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投稿日:2025年12月31日






 ジークハルトは、短く詠唱すると、抵抗し続けるノイの両手足を、見えない枷で拘束した。
途端、鎖で縫い留められたかのように、手足が地面から持ち上がらなくなる。
目に見えて焦り出したノイに、ジークハルトは尋ねた。

「もう一度聞く! 召喚師はどこだ?」

「だから! 私たちは本当に何も──」
 
「──ならば何故、ルーフェンが一人でないことを知っている? シャルシス殿下が奴に同行していることは、まだ公にされていないことだ!」

 凍りついたノイの目が、大きく見開かれる。
同時に、各々の得物を構え、臨戦態勢に入った魔導師たちを見て、リオット族たちが短く悲鳴をあげた。
──その時だった。

 ジークハルトたちの足下に、巨大な魔法陣が展開したかと思うと、そこから怒涛のような炎が噴き上がった。
抗う間も無く、痛みを伴った熱気が、魔導師たちの全身をなぶる。
視界は緋色に染まり、燃え盛る轟音が聴覚を支配し、五感全てを灼き尽くされているようであった。

 喘ぐことも出来ず、爆炎に翻弄されていたジークハルトは、しかし、緩んだ魔術の枷から逃れようとするノイの抵抗に気づくと、はっと我に返った。
恐れず目を開き、周囲を見渡せば、揺れる炎の先で、黒い影が四方に散っていく。
それが、示し合わせたかのような素早さで、砦から脱出するリオット族たちの姿だと分かった時。
ジークハルトは、ルマニールを握り直して、舌打ちをした。

(くそっ、幻術か……!)

 そう自覚した途端、刺すような熱さが消え、ふっと呼吸が楽になる。
いくら頑強なリオット族といえども、魔術の炎に焼かれて、平然と動けるはずがない。
これは幻術だ。完全で精巧な──けれども、所詮はまやかしでしかない、幻の炎なのだ。

 ジークハルトは、熱気を振り払うようにルマニールを一転させると、その石突を、思い切り地面に叩きつけた。
カンッ、と打音が響くと共に、ジークハルトを中心に魔法陣が描き代わり、幻術の炎が霧散する。
次いで、ジークハルトはノイを引き戻そうとしたが、ノイは、伸びてきた手を器用にかわして、束縛から逃れてしまう。
彼女が走っていった先を見やり、そこに立っている男を認めると、ジークハルトは、唸るような声でその名を呼んだ。

「……ルーフェン……!」

 間髪入れずにルマニールを半転させ、ジークハルトは、その穂先をルーフェンに向ける。
同時に、他の面々も得物を構えると、素早くルーフェンを取り囲んだ。
南方部隊から連れてきた六名の魔導師たちは、意識が朦朧としているのか、視点が定まっていない様子であったが、それでも、失神するまでには至らなかったようだ。
先程の幻術は、身体的な実害こそ与えないものの、長く晒されることになれば、精神的苦痛に耐え切れず、意識が飛ぶくらいの威力はあった。
あと少し見破るのが遅れれば、ジークハルトたち宮廷魔導師も含め、全員がこの場で気絶する羽目になっていただろう。

 触れれば切れてしまいそうな、異様な緊迫感の中。
ふう、と息を吐くと、ルーフェンは、場に合わぬ緩んだ笑みを浮かべた。

「あーあ、見つかっちゃった。女の子相手でも、全く容赦ないんだから……」

 ルーフェンの側でうずくまっていたノイが、罰が悪そうに俯く。
それとなく彼女を背後に誘導し、ルーフェンが前に移動しようとすると、次の瞬間、足元を目がけて、ギールが威嚇射撃をしてきた。

