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投稿日:2025年12月31日
トワリスは、しばらくハインツの返事を待っていたが、やがて、目を伏せると、平坦な声で言った。
「……ハインツの気持ちは、分かった。……いいよ、私だけで追う。そもそも発端は、私がファフリたちをサーフェリアに連れてきてしまったことだったんだ。だからって、彼女たちを助けたことに後悔はないけど……私に責任があることに変わらない。私は行かなきゃ」
「えっ……」
ようやく声を出したハインツが、弾かれたように目をあげる。
慌ててトワリスの腕を掴むと、ハインツは、泣きそうな声で言った。
「ト、トワリスが、行くなら……お、俺も行く」
腕を見て、トワリスは、怪訝そうに眉をしかめた。
「どうして? さっき、見たくないとか言ってたじゃないか」
「そ、そうだけど……! ルーフェン、し、心配なのも、本当だし。トワリスも、一人じゃ、危ないよ」
「そんなことは分かってる。でも、本来なら私が、反逆罪に問われる立場だったんだ。国に背いてでも、ファフリたちを助けようって思った時から、追われる覚悟は出来てた」
「お、俺だって、一年前、助けるの手伝った! から……トワリス行くなら、やっぱり──」
「──私がどうとかじゃなくて、自分のことは自分で決めなよ!」
「はい! 一旦終了! 終了ーっ!」
再び口論が始まりそうな予感に、リリアナが、パンパンと手を叩いて制止をかける。
トワリスとハインツを引き離すように割り込むと、リリアナは、困ったように眉を下げた。
「二人とも、ちょっと落ち着いて! いつまでも言い争っていたって、仕方がないじゃない。一体何があったって言うの? 私、全然話についていけてないわ」
「…………」
トワリスとハインツは、リリアナの方は見もせずに、黙って俯いている。
まるでむくれた子供のような有様に、リリアナは、呆れたように肩をすくめた。
「まさか、このままだんまりを決め込むつもり? この期に及んで、そんなのってないわ。召喚師制を廃するって、どういうこと? ファフリちゃんたちのことが関係しているの?」
立て続けに問いながら、リリアナは、トワリスの方へ車椅子を向ける。
トワリスは、首を横に振ると、沈んだ声で答えた。
「……リリアナたちは、知らない方がいいと思う。これは、二人には──」
「関係のないことだ、なんて言わないわよね? 別に恩を着せるつもりはないけれど、瀕死でミストリアから帰ってきたトワリスやファフリちゃんたちを匿ったのは、他でもない私たちなのよ」
「うっ……」
強気な態度で腕組みをしたリリアナに、トワリスが言い淀む。
それでも躊躇いがあるのか、トワリスは、しばらく沈黙していたが、やがて、観念したように息を吐くと、今日あった出来事をリリアナに語った。
ファフリたちを秘密裏に生かしていた罪で、ルーフェンが教会に告発されたこと。
それにより、今シュベルテでは厳戒態勢を敷かれ、逃亡したルーフェンが総出で捜索されているということ。
流石に、彼の狙いまでは細かく話さなかったが、反発したトワリスとハインツが、宮廷魔導師団から抜け出してきたことまで、全てを白状した。
聞いていたリリアナは、いまいち事態を飲み込めていないような顔つきで、ぽかんとしていたが、トワリスが話し終えると、辿々しく口を開いた。
「そ、そうなの……そんなことが。だからさっき、これからこの国では何が起こるか分からない、なんて言ったのね」
トワリスは、神妙な面持ちで頷いた。
「……うん。具体的にどうなるかなんて予測もつかないけど、陛下もお倒れになって、教会が政権を牛耳ることになるのは確かだと思う。それに対する各地方の反応も、賛否両論あるだろうし……しばらくは、国全体が荒れるんじゃないかな。これだけの動乱を覚悟で姿を消したってことは、きっと理由は一つじゃなかったんだ。それを聞き出すためにも、魔導師団や騎士団より早く、ルーフェンさんを見つけないと」
