トップページへ
目次選択へ
投稿日:2021年02月24日






 打開策を考える間もなく、次なるラフェリオンの刃が迫る。
避けるか、受けるか──。
その判断の遅れが、トワリスの動きを一瞬鈍らせた、次の瞬間。
飛びかかってきたラフェリオンは、突然見えない壁にぶち当たったかのように、弾かれて床に転がった。
敷布を巻き込みながら、地面を滑走していくラフェリオンの周りを、飛来した複数の宝珠が取り囲む。
宝珠は、一斉に炎を吹き出し、燃え盛りながら、まるで縛り上げるようにラフェリオンを包み込んだ。

 連続的に爆裂が生じて、思わずその場に身を伏せる。
咄嗟に床に剣を刺し、なんとか襲い来る衝撃波から身を守ったが、爆風が収まってから目を開けて、トワリスは瞠目した。
目前の床が爆発で抜け、焼け落ちて消滅していたのだ。
どうやらラフェリオンも、一緒に一階へと落ちてしまったようだ。

 轟音に驚いたのだろう、魔導書を探していたはずのサイが、部屋から飛び出してくる。
同時に、別の部屋からもこつこつと足音が響いてきたかと思うと、アレクシアが、小さく舌打ちをしながら現れた。

「うまく一階に落ちて逃げたわね……」

 忌々しそうに眉を歪めて、アレクシアは、抜けた長廊下の大穴を見つめている。
次いで、ぽかんと立っているトワリスとサイを見ると、アレクシアは、階段を顎で示して言った。

「何をぼさっと突っ立っているのよ。私の術も長くは持たないわ。助けてあげたんだから、早く一階に降りて足止めしなさい。さっさと行かないと、あのイカれ人形、また二階に上がってくるわよ」

 トワリスは、我に返って立ち上がると、アレクシアの元に駆け寄った。

「足止めって……アレクシア、一体何やってるのさ。まさか、朝からこの屋敷に来てたの? 一人で?」

 宝珠が飛んできたので、もしやとは思ったが、本当にアレクシアの魔術だったとは。
てっきりアレクシアは、外をふらついているのかと思っていたので、こんな危険な屋敷に単身乗り込んでいたとは、正直意外であった。

 アレクシアは、心外だ、とでも言いたげに首を振った。

「何やってるのって、それはこっちの台詞よ。広い一階で足止めすればいいのに、なんで狭い二階の長廊下なんかで交戦してるのよ。危うく私まで巻き込まれるところだったじゃない」

 トワリスは、むっとして眉を寄せた。

「なんでって……ラフェリオンについて書かれた魔導書を探してたんだよ。二階に魔導書の並ぶ部屋があったって、アレクシアが言ったんじゃないか」

「はあ? 魔導書?」

 言ってから、自分の昨日の発言を思い出したのか、アレクシアがため息をつく。
サイも近寄ってくると、二人の会話に口を挟んだ。

「アレクシアさんも、二階で魔導書を探していたのではないのですか? 昨日も真っ先に二階に上がっていましたから、貴女はラフェリオンを破壊する手立てが、二階にあるのだと知っているのかと思っていましたが……」

