「尻尾さんおはよー!御手杵さん、来てすぐ寝ちゃったよー」
乱ちゃんと連絡先を交換して数日、撮影の時は必ずと言っていいほど連絡をくれるようになった。
内容はほとんど御手杵のこと。御手杵が寝たとか、セリフ噛んだとか、寝てたとか。本当に御手杵は撮影現場で寝てばかりいるらしい。送られてきた写真を見て思わず笑ってしまうけど、主役なのに大丈夫なんだろうか、と少しだけ心配もしてしまう。
「いつも御手杵が迷惑かけてごめんね、怒ってやっていいからね」
「そんな!御手杵さんいつも寝てるけど、やるときはやる男だよ〜」
「えー?」
信じられないなぁ、と打ち込んで送信。乱ちゃんからは苦笑いをこぼす兎のスタンプが送られてきた。女子力たっか。乱ちゃんがほんとは男の子だなんて、溜め息しか出ない。
撮影始まるからまたね!と手を振る兎が送られてきて、そこから既読がつかなくなった。
そういえば、前に御手杵が言っていた相手役があからさまな上目遣いしてくるうんたらの話は、ライバル役の子の話だったらしい。寝惚けてたから混ざったんだろう、御手杵は話したことすら覚えてなかったらしい。
携帯を閉じて時計を見ると、休憩も終わりに近づいていたので重い腰を上げる。それと同時に従業員入口の扉が開いた。
「あ、相模さんおつかれさまです!」
「おつかれさまー。堀川くん今日出勤だっけ?」
「明日どうしても外せない用事があって、代わってもらったんですよー」
苦笑いしながら仕切りの奥に入る堀川くん。主夫をしてる疲れからか、目の下に隈があるような気がした。
「主夫も休み休みしなきゃ倒れちゃうよ」
「主夫はしてませんってば…。同居人が少し手がかかる人なんです」
へぇ。思わず出た声は興味の欠片もなさそうな声で、出てきた堀川くんからはなんなんですか、と言わんばかりの顔を向けられた。ごめん堀川くん。
「相模さんも、彼氏さんと半同棲状態なんでしょう?僕とそう変わらないんじゃないですか?」
「半同棲…って言っても、あっちは今忙しいからなぁ…」
気の抜けた顔を思い浮かべる。また現場で「うへぇ…」って言いながら項垂れているんだろうな、と思いながら「頻繁には会ってませんよ」と続けた。
「そうなんですか?相模さんて意外とさっぱりしてるんですねー身内とかにはベタベタしてそうなイメージなのに」
「もしかして怒ってます?」
「まさか!」
にっこりと満面の笑みを向けられた。満面の笑みが怖いと思ったのは初めてだった。
すみませんってば、と言いながら二人揃ってフロアに出ると店長がてんやわんやしてた。あれいつの間にかお客さん増えてる!慌てて堀川くんはレジへ、私は注文を受けに行った。
「そういえば、この雑誌の人よくこの店来ますよね!」
お店を閉めた後、片付け中に店に置いてある雑誌の中の御手杵を指さしてニコニコと話しかけられた時は、心臓が飛び上がりそうになった。堀川くんに他意は無かったらしいけど、それはそれで怖い。
堀川くん(22)
カフェ"遊び場"の大学生アルバイト。同居人がいる。家事をほとんど担ってるという話から、主夫。
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