トワリスの頑なな態度に、リリアナが、迷った様子で目線を落とす。
何も言わない姉を一瞥すると、カイルが、ずいと前に出た。
「俺は反対だよ。だってトワリス、折角ミストリアから生きて帰って来られたんじゃないか。怪我も治って、無事に宮廷魔導師団にも復帰できてさ……それなのに、また死ぬかもしれない旅に出ようなんて、そんなの無茶苦茶だよ。……ルーフェンなら、一人でも大丈夫さ。誰が追ってきたって、なんだかんだで上手く躱せる。きっと本人も、そのつもりで一人で逃げたんだよ」
ぎゅっと眉を寄せたカイルが、祈るような眼差しを向けてくる。
それに同調するような形で、リリアナが、トワリスの手を握った。
「私も……ハインツくんやカイルと同じ意見だわ。ルーフェン様のことが心配だっていうトワリスの気持ちも、勿論わかる。だけど、それで魔導師をやめちゃっていいの? トワリス、子供の頃からずーっと、魔導師になろうって頑張ってきたじゃない。今ならまだ、団長さんに謝って、団に戻してもらうことも出来るかもしれないでしょう? このまま残れば、宮廷魔導師として、こっそりルーフェン様が逃げられるように手回しする方法もあるかもしれないし……。仮に団に戻れなくても、そうなった時は、うちに帰ってくればいいじゃない。ほら、ハインツくんも。ちょうど男手が欲しかったのよね! 二人がお店を手伝ってくれたら、私としても心強いし、そのまま四人でヘンリ村で暮らせたら、すごく楽しいと思うわ。それに……」
続けようとしたリリアナの言葉が、徐々に尻すぼみになって、消えていく。
この調子で言い含めても、トワリスの心は動かないと悟ったのだろう。
リリアナは、握っていたトワリスの手を、ゆっくりと離した。
トワリスは、もう一度首を振った。
「……私にとって魔導師団は、獣人混じりであることを生かせる、唯一の場所だと思ってる。でも……もし離反したことを許されたとしても、今の魔導師団に戻りたいとは思えないよ。……私は私なりに、正しいと思ったことを選択して生きてきたし、ファフリたちのことも、獣人を一括りにして処刑するなんておかしいと思ったから、生かして帰したんだ。私は、王や教会が振りかざす正義に従って、ただ命令通りに動く駒になるために、魔導師になったんじゃない」
「トワリス……」
ぽつりと呟いたリリアナが、何かを言いかけて、口を閉じる。
トワリスを引き止める言葉は、他にも沢山浮かんでいたが、言えなかった。
彼女に残って欲しいのも本心だが、だからといって、強引に縛り付ける足枷にはなりたくなかったからだ。
しかし、リリアナが言えなかった一言を、その時、カイルが口にした。
「トワリスは、自分勝手だよ」
瞠目したトワリスが、カイルを凝視する。
その目を見つめ返して、カイルは言った。
「ミストリアに行った時も、今回も、全部自分一人で決めちゃってさ。俺たち、仮にも一緒に生活した家族みたいなもんなのに……トワリスは、姉さんや俺のこと、別にどうでも良いと思ってるんだろ」
リリアナが制止に入る前に、トワリスが否定した。
「そ、そんなことないよ。私は──」
「──じゃあどうして分かんないわけ? 俺たちは、トワリスがルーフェンを心配してるのと同じように、トワリスのことが心配だから、こうやって反対してるんだよ。それなのに頷かないってことは、俺たちの気持ちなんか、二の次だってことだろ! 違うって言うなら、もう危ないことには首を突っ込まないで、ここに残ってよ!」
「──……」
責めるような口調で畳みかけられて、トワリスは、思わず押し黙った。
相手が別の誰かであったなら、そんな子供みたいなことを言うなと、いなすことも出来ただろう。
だが、リリアナとカイルは、かつて、身寄りのなかったトワリスを受け入れて、姓まで与えてくれた人達だ。
