くぁ、とあくびを噛み殺して、ゆっくりと仕事場へ向かう。
今日は昼からの出勤で、少し寝すぎた。まだろくに頭も回ってない。
そんな脳味噌に甲高い叫び声が響いた。


「御手杵の熱愛報道出てる!!!!!!」

「ドラマの相手役じゃん!?」

「ロケ先でデートしてたらしーよ」

「はぁ〜!?」



ねつあい。

よく見る女性誌の表紙、そんなにでかでかとは載ってなかったけど、そこそこ目立つ書き方。


【モデル御手杵と新人女優の熱愛発覚!ロケ先で大胆デート!】



思わず本屋に近寄り、雑誌を手に取ってしまった。


「うわ…」


あきらかに御手杵とわかる男と、ドラマの相手役の女優が、抱き合ってるように見える写真だった。


「あ、仕事遅れる」






「ねぇねぇ、週間〇春みた?」

「モデルと女優でしょ〜?あんなんお似合いすぎて批判する気にもならないよ〜」

「女優小さいよね、可愛いしおしゃれじゃん」

「御手杵は背ぇ高くてかっこいいしー」


カフェでも、若い女性の話題の中心は御手杵の熱愛だった。
いつの間にこんなに知名度が上がったのかと、少し驚いた。ドラマの影響って凄い。


「お待たせ致しました、エスプレッソと抹茶ティーでございます」

「ありがとうございまーす」

「ありがとうございまーす。ま、女優には勝てないよね」

「私らただの一般ピーポーですからね」


あ、なんかいまの刺さった気がする。






「一般ピーポー、ね」


全くその通りだと思う。私と御手杵がこうやって交際できてるのなんて奇跡みたいなもんだし、御手杵がモデル始める前に知り合ってたからこうなってるだけで。ほんの少し、運命が違っていたならば、私達は知り合ってもいなかった、かもしれないのだ。


「(御手杵からなにか聞いたわけでもないんだし、考えても意味無いか)」


短く息を吐いて、鍋に蓋をした。今日は御手杵がモデル仲間を連れてくるらしく、多めの料理を頼まれた。熱愛報道には触れずに。

きっと、彼には彼の考えがあるんだ。あいつはぽけーっとしてるけど、御手杵なりに私のことを好きでいてくれてるのは分かってる。
疑って問い詰めて吐かせて泣いて、なんてする年でも、短い付き合いでもないのだ。


呼び鈴が鳴って、ドアが開く音がした。思ってたより早かった。火を止めて玄関まで行くと、目に飛び込んできたのは金髪。

熱愛報道が出た相手の女の子だった。


「あ、彼女さん!」


青い瞳を輝かせて近付いてきて、私の手を取った。そのまま「ごめんなさい!」と頭を下げられる。



「…へ、」

「あの、ボク、そんなつもりじゃなくて。でも、女の子として活動してるんだからもう少し考えて行動するべきだった。御手杵さんの彼女さんに、余計な心配かけさせちゃって、ごめんなさい」

「え、と」

「熱愛の事実はないよ!御手杵さんはボクの兄弟がお世話になってから元々顔見知りだったけど、ボクが好きなのは女の子だからね」

「……??」

「?もしかして、御手杵さんから何も聞いてないの?」


視界に青い瞳が入り込んできた。キラキラ輝いて、そちらに目を奪われてばかり、彼女の話してること、全く頭に入ってこない。


「尻尾、紹介するな」

「…御手杵」

「こいつは粟田口乱。俺のモデル仲間の兄弟で、こう見えても性別はオトコ。女って嘘ついて女優してんだ」

「ちょっと御手杵さん言い方!ボクは好きで嘘ついて女優やってるんじゃないんだよー!」


美少女が声を荒らげるけど、今衝撃なこと言われた気がする。え、男の子?


「男の子、なの?」

「そうだよ!ボク可愛いから、社長が悪ふざけで女優として売り出したの。そしたら売れちゃって、辞めるにやめれなくなったんだよね」

「オレは相手役が乱で良かったぜー。気使わなくていいし」

「ボクはあちこちで気を使わないといけないんだよ!?でも、今回は配慮が足りてなかった。本当にごめんなさい」

「あぁ、いやいや…そこまで気にしてたわけじゃないから…」


男の子かぁ、こんなに可愛くて細くて守ってあげたくなるような美少女が。純粋に驚いた。イケメンな女の子も美少女みたいな男の子も存在することは知っていたけど、いざこうやって近くでみると、…うん。美少女だ。


「だから今日は、直接謝りたくて御手杵さんにお願いしたんだ。そしたら御手杵さん、そのまま飯でも食ってけよって言うんだから、ボクびっくりしたよ…いつもこうなの?」

「あー…いつも御手杵は御手杵だと思っていいよ」

「御手杵さん甘やかされてるね…」

「なんだよぉ二人して」


拗ねた顔をして頬を膨らます大男が少しだけ可愛かった。
熱愛報道は嘘にはならないけど、事実にもならないわけで。なにせ相手、オトコノコなわけだし。


「…こんなところで話し込んじゃってごめんね、奥どうぞ。」

「ううん、ボクこそ急に押しかけちゃってごめんなさい。おじゃましまーす!」

「ただいまー」


疑ってたわけじゃないけど、少しだけ安心したのも事実。


「わ!美味しそうー!ほんとにいただいちゃっていいの?」

「どうぞどうぞ」

「あ、改めて粟田口乱です。御手杵さんにはお世話になってまーす」

「こちらこそ。相模尻尾です。御手杵がお世話になってます」

「なんかこそばゆいな、これ」



今度から乱くんに、御手杵のことちょこちょこ聞くことにしよう。



「あ、ボクが男の子ってことは、内緒にしてもらえると嬉しいな!」




粟田口 乱(18)
♂。女優として活躍中。モデルをしている兄がいる。

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