 サイの言葉に、アレクシアは、呆れたように肩をすくめた。

「なるほど、サイもトワリスも、馬鹿正直に魔導書とやらを探していたってわけ。言っておくけれど、この屋敷に魔導書なんてないわよ。私が昨日、隅々まで探したもの」

「はあ!?」

 思わず声を出して、アレクシアに詰め寄る。
ぐっと顔を近づけると、トワリスは攻めるような口調で言った。

「それならそうと言ってよ! アレクシアが捜索済みだって知ってたら、私達だって……!」

「だから昨夜言ったじゃない。貴女たちはただ、あの魔導人形の相手をしていればいいのよ、って」

 余裕綽々とした笑みを浮かべて、アレクシアがトワリスを見下ろす。
慌てて二人の間に割って入ると、サイはアレクシアに問うた。

「えっと、それならアレクシアさんは、何故今も二階に? ラフェリオンを破壊できる別の方法が、二階に隠されているんですか?」

 アレクシアは、一瞬口を閉じてから、目線をそらした。

「ちょっと他の探し物をしていただけよ。そもそも、あのイカれ人形を完全に破壊しきるのは無理だわ。だから貴方たちに、足止めをお願いしたんじゃない」

「破壊できないって、なんで」

 トワリスが聞き返すと、アレクシアは、あっけらかんと答えた。

「だってあの人形には、術式が彫られていないもの」

 サイとトワリスが、同時に目を見開く。
動揺した様子で、サイは口早に捲し立てた。

「そ、そんなわけがありません! 術者がいない以上、術式がなければ、ラフェリオンは動くこともできないはずです。本当に術式がないのだとすれば、誰かが近くで私達のことを見て、ラフェリオンを操っていることになるんですよ? この場には、ラフェリオンを操れるような人間なんて、いないじゃないですか!」

 アレクシアは、冷静に返した。

「知らないわよ。ないものはないんだから、私に問い詰められても困るわ」

 アレクシアに睨まれて、サイが口ごもる。
トワリスは、微かに表情を険しくすると、アレクシアに向き直った。

「……アレクシアは、どうして術式が彫られていないなんて分かるの? ラフェリオンを解体して、調べたってこと?」

「…………」

 トワリスからの疑念を感じ取ったのか、アレクシアは、目を細めた。
そして、同じくトワリスの方を向くと、挑戦的な笑みを浮かべた。

「私があの人形を操ってるとでも言いたいの? 言っておくけれど、的外れもいいとこだわ。私はただ、見ただけよ」

「だから、見たって一体どうやって……!」

 はっきりとしないアレクシアの言い分に、トワリスが追及を繰り返そうとした、その時──。
不意に、足元が大きく揺れたかと思うと、何かが砕かれるような重々しい音が響いて、長廊下全体がうねるように動き出した。
ラフェリオンが、トワリスたちを落とそうと、二階を支える柱を体当たりして破壊しようとしているのである。

 真っ先に反応したのは、アレクシアであった。
二人の間を抜けると、アレクシアは、一階へと続く階段を素早く駆け下りていく。
サイとトワリスも、急いで後に続けば、程なくして、残っていた長廊下の床部分が、がらがらと崩れ去った。

 一階の大広間は、足の踏み場もないほどに瓦礫が落ちており、散々な有り様であった。
叩き折れた柱のそばに控えていたラフェリオンは、ゆっくりと向きを変えると、トワリスたち三人を見据える。
足場が悪いため、すぐに加速して襲いかかってこようとはしなかったが、動きづらい状況なのは、トワリスたちも同じであった。

 腹立たしそうに前に出たアレクシアが、空に手をかざすと、先程ラフェリオンを取り囲んでいた無数の宝珠が再び宙を舞い、目映い光を放った。
一気に視界が明るくなり、同時に、大地を揺るがすような雷鳴が耳朶じだを叩く。
放たれた稲妻は、まるで檻のようにラフェリオンを四方から追い立て、包みこんだが、次の瞬間には、弾かれたように霧散してしまった。
ラフェリオンが刃を振っただけで、稲妻が紙切れのように切り裂かれたのだ。

 アレクシアは、浮かぶ宝珠を自分の手元に引き寄せ、その中から照明代わりに一つ、宝珠を放ると、再度舌打ちをした。

「全く……面倒臭い。冥鉱石だの、海蜘蛛の何とかを使ってるっていうのは、本当みたいね。色々と予定が狂ったわ、どうしてくれるの。私はあんなイカれ人形の相手をするのはごめんよ」

 アレクシアにぎろっと睨まれて、トワリスは顔をしかめた。
二階で探し物があったとか何とか言っていたが、そんなことは何も説明されていなかったし、力を貸す道理はない。
アレクシアの方こそ、ラフェリオンの破壊に全くといって良いほど協力してくれないくせに、こんな理不尽な文句を言われる筋合いはなかった。


- 44 -


🔖しおりを挟む

 👏拍手を送る

前ページへ  次ページへ

目次選択へ


(総ページ数148)