キルアvsギタラクルの試合が始まる。

対面してもキルアは何も感じないようだ。
いくら見た目が違うからと言って、気配はそう変わっていないというのに。


「久しぶりだね、キル。」


先に口を開いたのはイルミだった。
彼は顔中に刺さっている鋲を外していく。
外し終わり顔がぐちゃぐちゃと変形すると、醜男だった顔は嘘みたいに艶やかな黒髪の綺麗な顔が現れる。
キルアは驚愕し、なんとか声を絞り出す。


「あ、あにき…。」

「母さんとミルキを刺したって?」

「…まあね。」

「母さん泣いてたよ。
…感激してた。

でもやっぱり兄貴がついてるとはいえ…というか兄貴が一緒だからこそ外の世界に出すのは心配だからって、それとなく様子を見てくるように言われたんだけど。」


おい、俺が一緒だからこそ心配ってどういうこと?
俺も多少はキルアとの接し方は弁えてるっての。


「奇遇だね。
まさかキルもハンターになりたいなんて。」

「…別になりたかったわけじゃないよ。
ただ受けてみただけ。」

「そうか、それなら安心して忠告できる。
お前にハンターは向かないよ。

お前の天職は、殺し屋なんだから。」


その瞬間イルミの念が少しばかりキルアに向けられる。
キルアの体から冷汗が出始める。


「(キルの頭にはイルミの念の鋲が埋まってるから、どう頑張ってもキルに抵抗は無理…可哀想に。)」

「お前は熱を持たない闇人形だ。
自身は何も欲しがらず、何も望まない。
影を糧に動くお前が唯一喜ぶのは人の死に触れた時。
お前は俺と親父にそう育てられた。」


まあ人の死に喜ぶのはイルミしか教えてないとは思うけど、そうでもしないと暗殺なんて精神が持たない。


「そんなお前が何を望んでハンターになる?」

「…ゴンと、友達になりたい。
もう人殺しなんてうんざりだ。
ゴンと友達になって、普通に遊びたい…。」


それはキルアの心の声だった。
兄としては叶えてあげたいが、多分無理だろう。


「無理だね。
お前に友達なんてできっこないよ。
お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断できない。
そう教え込まれたからね。
今のお前はゴンが眩しすぎて測り切れないでいるだけで、友達になりたいわけじゃない。」

「ちがう…。」

「彼のそばにいればお前はいつか彼を殺したくなるよ。
殺せるか殺さないか試したくなる。
何故ならお前は根っからの人殺しだから。」

「〜っ!!
キルア!!お前の兄貴かなんかしらねぇが言わせてもらうぜ!!
そいつは馬鹿野郎でクソやろうだ!!
ゴンと友達になりたいだと!?寝ぼけるな!!
とっくにお前らダチ同士だろうがよ!!」

「そうなの?」


レオリオの言葉にイルミは表情は変わらずに、驚いたと言わんばかりに言ってくる。


「あったりめぇだろバカ!!!」

「そうなの?」


確認とばかりに俺に向かって訪ねてくるイルミ。
試験中そこまでキルアと過ごしてはいないし、どうしたら友達とかは俺だってよくは分からない。
一次試験が始まる前に友達作ったっていいとイルミに偉そうに語ったが、俺だって友達は1人しかいないし向こうが友達と言ったからそういうものかと思っている程度だ。


「知らないよ。
彼がそういうんだからそうじゃないの?」

「そうか、彼はそのつもりなのか…。
よし、じゃあゴンを殺そう!」


朗らかに、さも当たり前のように、ちょっと散歩しにいくかくらいにイルミはそう言った。
ゴンのそばにいたクラピカ、レオリオはもちろんのこと、いきなりの殺し発言に周りの受験生も息を飲む。


「殺し屋に友達なんていらない。
邪魔なだけだから。
彼はどこ?」

「ちょっと待ってください!まだ試合は…」


審判が慌てて止めるが、そちらを向くことなく彼の顔面に鋲を埋め込む。


「とナりの…っヒカえしづです…。」


顔が嫌な音をたてて変形し、ゴンの居場所を吐く。
この次男坊は試合も始まっていないのにどこに行こうというのか。
そんな彼の前に、ゴンを守るために控え室に続く扉の前にクラピカ、レオリオ、ハンゾーなどが立ち塞がる。
きっとイルミは彼らを殺してゴンを殺しに行く。
ハンターの資格が仕事上いるからココにいるのに、失格になりにいってどうする。


「イル、今殺したら失格になるよ。」


イルミに少々呆れてそういえば、そうだったと言ってその足が止まる。


「まいったなぁ…仕事の都合上俺は資格が必要なんだけどなあ…。
ここで彼らを殺したら俺が失格になって、自動的にキルが合格になっちゃうね…。
ああいけない。それはゴンを殺しても同じか…。
まず合格してからゴンを殺そう!」

「っ…!」


イルミがネテロに問題ないか問えば、ネテロはルール上は問題ないと答える。


「聞いたかい?
俺と戦って勝たないとゴンは助からない。
友達のために俺と戦えるかい?
できないねぇ…
勝ち目のない敵と戦うな。俺が口をすっぱくして教えたよね。」


キルアの汗は止まらず、体は恐怖に震えだす。
向かってくるイルミに、キルアは反射的に一歩下がりかけるがそれをイルミは許さない。


「動くな。
動いた瞬間戦いの開始の合図とする。
また俺とお前の体が触れた瞬間から戦い開始とする。
止める方法は一つだけ。
わかるな?
だが忘れるな。
お前が俺と戦わないと、大事なゴンは死ぬことになるよ?」

「やっちまえ、キルア!
どっちにしろお前とゴンは殺させやしねぇ!
そいつは何があっても俺たちが止める!
お前のやりたいようにしろ!!」


レオリオ辺りがそう叫ぶが、今のキルアには何も届かない。


「…まいった。
俺の負けだよ、イル兄…。」


キルアのカラカラの口から、そう小さく吐き出された。 目次 
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