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投稿日:2021年02月24日




 ルーフェンは、沈黙したまま、ただじっとオーラントを見つめていた。
しかし、何かを心に決めて目を閉じ、開くと、ゆっくりと言った。

「理由を話したら、協力してくれますか……?」

 オーラントは、眉を潜めた。

「そりゃあ、理由によりますけど……」

「じゃあ話しません」

「…………」

 オーラントは、うっと言葉を詰まらせて、憎らしそうにルーフェンを見た。
だが、すぐに諦めたように肩をすくめると、口を開いた。

「分かりました、分かりましたよ……。少なくとも、反対はしないと約束しましょう。あんたのやろうとしていることが、どんなに突拍子のないことでも、絶対に邪魔はしません。聞かなかったことにします」

「…………」

 その言葉に、ルーフェンはどうしようか迷っているようだったが、同じく諦めたように息を吐くと、言った。

「……アーベリトを、昔のように戻したいんです」

「…………」

「昔の、裕福だった時代に」

 オーラントが、微かに顔をしかめる。

「見た通り、今のアーベリトは何に関しても余裕がない。あんな壊れかけの施設、設備で、今後も変わらず慈善事業をしようなんて、無謀にも程がある。だから……」

「いや、ちょっ、ちょっと待った!」

 オーラントは、慌てて口を挟んだ。

「なんで、突然そんなこと思ったんです。確かに、アーベリトが切羽詰まってるのは分かりますよ。でも、あそこはシュベルテの援助も受けているし、最悪慈善事業を一時的にやめれば、生活していけないほどではないでしょう」

「いいえ。サミルさんは、きっと慈善事業をやめようとはしません。難民がいると知ったら、絶対受け入れようとするし、もし受け入れられなかったら……悲しみます。それに、必ずしも援助されるわけじゃないんです」

 ルーフェンは、少し声をあらげて言った。

「いや、まあ、仮に何か事情があったとしても、ですよ? 次期召喚師であるあんたが、手を出すことじゃないはずです」

「違います。俺も関わらないといけないんです」

 オーラントは、興奮した様子で、目を光らせてこちらを見上げてくるルーフェンを、唖然として見つめていた。
まさか、こんなに必死に食らいついてくるなんて、思いもしなかったのだ。
しかし同時に、この少年がここまで執着する理由に、すこぶる興味が湧いてきた。

 オーラントは、一つ咳払いして姿勢を整えると、ルーフェンに尋ねた。

「関わらなきゃいけないって、どういうことですか?」

 ルーフェンは、ぴくりと唇を震わせた。

 諸々の理由を詳しく理解してもらうには、自分とサミルのことや、サンレードのことをオーラントに話さなければならない。
それは、なんとなく躊躇われた。

 だが、急かすこともせず、ただ返事を待っているオーラントを見て、ルーフェンは観念すると、静かに語り始めた。

 六年前、ヘンリ村から運ばれてきた自分を、サミルが救ってくれたこと。
国王エルディオの命で、サンレードの集落を焼き付くし、多くの人命を奪ったこと。
また、つい先日、サミルと王宮で再会を果たし、そこで、サンレードの生き残りである子供たちが、行き場を失っていると知ったこと。

 流石に、悪魔がどうこうという話まではしなかったが、ルーフェンは、これまでの経緯の大部分を、オーラントに話した。

 オーラントは、半ば口を開けて、その話を聞いていた。
そして、最終的には、だんだんと血の気をなくしたような顔になっていったが、ルーフェンが話し終えると、ゆっくりと言った。

「……つまり、そうか。あんたは、サンレードを焼き払ったのが自分だから、責任をとって、その生き残りたちの居場所は、自分が確保するべきだと考えてるわけですね? そのために、アーベリトを復興させて、彼らの居場所を作り、かつ、レーシアス伯の助けになろうと?」

「……まあ、そんな感じです」

 オーラントは、想像以上の話に、思わず言葉を失った。
それと同時に、とんでもない、とも思った。

 口には出さないが、サンレードを焼き払ったというのは、悔いるべきことではないのだ。
言ってしまえば、反乱分子の駆逐は召喚師一族の仕事な訳で、ルーフェンは当然のことをしたに過ぎない。

