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投稿日:2026年01月06日






 ミランに案内されたのは、集落の南端に位置するシェイルハート家の屋敷に併設された、巨大な厩舎きゅうしゃであった。
中には、藁の敷き詰められた馬房ばぼうがいくつも並んでおり、各々に毛色の違う馬たちが一頭ずつ収容されている。
何をするにも必要だ、と言っていたミランの言葉通り、馬は必需品として、人間たちに大切にされているのだろう。
どの馬も、ゴーティに負けず劣らず丈高く、毛並みもツヤツヤとしていて、手入れが行き届いている様子であった。

 ミランは、馬の世話人らしき人々に、一度厩舎きゅうしゃを出るように告げてから、セルーシャたちを招き入れた。
馬たちは、人間ではない者が入ったきたと分かったのか、ソワソワとしきりに耳を動かしながら、こちらをじっと見ている。
馬房から顔を出している、数十頭の馬たちを示して、ミランが言った。

「ここにいるのは、全て馴致じゅんち済みの乗用馬だ。くらにも慣らしてあるし、乗り方を心得ている者であれば、御するのにそれほど苦労はしないと思うが……。貴方たちは、馬に乗った経験はあるのか?」

 セルーシャは、ふるふると首を振った。

「ううん、ないよ。だから、ついでに馬を操る方法も教えてほしいな」

 その答えを聞いて、ミランは、内心呆れてしまった。
リーヴィアスの知り合いだからと言って、いきなり馬を寄越せと訪ねてきた上に、馬術の手解きまでしろと要求してくるとは、なんとも図々しい精霊たちである。
馬は、その賢さゆえに、飼育管理や扱い方には一定の技術を要する、家畜の中でも価値が高い貴重品だ。
力のある精霊一族とはいえ、兵士たちの非礼を詫びる、という名目がなければ、タダで譲ってやろうとは思えなかっただろう。

 モヤモヤとした思いはあったが、不満はおくびにも出さず、ミランは厩舎きゅうしゃ内を見渡した。
そして、少し考え込んだ末に、一番奥の馬房まで行き、そこに収容されていた、栗毛の馬に鞍を乗せると、その手綱を引いて戻ってきた。

 栗毛の馬は、他よりも小柄で、穏やかな目をしていた。
セルーシャたちを前にしても、特に怯えている様子はなく、口元をもごもごと動かしている。

「乗馬の経験がないなら、この馬なんてどうだろうか? 少し年は取っているが、おおらかな性格で、人見知りしないんだ。駄馬だば出身だから、力もあるし、草の選り好みもしないから、森での暮らしにも適応すると思う」

 ミランの説明に、なるほどと頷きながら、セルーシャは、栗毛馬の鼻を、指先でつついた。
一方のエイリーンは、馬の臭いが嫌なのか、口元を袖で覆って距離をとっている。

 栗毛馬には近寄らず、離れたところから、特別大きな別の馬房を指差し、エイリーンは言った。

「我々が求めているのは、足が速くて、頑丈な馬だ。従順であっても、鈍足な老いぼれでは旅途中に死ぬだろう。あっちの、もっと大きくて、若そうな馬にしろ」

 ミランは、エイリーンが示している大柄な黒馬を一瞥いちべつしてから、肩をすくめた。

「あれは軍馬だ。気性が荒くて人を選ぶから、熟練の騎兵でもないと、そうそう乗りこなせない。貴方たちには無理だと思う」

「なんだと?」

 顔をしかめたエイリーンに、セルーシャが声をかけた。

「いいじゃないか、この栗毛の子で。昔、葬樹そうじゅの森で見た野生馬と似た、澄んだ目の色をしている。きっと北方の血が混じっているんだ。老いぼれといっても、まだまだ元気そうだし、わたしはこの子を気に入ったよ」

 北方馬との交雑種であることを言い当てられて、驚いたのだろう。
ミランは目を丸くして、セルーシャを見やった。
栗毛馬の方も、鼻周りをなぞられると鬱陶しそうにしているが、セルーシャに顔を触られること自体は許している。