「止まれ! あと一歩でも動いてみろ、その頭を吹き飛ばしてやる!」

 憎悪を宿した瞳を爛々と光らせ、ギールは、次に備えて銃剣を構え直す。
その目には、ルーフェン以外の何者も映っていないようであった。

 自分を取り囲む、十名の魔導師たちを見回して、ルーフェンは、困ったように両手を上げた。

「ちょっと待った。流石にこの人数を相手に、抵抗するつもりはないよ。大人しくするから、この子は逃してあげてくんない? 俺がノーラデュースに潜り込んだのは、指名手配の情報が出回る前だ。つまりリオット族は、知らず知らずのうちに俺を匿うことになったってわけ。情状酌量の余地はあるでしょ?」

 そう言って、ルーフェンが視線でノイを示せば、ノイが、何か言いたげに唇を震わせる。
ギールが、判断に迷ってジークハルトを見ると、ジークハルトは、ヨークの方に視線をやった。

「ヴィルマン卿、拘束術を」

「…………」

 無言で承知したらしいヨークが、ルーフェンと向かい合って立つ。
ヨークは、人差し指で宙に古語を書き連ねると、温度のない声音で告げた。

「抵抗しないという言葉が真実ならば、今から私が言うことに、是と答えて下さい」

 目の前に浮かび上がった文字列を見て、ルーフェンは、嫌そうに眉を寄せた。

「……なにこれ、呪詛かなんか? 安易に頷きたくはない感じだなぁ」

「答えは是か非か、どちらかです」

 言うや、ヨークが指先を動かすと、古語が鎖のように連なって、ルーフェンの両腕に巻き付いた。
ジュッと肉が焦げるような音と共に、刺すような痛みが走って、古語が皮膚に貼り付く。
顔を歪めたルーフェンに対し、ヨークは、淡々と詠唱した。

「罪深き者よ。我が前に赦しを乞い、決して抗わず、その身に裁きを受け入れよ」

 ルーフェンは、少しの間沈黙していたが、ややあって、諦めたように嘆息すると、短く答えた。

「……仰せの通りに」

 瞬間、古語が鈍い光を帯び、ルーフェンの意志とは関係なく、後ろ手に拘束される。
ルーフェンは、鈍痛に脈打つ自身の両腕を見下ろして、うんざりした顔になった。

「はぁ、呪詛のたぐいは痛いから嫌だよ。これ、じきに腕が腐り落ちたりしないよね?」

 ヨークは、ふっと鼻を鳴らした。

「それは呪言縛りという、両者の合意があって初めて成立する呪詛の一種です。貴殿は自らの意志で、その術にかかった。その分、誓約の効力は強く、力づくで解術しようとした場合は、腕に刻印した呪言が全身に回り、やがて心臓を食い潰します。術者の力量に左右されない、言わば契約のようなものですね。元は死刑囚に施すために考案した拘束術です。そのまま王都に戻って、処刑台に上がるが良い」

 それを聞いて、ルーフェンはわざとらしく項垂れた。

「えぇ……でもここから王都まで、一月以上はかかるでしょ? その間、ずっと両手が使えないのは不便なんだけど」

「では、その道中で私が魔力切れでも起こすことを祈っていてください。あるいは、術者である私を殺せば、術も解けますよ。……試してみたいのなら、ご自由に」

「魔力切れか、術者殺しねぇ……。とりあえず後者は、貴方に手を出した瞬間に呪詛が発動しそうだから、やめておくよ」

 軽々しい口調で言って、ルーフェンは肩をすくめる。
ジークハルトは、ルーフェンに抵抗の意思がないことを改めて確認すると、彼に向けていた穂先を、再びノイに突きつけた。
そして、周囲に並んでいる魔導師たち六名を見回すと、命令を下した。

「お前たちは、逃げていったリオット族たちを手分けして追え。地の利は彼女たちにある、深追いはしなくていい。明日の朝までに、見つけられた人数だけ生捕りにして、この砦に戻れ」

「……承知しました」

 幻術を受けた際の意識混濁が、まだ抜けきっていないのだろう。
魔導師たちは、覚束ない足取りで、よろよろと砦を出て行く。
ルーフェンは、ノイを人質にとったジークハルトを見て、片眉を上げた。