 実際、そういった召喚師の一方的で強大な力が、一部の反発を招いていることも確かだが、だからといって勅命だった以上、ルーフェンにはどうしようもできなかったはずである。
もし拒めば、王の意向に背いたことになるのだから。

 オーラントは、顔をしかめると、かすれた声で言った。

「……あんたの、心がけも立派だとは思いますよ。ですがね、それは仕方のないことなんですよ。国に反抗する輩が出て、そいつらが聞く耳持たずな状態なら、攻撃するしかないんです」

「分かってます、そんなこと。でも、子供や女性を殺す必要なんてないでしょう」

「そりゃあそうですけど……そんなこと、召喚師がいちいち気にしてたら──」

「俺は! 召喚師のことなんて、どうでもいいと思ってます」

 思いがけず、ルーフェンが大きな声を出したので、オーラントは押し黙った。

「召喚師なんてなりたくないし、召喚師がどうあるべきだとか、サーフェリアのために何をすべきだとか、そんなこと、知ったことじゃありません。だけど──」

 ルーフェンは、一度息を吸って、言った。

「だけど……。もし、仕方ないで済ませたら、帰る場所を失った人達は、どうするんですか」

「…………」

「着る物もなく、食べる物もなく……死に物狂いで地を徘徊して、常に隣り合わせの死に恐怖しながら、生きるんですか……」

 ルーフェンは、微かに悲痛の滲んだ瞳で、オーラントを見た。
オーラントは、その銀の瞳に吸い込まれそうになるのを感じながら、密かに息を飲む。

「……俺は、そんなのおかしいと思う。行き場を無くした人たちを放置して、反乱分子を力でねじ伏せているだけなら、そんなのは、国の守護者なんかじゃない。偽善を語る、ただの人殺しだ……!」

 年若い次期召喚師が、理想を夢見て語っているのだと思いたかったが、思えなかった。
ルーフェンの言う、難民を救いたいという思いは、きっと安っぽい哀れみでも、正義感でもないのだ。

 家もない。親もいない。
そんな絶望的な状態で、唯一手を差しのべてくれたサミルと共に、居場所を探すサンレードの子供たち。
彼らは、紛れもなくルーフェン本人なのだと、オーラントはそう思った。

 オーラントは、ルーフェンの瞳をぐっと見つめ返すと、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「……具体的には、どうするつもりなんですか」

 ルーフェンは、首を左右に振った。

「まだ、思い付いてません。でも……サミルさんの兄、アランさんの無実を証明して、あの遺伝病の治療法の需要を、再び高めるのが一番確実かと。そうすれば、アーベリトの財政は再び潤いますから」

「……一体、どうやって?」

「もう一度、リオット族の納得する形で、彼らに王都に戻ってきてもらいます」

 予想していた通りのルーフェンの返答に、オーラントは、深い落胆が湧いたのを感じた。
心のどこかで、ルーフェンに期待する自分がいたのだが、こればっかりは、否定せざるを得なかった。

「それは、無理です」

 オーラントは、顔を歪めて言った。

「あのアーベリトのご婦人は、リオット族の病状が戻ったのは嘘だと仰ってましたがね。残念ながら、本当なんですよ。つまり、もし遺伝病の治療法とやらが本当に成功していたのだとしても、その潔白を証明するには、リオット族の奴らに症状が戻った原因を突き止めなきゃいけないんです。しかも、リオット族がどれくらい狂暴な奴らなのか、あんたは知らないでしょう? あいつらは、本当にとんでもないんです。あんなのを王都に戻そうなんて、誰も望んじゃいない。望まれていないことを、やろうっていうんですか?」

「…………」

 ルーフェンは沈黙したが、すぐにオーラントの言葉を否定し返した。

「リオット族は、つい二十年ほど前までは、その能力を見込まれて、多くの商人たちの注目を浴びてたんですよ。王都に戻すと言えば、きっと目をつける商会はあるはず……。それに今、貴方は誰にも望まれていないと言いましたが、少なくともリオット族たちは、あの奈落の底から出ることを、深く望んでいると思います」

 ルーフェンは、次いで、強い意思を瞳に宿した。

「全てがおさまるように……上手くいくような方法を……。思い付くまで、考えます。必ず──」



To be continued....



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