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投稿日:2021年02月24日






  *  *  *


 窓から差し込む朝日で、ルーフェンは自然と目を覚ました。
外では、既に王宮中の官僚や魔導師たちが、忙しく立ち働いている。
訓練場の方からは、騎士たちの勇ましい掛け声が聞こえてきて、ルーフェンは、しばらくそれらの喧騒に、ぼんやりと耳を傾けていた。

 こんなに朝寝坊をしたのは、いつぶりだろう。
最近は、次期召喚師としての業務に加えて、リオット族に関する仕事もこなさなければならなかったから、夜明け前に起きるのが常だった。

 ぽつぽつと、オーラントとの会話を思い出しながら、ルーフェンは素早く着替えて、自室を出た。

 次々と起こる、王位継承者の死。
そして、次期国王にシルヴィアが選ばれてしまうという焦りから、昨日はつい取り乱してしまった。
しかし、オーラントの言う通り、これは焦って解決できる問題ではないのかもしれない。

 まだ、シルヴィアが王位継承者を陥れたという証拠もないし、そもそも、シルヴィアが王座につくことを防ぎたいと思っているのは、現時点でルーフェンだけである。
シルヴィアを嫌悪しているのも、王位継承者の死の黒幕がシルヴィアだと決めつけているのも、言ってしまえば、全てルーフェンの勘。
そんな状態でシルヴィアを問い詰めたとしても、彼女が簡単に真相を吐くわけがないし、きっと、周りを納得させることも不可能だ。

 とにかく今は、冷静かつ迅速に──。
まずは王位継承者の死の真実を暴いていくことが、シルヴィアの即位を妨害するための一矢となるだろう。

(……そういえば、オーラントさんはどこにいるんだろう)

 そんなことを考えながら、本殿の廊下を歩いていると、曲がり角で、どんっと誰かにぶつかった。

「あっ、ごめん」

 咄嗟に謝るも、ばらばらと書類が舞って、床に散らばる。
相手も、大量の書類やら本を抱えていたせいで、歩いてくるルーフェンのことがよく見えていなかったようだ。

 慌てて床にしゃがんで、落ちている書類をかき集めていると、ふと、その紙面に記載されている名前を見て、ルーフェンは瞬いた。

(ジークハルト・バーンズ……?)

 はっと顔をあげて、ぶつかった相手を見る。
目の前で、同じように書類を拾っていた相手は、ルーフェンと同じくらいの年の、黒髪の少年であった。

「バーンズって……君、もしかして、オーラントさんの息子さん?」

 以前オーラントが、ルーフェンと同い年の息子がいると言っていたことを思い出して、問いかける。
黒髪の少年──ジークハルトは、切れ長の目でじろりとルーフェンを見ると、少し驚いた様子で目を見開いた。

「……確かに、私はオーラント・バーンズの息子ですが」

 そっけなく返して、ジークハルトが立ち上がる。
ルーフェンは、表情を明るくすると、集め終えた書類をジークハルトに差し出した。

「ぶつかってごめんね。俺は──」

「次期召喚師様、見れば分かります」

 ずばっと言葉を一刀両断されて、思わず口を閉じる。
ジークハルトは、ルーフェンの手から書類を受け取ると、軽く頭を下げた。

「失礼しました。それでは」

 まるで何事もなかったかのように、さっさとジークハルトは歩いていってしまう。
ルーフェンは、慌てて振り返ると、ジークハルトの肩に手を置いた。

「ちょっ、ちょっと待って!」

「……何か?」

 不機嫌そうな顔で睨まれて、一瞬たじろぐ。
ルーフェンは、少し困ったように笑うと、ジークハルトに尋ねた。

「いや、その……オーラントさんが今どこにいるのか、知らない? 話したいことがあるんだけど……」

 ジークハルトは、小さくため息をついた。

「知りません。……用件はそれだけですか?」

「え……う、うん」

「では、失礼します」

 それだけ言うと、くるりと踵を返して、再びジークハルトは歩いていってしまう。
もしや嫌われているのではないかと思うほどの無愛想さに、ルーフェンは、ぽかんとその後ろ姿を見つめていた。

 ジークハルトが着用していた黄白色のローブは、見習いを脱した、正規の魔導師が身に付けるものだ。
十四という年で、正規の魔導師として認められているということは、ジークハルトはかなり優秀なのだろう。
そこは、流石オーラントの息子だと言わざるを得ないが、あそこまで無愛想だと、どこかで恨みを買って出世に響きそうである。

(……アレイドも、俺があんな感じだったから、困ってたんだろうな)

 ついて回る弟のアレイドを、とにかく素っ気なくあしらっていた自分を思い出して、ルーフェンは、乾いた笑みを溢した。
アレイドは特に、気の弱い性分だったから、ルーフェンの冷たい態度が、さぞ恐ろしかったに違いない。
それでも諦めずに、毎日話しかけてくれていた彼の気持ちを思うと、胸の奥がちくりと痛んだ。

「…………」

 その時だった。
突然、凄まじい足音が響いてきたかと思うと、向かいから走ってきた魔導師の一人が、ジークハルトに飛びついた。

「ジークハルト! 今すぐ三階の手術室に行け!」

 飛びつかれた衝撃で、再び、ジークハルトの持っていた書類が散らばる。
ジークハルトは、若い魔導師を睨んだ。

「ってぇな、なんだよ……いきなり」

「いいから早く! お前の親父さん……バーンズ卿が、瀕死状態で宮廷医師のところに運ばれたって!」

 驚愕の色を滲ませて、ジークハルトが瞠目する。
なんとなく聞いていたルーフェンも、瞬間、大きく目を見開いた。

 散らばった書類もそのままに、ジークハルトが駆け出す。
ルーフェンも、その後を追いかけると、二人は、すぐさま宮廷医師たちのいる三階へと向かった。


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