miel

運命を糸に託せば

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 ……気まずい。やっぱり言うんじゃなかった。
 そしてどうも、宜野座さんは恋愛に関してはこと初心者らしい。反応がウブすぎる。
 目を泳がせて、くちをパクパクと何度か開閉させて、「ま、待て、一旦落ち着こう、花坂」と必死に平静を保とうとしていていじらしい。

「宜野座さん、あの……」

「あ、ああ……どうも、こういうのは苦手でな……」

「……でも結果が出たからって、結婚しなければならないわけじゃありませんし、あの、深く考えることは……」

「おれにとってはそうでなくても、君にとっては大事なことだろう……! 将来にも関わってくることだし……」

「それは宜野座さんも同じでは……、」

 相変わらず顔が赤い彼を見て、むしろ申し訳なくなってきた。どうしようかと考えあぐねているうち、宜野座さんは席を立って「……少し頭を冷やしてくる」とどこかへ行ってしまった。
 このまま、微妙な関係になってしまったら嫌だなと思う。せっかく以前より親しく接することが出来るようになったのに、と。
 そう思うと無意識に大きな溜息をついてしまった。コーヒーを飲もうとしてカップに手を伸ばして、それが空だと気づくとさらに虚しくなった。


 結局今日は最後まで宜野座さんと顔を合わせることなく帰宅した。
 気づけば退勤時間を過ぎていて、退室したきり戻ってこない宜野座さんが帰ってくる前に、私は帰宅することにしたのだ。
 明日会うのが気まずいが、それは向こうも同様だろうと、いっそ諦めることにした。
 お風呂に入り速攻でベッドにダイブすると、疲労感がどっと押し寄せてくる。彼ももしかしたらこんなふうに悩んでしまっているかもしれない。だとしたらそれはそれで、あの彼の心を少しでも惑わすことが出来たなら、なんだか嬉しいなと思う。

 監視官として仕事をし始めて一ヶ月半。
 徐々にみんなと親しく接することが出来るようになり、その反面、執行官とは一線を引け、と彼には何度も言われた。そういう彼の気持ちも分かっているつもりだ。彼らと共にいて、犯罪係数が上がることだってないわけじゃない。その現状を知っていて、わかっていて宜野座さんは敢えて注意してくれる。彼なりのやさしさなのだ。
不器用だなと思うけれど、以前に比べて彼のことを好きだと思うようになった。こうして惹かれあっていくものなのかもしれない。
 とにかく、考えても仕方が無い。
 また明日から、何事も無かったかのように仕事をしよう。個人的な感情に惑わされながら仕事をすることを、宜野座さんはもちろん、執行官のみんなも許さないだろうから。
 電気を消して、やわらかなシーツの海に沈む。

 どうか明日も平和でありますように。

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