巻き込まれにきてるだろう

「よう、昨日はよく寝れたか?」
「嫌味か?」

翌朝、食堂で顔を合わせた三郎は爽やかな顔で声を掛けてきた。私の顔を確認して。腹立たしい奴だ、こちらは二日酔いとまではいかないが、軽い頭痛で気分が悪いというのに。

「そっちは爽やかな目覚めだったようで」
「まあな、部屋に帰ってすぐ熟睡だ」
「ふん」

食堂のおばちゃんの声を背にご飯を口に運ぶ。うまい。今日も一日頑張れそう。

「はは、しかし、尻尾のあんな姿を見ることができるとは思わなかった」
「、誰のせいだと思って」
「兵助だろう」
「お前だ!」
「あまり騒ぐな。聞き付けられるぞ」
「なに、二人で呑んだの?うわ尻尾酒くさっ」
「勘右衛門…」

ほらなと言う顔で見る三郎を殴りたい。勘右衛門は私を見て顔を顰め、少し距離を取る。そんなに匂うのだろうか。

「結構飲んだね?珍しい。」
「三郎に無理やり。こいつ一升瓶持ってきたんだ」
「尻尾は諦め良いからな!二度押せばころりだ」
「一升瓶!なんで誘ってくれなかったのさ!」
「次は勘右衛門も誘うさ」
「次ってなんだ。あと酒持ち帰ってくれ」

え〜残ってるなら次がないとか許されないぞ〜!そう言って擦り寄ってくる勘右衛門を押しのけた。くさいって言ったくせに近付いてくるな。

「酒を持った三郎は面倒くさい。」
「そう言うな。寝落ちたお前を布団まで敷いて寝かせてやったんだぞ」
「ああ、それは感謝する。板の上で寝ると肩が痛くなる」
「真面目か。全く兵助そっくりだ」
「またおまえは…!」
「呼んだ?」

驚きすぎて少し浮いた。

「兵助やっと来た〜」
「冷奴か湯豆腐で悩んでいたのだ!三郎、尻尾おはよう。どうしたのだそんな驚いた顔して」
「いつものね」
「お早う。いや、兵助おまえ目力あるよな」
「お、はよう兵助…」
「?」

きょとんとした顔でこちらを見る兵助。なんだそれかわいい。いつもと変わらない無表情のはずなのに、そんなことを思った自分が信じられなくて顔を伏せた。

「へえ〜そっかそっか〜なるほどな〜」
「くそう…」
「尻尾は最近どうしたのだ」
「さてな」

耳元で勘右衛門の声。勘右衛門と三郎、2人の楽しそうな声色にほんとうに殴りたいと思った。兵助はそのままでいてくれ。

「雷蔵は?」
「松千代先生に呼ばれてる」

だからこいつ1人だったのか。八左ヱ門?多分虫探し。

透明人間