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投稿日:2021年08月03日
ジークハルトは、脱力したように、再び寝台に身を預けた。
「……祝宴で何が起きたのかは、俺もさっぱり分からん。城下の状況と、ほとんど同じだ。化物については、シルヴィア・シェイルハートなら、何か知ってるかもしれんが……」
不意に言葉を切って、ジークハルトは、額に腕を乗せる。
疲労の滲んだ彼の声に、アレクシアも、ため息をついた。
「前召喚師は、今頃アーベリトよ。何か知っているのだとしても、聞き出せるのは先になるでしょうね。彼女はほとんど無傷だったそうだけれど、未だに意識が戻らないみたいだから」
目を細めて、アレクシアは続けた。
「……まずいことになったわね。花祭りの混雑時に、重要施設と要人を狙って襲撃してくるなんて、明らかに計画的な奇襲だわ。しかも相手は、得体の知れない化物なんて、作り話みたいで笑っちゃう。魔導師団と騎士団が受けた被害は甚大、宮廷魔導師団も大半が死んで、実質上の解体。おまけに、とって代わろうとする勢力が、胡散臭い新興騎士団だって言うんだから、カーライル家の年寄りと坊やが生き残ったところで、何の安心材料にもなりゃしないわ。敵の正体が分からない以上、次がないとも限らないし、シュベルテのお先真っ暗ね。折角正規の魔導師に昇格したところだけど、私、魔導師団を抜けようかしら」
ジークハルトは、思わず目をあげて、アレクシアを見た。
「新興騎士団……?」と呟けば、彼の言わんとすることは、アレクシアにも通じたらしい。
アレクシアは、皮肉っぽく笑んだ。
「教会を解放して、施療院を一般利用させたり、この城に仮設の救護室を作って、怪我人の治療を行っているのは、イシュカル教会が発足した新興騎士団の連中なのよ。事態が収まってから、のこのこ軍を率いてやってきたくせに、今じゃシュベルテを救った英雄気取りよ? こんな阿呆らしいことってないけれど、彼らの言葉を鵜呑みにする馬鹿の多いこと多いこと。まあ、こうなることは予測できていたけどね。今は、頼れる戦力が他にないんだもの。いつまた襲われるか分からない状況下で、この街を牛耳っていた魔導師団が役に立たないとなれば、胡散臭い宗教団体だろうがなんだろうが、支持せざるを得ないのが人ってものでしょ?」
「…………」
ふと、耳の奥で、馬蹄の音が蘇る。
ジークハルトは、考え込むように眉を寄せると、ぽつりと呟いた。
「……最初から、それが狙いか? 魔導師団を貶め、自分達が台頭するために、襲撃を……」
言いかけて、首を振る。
「いや、だとすればイージウス卿まで殺す必要はなかったはずだ。新興騎士団としての地位を確立させるなら、街を半壊させて不特定多数を狙うより、魔導師団の幹部やカーライル家の人間だけを狙ったほうが確実だ。無駄に被害を拡大させた意味が分からない。あるいは、何らかの方法であのような化物まで差し向け、不安を煽り、後々召喚師一族に罪を被せようとしている……? 力を誇示したいだけならば、直に名乗り出てくるだろうが……」
ぶつぶつと、独り言のように言いながら、ジークハルトは、厳しい表情で宙を睨んでいる。
アレクシアは、片眉をあげた。
「イージウス卿が殺されたからといって、新興騎士団が無関係とは限らないわよ。実権を握っていたのは、おそらく彼ではないもの」
ジークハルトが、怪訝そうに顔を歪めた。
「……どういう意味だ?」
「さあ、捨てられたんじゃない? 今回の黒幕が、本当に新興騎士団ならね」
頭を動かしたジークハルトが、アレクシアを凝視する。
アレクシアは、くすりと笑った。
旧王家によって発足された、レオン・イージウス率いる歴史ある世俗騎士団と、反召喚師派であるイシュカル教会が発足した新興の宗教騎士団は、別物である。
新興騎士団の実体は、未だ掴めていないが、ジークハルトやヴァレイは、両者は水面下で協力関係にあるのだろうと睨んでいた。
世俗騎士団は、次期国王にシャルシスを望んでいたが、バジレットやルーフェンによるアーベリトへの王位譲渡で、その思惑を阻止された。
一方、イシュカル教会は、リオット族の王都入りや遷都の機に高まった、召喚師一族に対する民の反感を利用し、その勢力を徐々に拡大させてきた。
両者の利害は、カーライル家と召喚師一族の没落を目論んでいる、という点で一致している。
故に手を組み、レオン・イージウスが、勢力拡大のため、民間の宗教団体に過ぎなかったイシュカル教会に新興騎士団の発足という手段をとらせたのだと、宮廷魔導師団は睨んでいたのだ。
しかし、アレクシアの言葉をそのまま受け取るならば、新興騎士団には、主犯格の人間が他にいて、レオンが死んだ今は、実質その者が主導権を握っている、ということになる。
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