両親を火事で失い、その後、アーベリトで叔母も失い、残ったトワリスのことを家族だと言うこの姉弟の言葉は、心の奥底まで、重く響くのであった。
トワリスに対し、更に言い募ろうとしたカイルの口を手で押さえると、リリアナが、慌てたように提案した。
「ま、まあまあ! 焦って結論を出そうとしても、良い答えは出ないわ。のんびりしていられないのは分かるけど、ここは一度落ち着いて、それからどうするか考えましょうよ」
言いながら、台所の方に移動すると、リリアナは、冷めてしまった鍋をもう一度火にかけた。
「ほら、良かったら夕飯食べない? 今夜はね、野菜たっぷりのシチューを沢山作ったのよ。あとは、ご近所さんにお芋を頂いたから、それを蒸して、ベーコンと玉葱を加えてね。これだけあれば、四人で食べても、おかわりできるくらいの量はあると思うの。……ね、考えてたら、お腹空いてきたでしょう?」
それぞれに笑みを向けて、リリアナは、杓子で鍋をかき混ぜる。
カイルは、眉元を曇らせ、不満げな顔で突っ立っていたが、匙とコップを用意するよう姉に指示されると、渋々といった様子で食卓を片付け始めた。
カイルが席に座るように促すと、ハインツは、躊躇いながらも食卓についた。
しかし、トワリスは「……うん」と答えただけで、その場から動かなかった。
ほとんど無意識に返事をした自分の声は、靄がかかっているかのように、どこか遠くに聞こえる。
再度声をかけてきたカイルに応じず、トワリスは、じっと床の一点を見つめていた。
(……私が追いかけても、きっと……)
きっと、ルーフェンが助けを求めてくることはない。
くつくつとシチューが煮える音を聞きながら、トワリスは、ふとそう思った。
カイルの言う通り、ルーフェンはあえて一人で逃げたのだろうし、トワリスたちの協力など、端から当てにしていないだろう。
むしろ、余計な手出しをされる方が面倒だ、くらいに思っているかもしれない。
そう考えると、自分を必要としてくれているリリアナたちの元に残るほうが良いのか、という思いが、心に覆い被さって蓋をした。
悲しいとか、悔しいという感情より、単純に、ひどいと思った。
だって、結局いつもこうなってしまう。
いつだって自分は置いてけぼりで、遠くへ去っていくルーフェンの後ろ姿を、成す術もなく見つめているだけだ。
かつてルーフェンは、トワリスやハインツに対し、「もう俺に恩を感じる必要はない、好きに生きたら良い」と言って線引きをしてきたが、現在のトワリスたちは、別に恩で動いているわけではない。
今の自分たちが、ルーフェンに対して抱いているのは、恩ではなく、もっと別の感情だ。
それくらい、彼だって分かっているはずなのに、それを見て見ぬふりして、一人でどこかへ行ってしまう。
そのくせ、時折振り返って、不安定な瞳を向けてくるから、余計にたちが悪いのだ。
置き去りにするなら、いっそ追いつけない速さで行ってしまえば、諦めがつくのに。
本当に、本当に、ひどい人だと思う。
今回だって、どうせ一人でいなくなるつもりだったなら、何故、直前に会いに来たりしたのだろう。
ほんの少しでも、別れを惜しむ気持ちや不安があったのなら、どうしてそうだと言ってくれなかったのだろう。
存外に格好つけたがるところがあるから、自分以外は巻き込めないとか、そんなことを思っていたんだろうか。
何か、ルーフェンの心の内が分かるような出来事はなかったか。
トワリスたちが気付けていないだけで、彼が遠回しに心情を吐露しているようなことはなかったか。
今更考えても仕方のないことが、暗雲のように立ち込めて、ぐるぐると頭の中を渦巻いている。
アーベリトが没落して、宮廷魔導師になってからは、立場上、ルーフェンとは疎遠になってしまった。
会えたとしても、王宮では教会の監視下に置かれていることが多かったので、お互いに、よそよそしい話し方しかできていなかったような気がする。