 ミランは、自身の手元にある手綱を、セルーシャの前に出した。

「馬を操る時は、この手綱というものを使う。最初は僕が手綱を引いて、こいつを歩かせるから、試しに背に乗ってみるか? まずは、ええっと、貴方から……」

 そこで言い淀み、一旦言葉を止めると、ミランは、やりづらそうに二人の顔を見た。

「……今更だが、貴方たちのことは、なんと呼べばいい? 葬樹そうじゅじゃ、一族の名前だよな?」

 セルーシャは、栗毛馬から手を引いて、ミランの方に向いた。

「呼び名にこだわりはないから、好きに呼んでくれて構わないけど、グレアフォールには、セルーシャ (雪下で眠るもの)とエイリーン (木下で眠るもの)って呼ばれているよ。リーヴィアスも同じだから、ミランもそう呼ぶといい」

「セルーシャと、エイリーン……」

 呟いてから、ミランは困り顔になって、二人を交互に見やった。

「……どっちがセルーシャで、どっちがエイリーン?」

わたしがセルーシャで、あっちがエイリーンだよ」

「…………」

 ミランは、ぐっと目を凝らして、二人の全身をじっくりと眺めた。
そうやって、なんとか二人の違いを見つけ出そうとしたが、セルーシャとエイリーンは、身長から体型、顔立ち、髪型、髪色、瞳の色、眉や爪の形まで、全てが複製したようにそっくりだ。
口調や表情には性格の違いが出ているが、その差は、話してみなければ出てこない。
今、二人の立ち位置が入れ替わったら、どちらがセルーシャでどちらがエイリーンなのか、あっという間に分からなくなってしまうだろう。

 あえて挙げるならば、セルーシャの炎のような鮮烈な橙黄色の瞳に比べて、なんとなく、エイリーンの瞳の方が赤褐色に近いような──角度によっては、深い赤が見え隠れする色に見えた。
だがそれは、違いを見出そうとするあまりに見えてきた、思い込みとも言えるくらいの些細な差だ。

 目を細めたまま、顎に指を置き、ミランはしみじみと言った。

「それにしても、二人は本当に瓜二つだな。人間の双子でも、並べば多少の違いは見えてくるものだが、貴方たちは全く見分けがつかない。……強いて言うなら、瞳の色が少し違うか? いや、光の加減でそう見えるだけか……」

 前後左右に動きながら、ミランは、色々な角度からエイリーンとセルーシャを見比べている。
セルーシャは、心なしか嬉しげに頷いた。

「我々は、同じ一本の葬樹そうじゅの精霊だからね。容姿は一切違わないよ。グレアフォールに人型にされる前は、思考も混じり合っていて、意識が二人別々にあることも自覚していなかったくらいだ。ね?」

 同意を求めるようにエイリーンの方に振り返ってから、セルーシャは、ふと瞬きをした。
それから唐突に腕を伸ばし、エイリーンの頬を両手で挟み込む。
顔を固定したまま、セルーシャは、不思議そうにその瞳を覗き込んだ。

「……あれ? おかしいな。エイリーン、目の色 変わった?」

「ほら、そうだよな! エイリーンの方が、少し赤みのある瞳をしているだろう」

 何やら得意げに近づいてきたミランも、エイリーンの目を至近距離で見つめてくる。
──その瞬間、暗闇の底で朦朧としていたトワリスの意識が、はっと覚醒した。
弾かれるようにして顔を上げると、エイリーンの視覚を通して、ミランと目が合ったような気がした。
もはや懐かしくも感じる、透き通った銀色の瞳が、真っ直ぐにこちらを凝視している。
だが、身体の自由が利かない状況は変わらずで、助けを求めようにも、声を出すことは叶わない。