「……んで? 結局リオット族を解放する気はない、ってわけ。ジークくん、こんなことする人だっけ?」

 ジークハルトは、険しい顔つきでルーフェンを睨んだ。

「何とでも言え。俺は、お前が従えばリオット族を解放するなどと言った覚えはないし、お前がこのまま従うとも思っていない。……安心しろ、リオット族には、不用意に危害を加えるような真似はしない。お前が本当に大人しくしているならな」

「…………」

 この期に及んで、薄く微笑んだルーフェンを見て、ギールは疼くような嫌悪感を感じた。
つくづく、このルーフェン・シェイルハートという男は不気味だ。
二月前と出立いでたちは違うものの、その表情や立ち振る舞いからは、変わらぬ余裕や冷静さが伺える。
普通は、二月も過酷な逃亡生活を送っていれば、目に見えて衰弱してくるはずだ。
第一ルーフェンは、王宮から逃走した時に、ジークハルトやギールからの攻撃を受けて、それなりの深傷を負っていた。
にも拘わらず、今、目の前に立っているこの男は、精神的にも肉体的にも消耗した様子はなく、むしろ、こちらの付け入る隙を虎視眈々と狙っている。
非情な光を銀眼の奥に隠し、捉えどころのない言動をとって美しく笑むその姿は、さながら無感情な人形のようにも見えた。

 ノイの首筋に刃を添えたまま、ジークハルトが尋ねた。

「それより、シャルシス殿下の姿が見当たらないが、どこへやった? お前が王宮から連れ出したことは、分かっているんだぞ」

 殺気にも似た緊張感が、ジークハルトたちの間に走る。
今回の追跡において、ルーフェンの捕縛以上に重要とも言えることは、シャルシスを無事に保護することだ。
万が一にも、シャルシスの身に危険があれば、王宮は再び、王家存続の危機に見舞われることになる。

 ルーフェンは、不安げなノイを一瞥してから、淡々と返した。

「知らないよ。殿下のことは、シュベルテを出てすぐに、ヘーゲの宿場で解放したんだ。王族の顔なんて浸透していない地方に下っていくのに、わざわざ彼を人質とする意味なんてないからね」

「──嘘よ」

 はっきりとした声が、ルーフェンの言葉を遮る。
間髪入れずに否定してきたのは、アレクシアであった。

「貴方がライベルクまで殿下を同行させていたことは、調査済みなのよ。ライベルクまで来て、今更逃がす意味なんてないのだから、このノーラデュースにも連れてきているのでしょう? 誤魔化しは通用しないわ、さっさと殿下の居場所を吐きなさい」

 ルーフェンは、少し驚いたようにアレクシアを見た。

「……ああ、そうか。君は目が"良い"んだったね。厄介だなぁ、どこまで知ってるの?」

 アレクシアは、さらりと髪をかき上げた。

「さあ? どこまでかしら。貴方が身分を偽って宿を利用していたこと、地下に怪しげな魔法陣を敷いていたこと……他にも知りたければ、ここで暴露してあげるけど?」

「……へえ、本当に視えてるんだ。でも、殿下の行方を聞いてくるってことは、全部筒抜けってわけじゃなさそうだね」

「ええ、残念ながら。でも、今まで視てきたこと、今後視るもの次第で、貴方の言葉が嘘かどうかすぐに分かるわ。正直に白状した方が、身のためだと思うけど?」

 そう言って、アレクシアは、にっこりと口端を上げる。
ルーフェンは、肩をすくめると、諦めた様子で答えた。

「……殿下は今、リオット族が昔使っていた、隠れ穴の一つに避難してるよ」

「隠れ穴? それはどこにある?」

 ジークハルトが問うと、ルーフェンは、困ったように眉を下げた。

「どこって言われても、口だと説明が難しいよ。この辺、岩場だらけで目印らしい目印がないもん」

「…………」

 険しい表情のまま、ジークハルトは、アレクシアを横目に見た。

 アレクシアが、最後にノーラデュースの地下らしい洞窟でルーフェンを視た時、そこにシャルシスの姿はなかった。
すなわち、ルーフェンとシャルシスは、ライベルクからノーラデュースに至る道中で別れたことになる。
しかし、具体的にどこで別れたのかは視ていないので、シャルシスを隠れ穴に避難させたというルーフェンの言葉が真実かどうかは、現時点では判断できない。
ただ、このノーラデュースで日差しをやり過ごすには、地下に隠れる他ないことは確かであった。