トワリスがミストリアから帰ってきた時も、そうだった。
では、それよりも以前に、何かなかっただろうか。
ルーフェン自身が、召喚師という制度を廃してしまおうと決意したあの時から──その葛藤が表れているような言葉や仕草、態度を見せていることはなかったか。
そうして、ルーフェンとの記憶を辿っていく内に、自然と視線を動いて、気づけばトワリスは、手の中の手紙を見つめていた。
日付と大金の用途しか書かれていない、憎らしいほど簡単で、無味乾燥な書き置き。
それでも、この字がルーフェンのものだと確信できたのは、トワリスが、それだけ彼の字を熱心に真似たことがあったからだ。
──はい。これが、トワリスちゃんの名前ね。
不意に、ルーフェンの声がして、彼の匂いが、鼻をかすったような気がした。
後ろから伸びてきた一回り大きな手が、羽ペンを握る自分の手に重なって、ペン先の動きを導く。
トワリスが、まだ読み書きもできなかった頃に、初めてルーフェンに文字を教えてもらった時の記憶だ。
そこまで遡ると、不意に、締め付けられるような痛みが、胸の奥から這い上がってきた。
──ペンを握るときも、書くときも、もっと軽い力でいいよ。こうやって、紙面を撫でるみたいに書くんだ。
すぐそばに、ルーフェンの気配があって、優しい声が聞こえてくる。
もう十数年も前のことなのに、こんなにも鮮やかに思い出せるのは、あの頃のルーフェンが、彼の本来の姿だったと度々感じていたからだろう。
苦境は多くあれど、きっと当時のルーフェンは、まだ召喚術の正体など知らなかった。
知らずに、ただ一心にアーベリトの平穏を願って、サミルの隣に立っていたのだ。
あれから、本当にいろんなことがあったが、彼が珍しい表情をした時のことは、いずれもよく覚えている。
アーベリトが滅んでから、ヘンリ村近くの山荘で話した時のことも。
トワリスがミストリアに行く前に、声をかけてきた時のことも──。
──最近、ずっと考えてるんだ。俺は、どこで間違ったのか。俺は、今まで、どう生きてくれば良かったのか……。
前召喚師シルヴィアが処刑される前に、そう呟いたルーフェンの暗い瞳が、脳裏によぎる。
一つ、また一つと彼の言葉を思い起こしていくと、数々の思い出の側面が、違った意味を持って見え始めた。
手紙に記されていた文字が、ぼやけて滲んだ。
自分が泣いていることに気づいたのは、痺れを切らしたカイルが、顔を覗き込んできた時であった。
「トワリス……?」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
トワリスは、涙を拭って、瞠目したカイルを見た。
「ごめん……カイルも、リリアナも。本当に、ごめん……」
トワリスは、引き攣る喉で、ひくりと息を吸った。
「でも、このままじゃ、ルーフェンさん、死んじゃうかもしれない。私、もう、どうすれば良いのか……」
絞り出した声は、嗚咽混じりで、自分でも何と言ってるのか、よく分からなかった。
ハインツとリリアナが、思わず振り返って、トワリスのこと見つめている。
カイルは、困ったように他の二人を見てから、慣れない仕草で、トワリスの肩に手を置いた。
「な、何言ってるんだよ。大丈夫だって。さっきも言っただろ? ルーフェンなら、一人でもなんとかするよ」
トワリスは、ゆるゆると首を振った。
「逃げられるかどうか、って話じゃ、ないんだよ。……ルーフェンさんは、アーベリトを守れなかったこと、ずっと後悔してた。あの時に、召喚師は自分の代で終わりにするって、決めてしまったんだと思う。もしかしたら、自分が死ぬことで、全て終わりにさせようとしてるのかもしれない……」
こぼれ落ちた涙が、ぱたぱたと床を濡らす。
肩を震わせ、言葉を詰まらせながら、トワリスは呟いた。
「このまま、もう二度と会えなかったら、どうしよう……」
両手で顔を覆うと、トワリスは、か細く声を上げて泣き始めた。
