らないって決めたのは自分だし』
「またどーして?」
『んー、ただフラフラしたかっただけだよ、ミラ…あとエルフマン、俺男じゃないから』
「思っきし俺って言ってんじゃん!」
『なはは』
「てかフラフラしたかっただけって…」
尻尾を中心にしてワイワイと盛り上がっているのを遠巻きに見ているルーシィは、先程引っぺがされた2人が円の外で俯いているのを見た。
「……?」
「尻尾、」
『ん?どしたナツ』
「……………何処行ってたんだよ」
『…聞いてなかった?迷子と軽い冒険…みたいな』
「…………………」
『…怒ってるか?ナツ』
尻尾は黙りこんだナツに近付き、『ごめんな、連絡入れなくて』と言って頭を撫でた。ナツの方が少し身長が高いので、撫でにくそうではあるが。
ナツは暫く反応しなかったが、頭を撫で続ける尻尾の手を取るとそのまま、
グイッと引き寄せて、抱き締めた
「!!!!!????」
ナツの行動に再び目を真ん丸にするルーシィ。
周りの人は微笑ましいような呆れたような表情を見せる。
「あらあら♪」
「楽しそうだね…」
ミラは笑い、レビィは苦笑いを零す。
一人残されたままのグレイは、ナツの行動を見て目を見開いた。
『…‥ナツ「探したんだぞ」、』
「心配した。どこにいるかもわかんねぇし」
『うん、ごめんナツ。「オレだって」、グレイ』
「オレだって探してたし、会いたかったんだよ、尻尾」
ナツが尻尾を抱き締めたのを見て黙っていられなくなったのか、グレイはナツから尻尾を引き離し後ろから抱き締めた。ルーシィは口をあんぐり開ける。
「グレイテメェ…」
「はん、てめぇにだけは譲らねぇよ」
『……ふ、あははっ』
自分の頭上で睨みあっているというのに突然笑い出した尻尾に、ナツとグレイは揃って不思議そうな顔をした。
『ごめんごめん。私も会いたかったよ』
そう言って力の緩んだグレイの腕から抜け出すと、正面から二人に抱きついた。
「ふ…あはは!ただいまナツ、グレイ」
「「…おかえり、尻尾」」
もう一度ただいまと言った尻尾に2人でお帰りと返したが、ハモったのが気に食わなかったのか再び睨みあいをしだすナツとグレイ。
そんな二人の間で、尻尾は幸せそうに笑っていた。
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