miel

運命を糸に託せば

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 目が覚めたら、ベッドの上だった。白い天井。周りにはいろいろな機器。どうやら私のバイタルが表示してあるようだ。
 ああ、腕を刺されたんだっけ……。ぼんやりと思い出す。視界の隅、ベッドの傍らには宜野座さんがいた。私の目が覚めたのに気がつくと、彼は慌ててこちらを覗き込む。安堵したような表情だった。

「気がついたか!」

「ぎのざ、さん」

「よかった……、血まみれで搬送されたと聞いて、本当に心配したんだ……」

「被害女性は、無事ですか?」

 彼の声を聞いてそこそこ、私は真っ先に女性の心配をした。宜野座さんは目を見開き、さらに苦悶の表情を浮かべてから、視線を床に落として小さくこぼす。

「……ああ、一応な。しかし、出血がひどくて意識が戻らない」

「そうですか……」

 ガーゼと包帯の巻かれた右腕。うまく力が入らない。それを見つめていると、彼はこちらに視線を戻す。

「なぜ執行官をそばに置かなかった」

 宜野座さんの声には、微かに怒りが滲んでいた。

「犯人が外に逃げた形跡があったんです。だから真っ先に追跡を優先しました。私は、女性が生きられるよう、そばにいなきゃと思って……」

「追跡は最悪一人で行かせればよかっただろう! 自分の身に危険を冒してまで、追跡を優先すべきじゃない!」

「ドミネーターがあるから、何とかなると思いました。それに、もし犯人が外にいた場合、人数が多い方が有利でしたし、」

「その逆だってあり得る。実際そうだった。君が怪我をしてまで、」

「宜野座さん」

 どんどん険しくなっていく彼の顔を見て、いたたまれなくなって名前を呼んだ。すみませんでした、と微かに呟いて力なく笑う。

「でも、生きてますから。こんな怪我すぐ治してみせますよ」

 苦しそうな顔をしないでほしい。今にも泣きそうなそんな顔を見せないでほしい。私は元気なのだ。右腕がうまく動かなくて少し不自由だけれど、それだけだ。

「あかり……、」

 初めて名前を呼ばれて、驚いて目を瞬いたときには彼の顔は見えなかった。怪我をした右手をそっと握られて、うつむいた彼の背中が、小さく震えていた。

「君はもう少し、自分を大切にしてくれ……」


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