 少し考え込んでから、ジークハルトは、ノイの腕を掴んで立たせると、その喉元にルマニールを突きつけ直した。

「では、今からその隠れ穴とやらに案内しろ。このリオット族も連れて行く。いいか、少しでも変な動きをしたら、この女を殺す。それから、シャルシス殿下の身に何かあった場合──」

「──分かってるって。抵抗はしないし、殿下も怪我一つなくピンピンしてる。だから、そんな悪人面で脅さないで。ね?」

 からかうような口調で言って、ルーフェンは、ジークハルトを見つめる。
ジークハルトは、舌打ちで応えると、再度ノイを魔術で拘束して、その身をギールに引き渡した。

 それぞれが構えを解き、砦から出る準備を始めようとしたところで、ジークハルトが、再び口を開いた。

「殿下を探し出す前に、もう一つ、聞きたいことがある」

「……なに?」

 あっけらかんとした態度で、ルーフェンは首を傾げる。
ジークハルトは、ルマニールを握る手に力を込めると、厳しい声で尋ねた。

「教会から告発された時、何故王宮から逃げ出した。……嘘偽りなく答えろ」

「…………」

質問の意図が伺えず、ギールとヨークは、思わずジークハルトを横目に見た。
何故逃げ出したのかなんて、答えは分かりきっている。
どうしてそのような質問をするのか、二人には理解できなかった。

 一拍置いて、ルーフェンは、予想通りの答えをそのまま口にした。

「何故? そんなの、殺されたくないからに決まってるでしょう。あの場で呑気に突っ立ってたら、俺は売国行為を働いた罪で捕まって、今頃晒し首になってただろうからね」

 ジークハルトは、眉間の皺を深くした。

「……いや、お前なら、言い逃れする方法はいくらでも思いついたはずだ。ミストリアの次期召喚師を生かしていたことは、事実だけ見れば売国行為とも取れるが、その動機も含めて考えれば、それだけで唯一無二のシェイルハート家を廃すという決断に踏み切る理由としては弱かった。弁明の余地はあったのに、お前はさも自分が売国奴であるかのような態度をとり、あえて王族を人質に取るような真似をして、わざわざ自身の罪を重くしたんだ。……何故そんなことをした?」

「やだな、買い被りすぎだよ。あそこで言い訳したって、少なくとも教会は俺を許さなかった。というか、真っ先に襲いかかってきたのは君じゃないか。あの状況で君と真っ向勝負するほど、俺の神経は図太くなかったってだけの話だよ」

 まるで笑い話かのように語るルーフェンに、ジークハルトは、苛立たしげに顔をしかめた。

「……論点をずらそうと言うなら、こちらも聞き方を変える。そもそも何故、ミストリアの次期召喚師を生かした? 同情したとか、そんなふざけた返答を聞きたいんじゃない。一体どういうつもりで、あの獣人たちに協力したかを聞いている」

 ルーフェンは、肩をすくめた。

「そんな、人を冷血漢みたいに言わないでくれる? 言っておくけど、同情したのも事実だよ。だって可哀想じゃない。命からがら逃げ延びた先で、結局殺されるなんてさ。……まあでも、一番の理由は、ミストリアに恩を売っておくのも悪くないなって思ったからさ。王宮でもそう答えただろう?」

