miel

運命を糸に託せば

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「ふたり一緒に来るなんて、一緒にいた証拠っしょ」

 志恩さんからの呼び出しに、分析室へ駆けつけた私たちに対して縢くんが調子よく言った。決して間違っていないのだが、宜野座さんは鋭く縢くんを睨みつけてから「それで、事件はどうなっている?」と何事も無かったかのように続けた。

「色相が悪化傾向にある集団が街頭スキャナに引っかかったわ。先月、六本木であった薬物の引き渡しのやつと似た案件ね。恐らく、前回取り締まりきれなかった奴らじゃないかと思うんだけど」

「……またか」

 気だるげな志恩さんの言葉に、宜野座さんは舌打ちをした。続けて、微かに苛立った様子の狡噛さんは言う。

「現状、当直の二係が現場に向かったが、どうやら対象の人数が多く、人手が足りないそうだ。何しろ監視官がいなけりゃ、俺たちは身動きも取れないしな」

 これでメンバーが揃った。同じく当直明けである狡噛さん、縢くん。そこに一係の監視官二人が来たとなれば、十分人員も足りているはずだ。応援へ向かうため、宜野座さんと私は護送車を引き連れて現場へ向かった。


 現場の倉庫へ到着したときには、そこは既に惨状と化していた。
 青柳監視官と神月執行官はドミネーターを使用したらしい。エリミネーターで執行されたらしき跡もある。倉庫の中、コンクリートの上には血と肉片が散らばっていた。

「すまない、遅くなった。状況は?」

 宜野座さんが青柳さんに声を掛ける。青柳さんは真剣な面持ちで、駆けつけた私達を見据える。緊張感と疲労からか、彼女の顔がやや強張っているように見える。レイドジャケットには返り血だろうか――赤黒い染みがついていた。

「あと二人、港の方へ逃げたわ。だけどドミネーターが限界。充電中なのよ」

「では、そちらはおれたち一係で対応する。青柳は執行した潜在犯の護送を頼む」

「了解。でも状況次第では連絡してね。応援に向かうわ」

 宜野座さんは頷いて、それから私の方を見る。

「行くぞ」

 ドミネーターを起動させ、それぞれ手に持つ。
 それから私に「気をつけろよ」と彼は小さく呟く。
 なんだかんだ彼は、仕事中だからとはいっても私に対して冷たい態度を取ることはない。そういうところが結局、やさしさとなって周りを生かしているのだと思う。
 狡噛さんを先頭に、宜野座さん、私、縢くんの順で港の方へ向かっていく。倉庫を抜け、前後を確認しながら暗闇の中を走り抜ける。すると倉庫を抜けたその向こう、港に積み上げられたコンテナの影に、狡噛さんは二人の人影を見つけた。

「……いたぞ」

突入する≠サのハンドサインを出し、物音を立てないように慎重に狡噛さんは人影に近づいていく。そして宜野座さんが静かに頷いたと同時に、「公安局だ!」と人影に向かって叫んだ。

≪執行モード、ノン・リーサル、パラライザー≫

 四人で一斉に二人を包囲するとドミネーターを向ける。対象はふたりとも、パラライザーで確保できる程度の犯罪係数だった。そして、彼らが逃げる間もなく、全員がトリガーを引いた。
 勢いよく放たれたそれは、見事に二人に命中した。どさ、と崩れ落ちた男たちの足元には、違法のものと思われるドラッグが大量に散らばっていた。


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