 セルーシャとミランにじろじろと見られて、居心地が悪くなったのだろう。
エイリーンは身を捩って、セルーシャの手を振り払った。

「我らは同体なのだから、当然瞳の色も同じだ。見た目で判別することは出来ぬし、そもそも人間が我々を判別する必要はない。……今、お前の隣にいるのがセルーシャだ。それで良かろう。くだらん御託を並べておらずに、さっさと馬を寄越してその操り方を言え」

 エイリーンはミランに向かって、羽虫でも追い払うような仕草で、長い袖をシッシッと振った。
そして、自分はそそくさと厩舎きゅうしゃの隅まで歩いていき、積み上がった敷きわらに寄りかかって座り込んでしまう。
馬の御し方はセルーシャに教えろ、ということらしい。
肩をすくめたミランは、それでも尚、エイリーンの瞳の色が気になっている様子であったが、興味が馬に戻ったセルーシャを見て、やはり勘違いだったかと思い直したのだろう。
手綱を改めて握り、くらから下がっているあぶみを指さすと、セルーシャに馬に乗ってみるように示した。

 セルーシャは、ミランに補助してもらいながら鎧に足をかけると、よじ登るようにして栗毛馬にまたがった。
歩く時にも感じることだが、長年根付いてきた地面から足を浮かせるという行為には、どうにも違和感を覚える。
小柄な馬だが、いざその上で背を伸ばしてみると、思いの外 地面が遠く感じられた。

「じゃあ、少し歩いてみるぞ。ずり落ちないように、鞍の持ち手を掴んで、鞍の真ん中に腰を据えるんだ」

 頷いたセルーシャが、鞍から突き出した持ち手を掴むと、ミランは頷き返して、ゆっくりと歩き始めた。
かれた手綱に合わせて、栗毛馬も動き出す。
途端、馬の背が大きく揺れて、セルーシャは思わず前屈みになった。
意識せずとも、自然と脚に力が入ってしまう。
しかし、一歩一歩進む内に、揺れの規則性が分かってくると、馬上で体勢の保つことにも慣れてきた。
前を見る余裕を取り戻すと、セルーシャはエイリーンの名前を呼びながら、ひらひらと片手を振った。

 厩舎きゅうしゃ内を何往復かすると、ミランは栗毛馬をいたまま、エイリーンの前にやってきた。

「次は、エイリーンが馬をく側をやってみるといい。それに慣れたら、今度は交代して、エイリーンが乗る側、セルーシャがく側の練習だ」

 敷き藁の山にもたれかかって、他人事のようにミランたちを眺めていたエイリーンは、嫌そうに顔をしかめた。

「……わたしはいい。獣は臭いから嫌いだ。必要以上に触れたくない」

 すっかり騎乗に慣れたらしいセルーシャが、エイリーンを見下ろして言った。

「そう毛嫌いせずに、乗ってみればいいのに。目線が高くなって、葬樹そうじゅの姿だった頃と似た感覚を味わえるよ」

「……その程度の高さで、懐かしさなど感じるものか。かつての我々は、眼下に森全体を見渡せるほど丈が高かったのだぞ」

 言い合っている二人を交互に見遣りながら、ミランは困ったように眉を下げた。

「まあ、嫌なら無理にやれとは思わないが……。ただ、き方も乗り方も知らないで、エイリーンはどうやって葬樹そうじゅの森とやらに帰るんだ? 貴方達が馬を欲しがっているのは、故郷に帰るためなんだろう」

 エイリーンは、億劫そうに答えた。

き方も乗り方も、セルーシャが覚えればいい。セルーシャが一人で馬を操れるようになったら、わたしはその後ろに乗る」

「いや、二人乗りの場合は騎手が後ろだぞ。というか、セルーシャ一人だけでこのを操るとなると、必要な練習が増えるから、今日一日だけで習得するのは無理だ。二人用のくらも用意しないといけないし、何日かここに通ってもらわないといけない」

「なんだと? その馬は、使われることに慣れた馬だと言っていただろう。何故そんなに調教に時間がかかるのだ」

 上半身を起こしたエイリーンが、ミランと栗毛馬を睨みつける。
空気がひりつき始めたことを感じ取ったように、栗毛馬がブルルッと鼻を鳴らす。
思わずむっとした顔になって、ミランは言い返した。