カイルが、驚いた様子で手を引いて、一歩後ろに下がる。
長く一緒に暮らしてきたが、こんな風に泣いているトワリスを見たのは、初めてであった。
なんと言って良いのか分からず、黙っていると、不意に、リリアナが、シチューを盛った皿をコトン、と竈の横に置いた。
夕食の準備を一旦中断して、リリアナは、何やら台所の引き出しを漁っている。
何を始めたのかと目をやると、どうやら彼女は、取り出した弁当箱に、保存していたパンやら燻製肉、先程蒸した芋などを、手当たり次第に詰め込んでいるようであった。
やがて、風呂敷に包んだ弁当箱を二つ、膝に乗せると、リリアナは、車椅子を動かして、トワリスの前までやってきた。
そして、泣いている彼女の腕を、ぽんぽんと叩く。
顔を上げたトワリスに向けて、リリアナは、両手で拳を作って見せると、勢いよく言った。
「女は度胸! 押して駄目ならもっと押せ、よ!」
言われたことが理解できなかったのか、トワリスが、ぱちぱちと瞬く。
リリアナは、トワリスの手を取ると、弁当箱を握らせた。
「自分の中で答えは決まっているのに、どうすれば良いのか分からない、なんて言っちゃいけないわ。ごめんね、引き止めちゃって……。もう何も言わないから、早く行って。はい、ハインツくんも、行くんでしょう? これ、あるもの適当に詰め込んだだけだけど、お腹が空いたら食べて」
そう言って、リリアナは、食卓の近くに佇んでいるハインツにも、弁当箱を渡す。
目を丸くして、戸惑ったように弁当箱を持っているトワリスとハインツを見て、リリアナは続けた。
「私達のことは、気にしないで。二人がいてくれたら心強い、って言ったのは嘘じゃないけど、うちにはもうカイルがいるもの。この子、十四になってから、腹立つくらいの勢いで背が伸びてるのよ。初めて出会った頃は、トワリスの腰くらいまでしかなかったのに、今はもう、ほとんど同じ背丈よ。最近は、お店のこと全部任せちゃおうかなって思ってるくらいだし」
冗談混じりに言って、リリアナは、弟の背を指先で小突いた。
カイルは、鬱陶しそうに姉を見たが、何も言わなかった。
正直なところ、トワリスを引き止めたのは、姉が飲み込んでしまった言葉を、代弁した結果だったのだ。
その姉が、二人を止めるなというなら、カイルからは、もう何も言えなかった。
リリアナは、再び車椅子を操って、トワリスの前へ行った。
「大丈夫! 私、知ってるわよ。トワリスって子供の頃から、一っ飛びで家の屋根に登れるくらい身軽だし、足も速いでしょ? でもってハインツくんは、剣で斬られたってびくともしないくらい頑丈だし、国一番の力自慢でしょ? さっきまでは心配だなーって思ってたけど、なんか、よくよく考えてみたら、この二人に本気で追われて捕まらない人はいないし、追いつく人もいないような気がしてきたわ」
明るい口調で言って、リリアナは、おかしそうに笑う。
そんな彼女の笑顔を、トワリスは、ただ見つめていることしかできなかった。
いつだってリリアナは、自分を応援してくれる。
散々振り回されたこともあったけれど、どんな時でも屈託なく笑って、背を押してくれるリリアナの存在に、トワリスは、何度救われたか分からない。
彼女に対する感謝の念は、とても大きかったが、だからこそ、この場ではうまく声に出して、気持ちを伝えることができなかった。
「絶対に……」
一瞬だけ涙声になって、リリアナは言った。
「絶対に、帰ってきてね。二人とも、全て終わったら、真っ先にうちに来て、ただいまって言ってね」
頬を伝った涙を、トワリスは拭った。
拭っても止まらないので、しばらく俯いて、必死に瞬いていたが、やがて顔を上げると、トワリスは深く頷いた。
「うん……うん。ありがとう。絶対、帰ってくるよ」
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