「だったら何故、すり替えた死体を教会に管理させるような下手を打った。教会に偽装工作の証拠を握られた時点で、いずれお前が告発されるような事態に陥ることは予測できただろう。仮にミストリアとの関係作りが、狙いの一つだったとして、目的はそれだけではなかったはずだ」

「…………」

 押し黙ったルーフェンの瞳に、不意に、冷ややかな色が浮かぶ。
睫毛を伏せてから、やがて、ゆっくりと視線を上げると、ルーフェンは声を低くした。

「何故何故って……さっきから回りくどいな。引き出したい答えは、君の中で既に定まってるんだろう? 言いたいことがあるんなら、はっきり言えよ」

「…………」

 ジークハルトは、ぐっと歯を食いしばると、意を決したように唇を開いた。

「……かつて、アーベリトが没する直前に、お前は言ったな。サーフェリアの召喚師は、自分の代で最後にする、と。その宣言通り、お前は七年の歳月をかけ、ついに、召喚師制が廃止になる流れを自ら作り出した。それが完成した結果が、今の状況だ」

 驚いたように瞠目して、ギールとヨークが、ジークハルトに視線を移す。
ジークハルトは、苦しげに顔つきを歪めた。

「罪人に成り下がり、自身を犠牲にしてまで召喚師の座から退任することを選ぶというなら、俺たち魔導師団が、望み通りにお前を討ってやる。後継者も無くお前が死ねば、この先、召喚師制は廃止せざるを得ない。だが、こうして逃げ回っているということは、召喚師一族を途絶えさせることが、お前の目的の終着点ではないんだろう。サーフェリアから召喚師制を無くして……その先は? お前は何を知っていて、これからどうするつもりなんだ。召喚師制を廃した国が、その後どうなっていくのか……見通している未来があるなら、死ぬ前に教えろ」

「…………」

 ルーフェンは、つかの間沈黙して、ジークハルトのことを見つめていた。
しかし、はっと乾いた笑みをこぼすと、自嘲するように呟いた。

「昔から、色々と模索してたけどさ、結局死ぬしか逃れる方法がないなんて、つくづく狂ってるよなぁ。召喚師一族を失ったこの国が、今後どうなっていくか……そんなの、俺の知ったことじゃないね。俺は君たちと違って、愛国心なんて欠片もないんだ。自分がいなくなった後のサーフェリアの未来なんて、微塵も興味ないし、いっそ、滅びればいいとさえ思うよ」

 ジークハルトは、腹立たしげに声を荒げた。

「話をはぐらかそうとするな! 自分の境遇を憂い、国への復讐心から自暴自棄になって逃げ出したとは言わせんぞ……!」

 衝動的にルマニールを振るい、ジークハルトは、その穂先をルーフェンに向けた。
やりとりを間近で見ていたノイが、びくっと肩を震わせる。
ルーフェンは、感情を剥き出したジークハルトを揶揄やゆするように、軽薄な口調に戻った。

「へえ……君がそんなに俺を高く買ってくれてたなんて、知らなかったな。天下の召喚師様なら、何の目的もなく、腹いせに国を捨てるような真似はしないだろうって? はは、笑えるよ」

「質問にだけ答えろ!」

 首筋に浅く刃が入っても、ルーフェンは、顔色一つ変えることなく、ジークハルトを見据えている。
二人はしばらく、互いの心を探るように見つめ合っていたが、ややあって、小さく吐息をつくと、ルーフェンが答えた。

「……別に、召喚師制を廃したところで、何も変わらないだろう。今までも、そしてこの先も、君たちがサーフェリアを護っていけばいい。それだけの話じゃないか」

「…………」

 一筋流れ落ちた血液が、じんわりと襟に染みていく。
ジークハルトは、ルマニールを退けると、静かに言った。

「……もういい。王都まで時間はたっぷりある。話の続きは、その道中で聞かせてもらう」

 言いながら、ルマニールの発現を解き、ジークハルトはルーフェンに背を向ける。

 一行が砦を出たのは、夕陽が遠くの岩稜がんりょうに沈み始めた頃であった。


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