「このは慣れてるけど、貴方達の方が全くの素人だろう。ちゃんと指示が出せない、しかも会って間もない騎手を乗せるんじゃ、どんな名馬でも戸惑って動けない。馬術を教えて欲しいっていうなら、こちらの言うことに従ってくれ」

 エイリーンは、口端をわずかに持ち上げ、牙を覗かせた。

「ふざけるな。霧の森からこの集落まで、一体どれほどの距離があると思っている? 我々は、自身の足を酷使せずとも済むように、移動手段として馬を寄越せと言っているのだぞ。その移動手段のために、足を使って何日もここまで通えというのか。そんな、走るしか脳がない、汚らしい獣如きのために?」

「し、知ったことじゃない! そっちがいきなり訪ねてきて、馬が欲しいって言い出したんじゃないか! そんな風に思うなら、人間にも馬にも頼らなければいいだろう!」

 勢いよく言い切ってから、はっと口をつぐみ、ミランは汗ばんだ手を握り込んだ。
自分の怒りは正当なものであると自負しているが、だからといって、不用意にエイリーンを怒らせれば、抵抗する間もなく殺されてしまうかもしれない。
セルーシャが穏やかな話し方をするので、警戒心が薄れかけていたが、相手は人智の及ばない精霊族──その中でも特別な力を持っているとされる、葬樹そうじゅの一族だ。
つい先刻も、歯向かった兵士を殺しかけた、危険な精霊たちなのだということを忘れてはならない。

(だ、だけど……怖いからって、譲歩するばかりじゃ駄目だよな。敵にもなりうる異種族だからこそ、あなどられないようにしないと。父上が留守の間は、僕がシェイルハート家の長で、この集落の人たちを守らなければならないのだから……)

 恐る恐る、しかし強気な光を瞳に浮かべて、ミランはエイリーンの表情を窺った。
エイリーンは、瞳孔の細まった威圧的な目で、こちらに視線を定めている。
だが、睨むだけで、攻撃してこようとする素振りはない。
不用意に動けないのは、きっとエイリーンも同じなのだ。
彼らにとって、自分は容易くひねり潰せるか弱い存在なのかもしれないが、それでも、精霊王グレアフォールの協力関係を結んでいる人間の代表、リーヴィアス・シェイルハートの息子となれば、安易に危害を加えることはできない。
そう考えると、幾分か冷静さを取り戻すことができた。

 栗毛馬のたてがみをいじっていたセルーシャが、見かねた様子で口を開いた。

「……エイリーン、ミランに従おうよ。葬樹そうじゅの森は遠いんだから、わたしだって途中で疲れて、エイリーンに馬の操作を交代してほしくなることがあるかもしれない。この場で教わって、二人とも馬を扱えるようになるなら、その方が良いじゃないか」

「…………」

 不機嫌そうに黙り込んだエイリーンを無視して、セルーシャは、今度は目だけを動かし、窓の外を一瞥いちべつした。

「でもミラン、なんとかして、練習は今日一日だけで済ませられない? 我々は歩くのが苦手だから、この集落まで来るのにも一苦労なんだ。それに、先程の兵士達の反応を見る限り、人間はやはり精霊族を敵視しているんだろう。リーヴィアスやミランは例外として、この集落の他の人間たちは、我々が何日も訪ねてくることを嫌がるんじゃないかな。……今も、外で何人か、こちらを見張っている兵士がいるようだし……」

「…………」

 ミランは、僕は別に例外ではないが──と心の中でぼやいた。
エイリーンとセルーシャを警戒した兵士や世話人たちが、厩舎きゅうしゃの外で耳をそば立てていることは、無論分かっている。
そう連日押しかけられても困る、という思いは、セルーシャに言われずとも、この場にいる人間たち全員の総意であった。

