あたりが暗くなってきた。店内は裏方にいた店長が早上がりし、最後まで残る堀川くんと私、それと未だ帰らない和泉守さんだけになった。
「兼さん帰らないの?」
「家に帰ってもすることねーからな。台本覚えてんだ」
お客さんも店長もいないから、堀川くんも普通に和泉守さんに話しかける。さっきこっそり「サービスだよ」と言っておかわりまであげていた。まぁご飯もしっかり食べてもらったし、構わないんだけど。
「堀川くん、先に上がります?」
あの調子じゃ堀川くんがあがらないと帰らないだろうなと思い、声をかけた。堀川くんはとても申し訳なさそうな顔をしていた。
「でも、また相模さんにお願いする形になってしまいます…」
「いいですよ、こないだのお礼は貰ったし」
雨の日のお礼は近くの美味しいタルト屋さんのケーキでしてもらった。
「正直、お客さんいる前で掃除とかしにくいよ」
この間は普通に掃除したことは置いといて、言った。堀川くんも苦笑いで、「…ですね」と答えた。
「じゃあ今度、ここのシフト変わりませんか?僕最近締めの仕事してないんで」
「え!正直助かる」
「じゃあそれ、今日のお礼でお願いします。ありがとうございます」
「こちらこそ」
交渉成立。「帰る準備してくるね」と和泉守さんに伝えに行った堀川くんの背中を見て、なんでかほっと胸を下ろす。
「なに安心したみてえな顔してんだ」
「うわ!」
目の前に整った顔があって、思わず仰け反る。カウンター越しにこちらを見つめる和泉守さんは、無表情だった。
「わりいな。仕事の邪魔になってたか?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
「ならいーんだけどよ」
カウンターに腰を下ろす。わざわざコーヒーまでこちらに持ってきたらしい。コーヒーを口に含む。やっぱり絵になるのでなんとなく悔しくなった。
「なあ、オレのこと美形だと思うか」
「…なんですか急に」
「言ってただろ、美形は絵になるって」
初めて会った日のことを言ってるらしい。
「まぁ…美形ですよね、戦隊モノ出てるし」
「そこかよ」
和泉守さんが笑う。やっぱり美形だ。
「じゃあさ」
目を伏せたまま、言葉を紡ぐ。
「美形は、お前のタイプか?」
「は」
空になったコーヒーカップを取ろうとした手を握られた。目線はあったまま、時が止まったように感じた。
そこに鳴った、扉が開いた合図の音。
「いらっしゃいま、せ…」
反射的に握られた手を振りほどく。扉の方に目をやると、そこに立っていたのは御手杵だった。
「おて、」
「御手杵じゃねーか」
思わず声が漏れた私。それに被った和泉守さんの声。
「和泉守…なんでここにいんだ?」
「オレの同居人がここで働いてんだよ。お前こそどうした?」
「…彼女、迎えに来たんだよ」
「彼女?」
堀川くんは着替えから戻らない。3人しかいない店内で、その答えはすぐに見つかってしまう。御手杵が私を指さして、それを辿った和泉守さんが目を丸くした。
「…マジ?」
prev next
back