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投稿日:2021年02月24日






 翌日、砦に戻り体勢を整えると、ルーフェンたちは、早速魔導師たちと共に王都に向けて出発した。

 日の高い時間帯は避け、ゆっくりと馬車を進めていたが、やはり、疲れが貯まっているのだろう。
明日、王都シュベルテに着くだろうという頃には、皆、終始無言になっていた。

 同じ馬車に乗っていたルーフェンとオーラントも、互いにうつらうつらとしている時間が多くなっていたが、ある時ふと、オーラントが口を開いた。

「……もうすぐ、王都に着きそうですね」

 その言葉に、窓の外を見て、ルーフェンはそうですね、と返事をした。

 橙の空に細い雲が滲む、静かな夕暮れ時。
もう、南大陸は抜けた。
外に出ても、ノーラデュースのような厳しい日差しはない。

 オーラントは、にやっと笑って、続けた。

「帰ったら、大目玉食らわされるんじゃないですか? 少なくとも一月は、アシュリー卿のお小言祭りでしょうね」

 ルーフェンは、うんざりした様子で顔をしかめた。

「嫌なこと言わないでくださいよ……。想像しないようにしてたのに」

「まあまあ、散々好き勝手したんだから、諦めるこった」

 ははっと笑うオーラントに、ルーフェンが嘆息する。
それから、一瞬押し黙ると、ルーフェンは言いづらそうに口を開いた。

「……オーラントさんのことも、結局最後まで巻き込んじゃって、すみませんでした」

 オーラントは、更に笑みを深めると、座席の上でふんぞり返った。

「その件に関しちゃ、全く許す気ないんで、大いに感謝して下さいね! ああそうだ、いずれあんたが召喚師になって、宮廷魔導師団も取り仕切るようになったら、俺の給料上げて下さい」

「うわぁ……そういうこと言われると、感謝する気が失せるな」

 ルーフェンがわざと冷たい視線を送って、互いに軽口を叩き合う。
いずれ召喚師になるのだと、そう言われたときの嫌悪感が、不思議と心の中で薄れているような気がした。

 ルーフェンは、再び窓の外を見て、ぽつりと返事をした。

「召喚師になったら……そうですね。仕方ないから、考えておいてあげます」

 オーラントは、ルーフェンの返事を聞くと、どこか安心したように笑った。
そして、同じように窓の外に目をやると、不意に呟いた。

「……そういや、この前は返事できなかったんですけどね」

「この前?」

 問い返して、ルーフェンが首を傾げる。
オーラントは、ルーフェンと目を合わせないまま、続けた。

「奈落で、話した時のやつです。あんた、いつか召喚師になって、良かったと思う日が来るんだろうかって、そう言ってましたよね」

「ああ……はい」

 そんな会話、覚えていたのかと意外に思って、ルーフェンはオーラントの横顔を見た。
正直、返事を期待して言ったものでなかったし、ただの独り言みたいなものだったから、改めて話題に出されると、反応に困る。
本心から出た言葉だったということもあって、今更掘り返されるのは、なんだか気恥ずかしかった。

 しかし、そんなルーフェンの心情には関係なく、オーラントは、明るい声で告げた。

「あんたが、今後どう思うのか。それは分かりません。でも俺は、あんたで良かったと思いますよ」

「…………」

 意表を突いてきた言葉に、ルーフェンが瞠目する。
オーラントは、ルーフェンの方を見て、穏やかに言った。

「召喚師ってのは強い立場だが、あんたは、弱い立場も知ってる。ほの暗い面、汚い面、色んなものを見て生きてきた。だから、色んな立場の奴等の気持ちがわかるあんたが、召喚師でよかったと思うよ」

 まあ、自由すぎる問題児だけどな、と付け加えて、オーラントが笑う。
ルーフェンは、しばらく呆気に取られたように黙り込んでいたが、やがて、すっと息を吸うと、オーラントから顔を背けた。

「……やっぱり、オーラントさん、なんかむかつく」

 窓の方を向いて、素っ気なく答えたルーフェンを見つめながら、オーラントは、くくっと笑いを噛み殺した。

「褒めてやってんのに、ほんっと可愛くねぇークソガキだな」


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