 ミランは、小さく息をついて、セルーシャに視線を戻した。

「……僕は最初から、今日一日で終わらせるつもりだった。だから、まずはき馬に乗るところから練習しよう、と言ったんだ。
先程も言った通り、いきなり一人で馬を操りながら乗り回すというのは難しい。だが、馬をいて操るだけ、乗って姿勢の保つことに慣れるだけ、必要な技術を二人で分担して覚えるなら、そう時間はかからない。馬も、二人がかりで制御されていると分かれば、逆らいはしないだろうしな」

 説明しながら、ミランは栗毛馬の首の辺りを撫でた。

「戦場を駆るわけでもないなら、なんだかんだで一番重要なのは、馬と信頼関係を築くことだ。逆に言えば、信頼関係さえできてさえいれば、技術が低くとも案外どうにかなる。
馬上からの操り方、指示の出し方も口頭で教えるが、今日のところは、き方と乗り方を覚えて帰って、しばらく自分たちで練習してみてくれ。で、二人での制御に慣れてきたら、一人で乗る練習をしてみるといい。時間を経て信頼関係が構築できていれば、僕がいなくとも、貴方達の指示が拙くとも、このならしっかり汲み取ってくれるだろう」

「……だってさ、エイリーン」

「…………」

 エイリーンは、尚も沈黙したまま、藁の壁に背を預けていた。
しかし、もう一度セルーシャに返事を促されると、忌々しげに栗毛馬を指差した。

「……信頼関係を築くといっても、そいつは獣だろう。我々と意識を共有できるわけでもなければ、人語を話すわけでもない。一体どうやって疎通しろと言うのだ」

 ミランは、再び栗毛馬の首を撫でた。

「馬は確かに言葉を話さないが、意思疎通は可能だ。例えば……そうだな。とりあえずは、呼び方を決めてみるといい」

「呼び方? 名前をつけるってこと?」

 セルーシャの問いに、ミランは首を振った。

「いや、そうではなくて、呼ぶ時の指示語を決める、という意味だ。突然『来い』とか『おいで』とか言っても、当然馬には通じない。だが、呼ぶ時は必ず『来い』と声をかけると決めて、呼んだ時に偶然でも馬が寄ってきたら褒美をやる、ということを繰り返していけば、馬は『来い』が呼び出しの音なのだということを学習する。これができるようになったら、もし旅途中に馬とはぐれても、音が聞こえる範囲内なら呼び戻すことができるだろう? 声だけじゃ届く範囲が狭いと思うなら、笛を吹くのでも良いし、魔術で何かを打ち上げるのでも良い。他にも、ひづめの手入れをするのに前脚をあげて欲しい時は脚を撫でるとか、くらをつけたい時は背を撫でるとか、同じ要領でいろんな指示を教えてやれば、あらゆる場面で意思疎通が可能になる。
勿論、名前を教え込むこともできるが……これは、個人的にはあまりお勧めしないな」

「どうして? リーヴィアスは、馬に『ゴーティ』という名前をつけているだろう」

 首を傾げたセルーシャに、ミランは苦笑を見せた。

「名前なんて付けたら、愛着が湧いて、別れが辛くなるだろう。……父上は、いいんだよ。父上は大陸一の魔導師だから、その側にいるゴーティは、きっと天寿を全うできる」

 セルーシャとエイリーンは、いまいち合点がいっていない様子であったが、ミランはそのまま話を続けた。

「……まあ、とにかく一緒に過ごしてみることだ。馬は賢い生き物だから、こちらのことをよく見ていて、信頼できる相手だと思ったなら、ちゃんと愛情を返してくれる。言葉を介さずとも、仕草や顔つきで感情を伝えてくる。そんなわけないだろうと信じられないかもしれないが、毎日馬を見ていれば、いずれ分かる時が来るだろう。
……今、僕の言った意味が理解できたなら、その時に、一人でこのに乗ってみるといい」

「…………」

 ミランは、持っていた手綱を、エイリーンに差し出した。
エイリーンは、億劫そうに黙り込んでいたが、やがて、渋々手を伸ばすと、手綱を受け取ったのであった。


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