運命を糸に託せば
6
「なあ、ギノと何かあったのか?」
「……ええ、まあ」
「あいつ、ものすごく深刻な顔であんたのデスクを眺めてるもんだから、気になった」
お昼休みのことだ。先お昼行ってきます、と宜野座さんに伝えて席を立ち食堂へと足を運んだ。ひとりでテーブルに座りラーメンを啜っているところに、先日退院したばかりの狡噛さんがやってきた。
ちなみに宜野座さんはあれ以来目を合わせてくれなくなってしまい、お互いの間にはどことなく気まずい空気が流れつつある。
「……私、適正出ちゃったんですよ」
「何のだ?」
「相性適正A+……に加えて、結婚適正です。宜野座さんとの」
ぶっ、と狡噛さんは食べていたカレーうどんを吹いた。悪い、悪いとふきんで口元を拭いながら動揺を隠しもせずに私を見つめる。
「まさか、それをあいつに言ったのか?」
「はい。なんとなく隠すことも出来なくて」
「花坂らしいな」
苦笑しながら狡噛さんは言う。後悔しても後の祭り―ということで、私は自嘲気味に笑いながらまたラーメンを啜る。食堂のラーメンは、安くておいしい。お気に入りだ。
「……にしても、ギノかあ。ま、俺は応援するぜ。監視官ふたりが夫婦になるってのも、悪くないしな」
「ほんとですか? 私、どうにも上手くいく気がしなくて……」
「別に深く考える必要は無いだろ。シビュラが下した判断だからな、絶対だ」
「うーん、まあそうなんですけど」
麺をすべて食べ終え、器に残ったスープを飲みながら答えると、納得いかなそうだな、と狡噛さんは笑った。そんな彼に向かっておもむろに呟く。
「でも、たまに、宜野座さんを見てると自然と笑顔になってるんですよね」
「……恋愛のことなら、刑事課の女性陣に相談するのが早いと思うが」
「とっくにしてます。志恩さんなんか、楽しそうに聞いてくれますよ……」
「唐之杜か? また、厄介なところに……」
カレーうどんを食べ終わった狡噛さんは、「ごちそうさま」と手を合わせながら突然真顔で私を見つめた。なんだろう、と身を固くすると、名前を呼ばれる。
「あんたはギノのこと、好きか?」
その言葉にしばらく沈黙して、たぶん、と小さく頷いた。