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投稿日:2021年02月24日





 ルーフェンを見送り、ジークハルトたちのいる病室に戻ると、オーラントが、ぱちぱちと目を瞬かせた。

「……ん? ルーフェンは?」

 窓の近くに立っていたジークハルトも、サミルの方を見る。
サミルは、寝台の横まで歩いていくと、答えた。

「次期召喚師様は、王宮にお帰りになりました」

「もう? なんだよ、素っ気ねえなぁ」

 盛大なため息をついて、オーラントが文句をこぼす。
しかし、サミルが沈んだ表情で椅子に座り込んだところを見ると、オーラントは、微かに眉を寄せた。

「……何、話してたんです?」

「…………」

 サミルは、オーラントを見て、苦笑した。

「お聞きしてみたんです。何故ヘンリ村で育ったのか、ご自分の出自が気になりますか、と」

 オーラントの眉間の皺が、深くなる。
寝台に横たわったまま、目線だけ動かすと、オーラントは尋ねた。

「ルーフェンは、なんて?」

「今更どうでもいい、と」

 サミルの横顔に、寂しそうな色が浮かぶ。
ジークハルトは、ふっと息を吐いた。

「……あいつ、自分で調べる気なんじゃないか」

 オーラントとサミルの目が、ジークハルトに向く。
ジークハルトは、淡々と言った。

「王宮の手術室で、親父の上着を漁ってた時、シルヴィア・シェイルハート宛の変な封筒が出てきたんだ。あいつ、それを大事そうに懐にしまってたから、多分、今も持ってる。親父の記憶がない以上、何とも言えんが、親父は、あいつの出自を調べるために、召喚師の住む離宮に行ったんだろう。その上で、あの封筒を手がかりだと判断して入手してきたんだとしたら、あの封筒は、あいつの出自に関する何かである可能性が高い」

 ジークハルトは、呆れたように言った。

「相手はあの召喚師……親父はもちろん、レーシアス伯のことも巻き込みたくはない。だから周りには協力を求めず、自力で調べよう。あいつ、超絶根暗っぽいから、そういうこと考えそうじゃねえか。……まあ、俺もよく見てたわけじゃないから、分からんが」

 言い終わると、オーラントが大声をあげた。

「ちょっ、お前そういうことは早く言えよ! つうかよく見とけよ!」

「うるせえな! それどころじゃなかったんだよ、くそ親父!」

 オーラントが、うっと言葉を詰まらせる。
それに対し、ジークハルトが当て付けのように舌打ちすると、オーラントは渋々黙りこんだ。

 サミルは、深く嘆息して、俯いた。

「そう、ですよね……。自分が捨てられた理由なんて……気にならない訳がない」

 ジークハルトは、肩をすくめて言った。

「まあ、あいつが出自を気にしているかどうかはともかく。もしシルヴィアが、生まれた次期召喚師を自らの意思でヘンリ村に遺棄したんだとしたら、それは大問題だ。あの封筒がその証拠の一つだったとして、そのことを世間に公表しちまえば、シルヴィア・シェイルハートの信頼は地に落ちる。あの女を陥れるための材料を、あいつが見逃すとは思えないな」

「ルーフェンのやつ、そこまで考えてんのか……」

 神妙な面持ちで、オーラントが呟く。
ジークハルトは、吐き捨てるように答えた。

「どこまで考えてるかは、知らん。俺だって、ルーフェンには今朝会ったばかりだし、いまいちあいつは感情が読みづらい。……ただ」

 一瞬ためらって、ジークハルトは、目を伏せた。

「……昼間に話したときは、なんか危ない目してたぞ。シルヴィアを問い詰めるとか言って聞かないから、とりあえず俺がぶん殴って止めたが。……一応、しばらく様子見にする、とは言ってたが、あれは、隙あらばどんな手を使ってでもシルヴィアを引きずり落とす、みたいな目だったな。言葉にも態度にも出してなかったが、ふとした瞬間に、そういう目をしてた。親父がやられて、相当参ってるんだろ」

 虚を突かれた様子で、オーラントが目を見開く。
そして、再びはぁっと息を吐くと、申し訳なさそうに言った。

「……悪いことしたなぁ、本当に。お前にも、ルーフェンにも……俺が軽率に動きすぎた。自分でも、なんであんな風に離宮に行ったのか、よく分からん」

 全くだ、とでと言いたげな瞳で、ジークハルトがオーラントを睨む。
その鋭い視線から目をそらしつつ、オーラントは、がしがしと左手で頭を掻いた。

「でも、なんつうか……どうすりゃいいんだろうなぁ。あいつら、母子で一体なにやってるんだよ……」

 左腕を投げ出して、オーラントがぼやく。
するとサミルが、悲しげに眉を寄せて、静かに口を開いた。

「召喚師様も……きっと本来は、あのような方ではなかったのです……」

 ジークハルトとオーラントが、すっと目を細める。
オーラントは、サミルを見ると、真剣な表情になった。

「……レーシアス伯、気になってたんだが、貴方は何か知っているのか」

 はっと顔をあげて、サミルが唇を閉じる。
しばらくは黙っていたが、やがて口を開き、戸惑いながら、小さな声で言った。

「……ずっと、私の口から告げて良いものなのか、迷っていました。……召喚師様のことに関しては、私も多くは知りません。ですが、父親のことなら、知っています」

 オーラントが、驚いたように目を見開く。

「えっと、つまり……ルーフェンの父親、シルヴィア様の三人目の旦那、ってことか!」

 サミルは、頷いた。

「……彼は、召喚師様……シルヴィア様と関係を持ったことを世間には知らされず、何事もなかったかのように、存在を消されてしまいました。その真実を知っているのは、おそらく私と、シルヴィア様くらいでしょう」

 ぽつぽつと語りながら、サミルは、ゆっくりと唇を開いた。

「彼の、名前は──……」


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