妄想別館 弐号棟


ある男の告白 その3


たぶん、私は一生涯で『その時ほど頭が回転したことはない』と思えるような行動をとったと思います。
彼女をそのままにして巡回を続け、何事もなかった様子で警備室に戻りました。
仮眠の時間を待ち、同僚二人が眠るのを確認してから、またあの部屋に戻りました。
電気を再びつけると、やはり彼女は先ほどと同じ格好で微笑んでいます。
彼女はよくあるマネキンのポーズをとっていました。
そして・・・
カチンカチンの彼女の服を丁寧に脱がすなんてことはできません。
乱暴に衣服をはぎむしり、あっという間に全裸にしてしまいました。
しかし、Kさんは微動だにしません。
目の前にいるKさん!
わたしはめまいがしました。
あこがれの彼女が、高嶺の花である彼女が、一糸まとわず、すべてをさらしている。
夢ではないだろうか!
なめらかな白い肌、気品のある顔立ち。
そして女性としての・・・
形の良い大きめの胸とポツンと立っている乳首、
ポッコリとした土手にある、割れ目の長い筋。
あぁ、彼女が全裸のまま私に向かって微笑んでいまス。
時間がありません。
私は彼女を倉庫から運び出し、隣接している狭い部屋に運び入れました。
そこはマネキンをはじめ、展示した商品の破損部分を修理する、ちょっとした作業場になっています。
マネキンの傷消し用の修正スプレーを手に取り、Kさんめがけて吹きかけました。
無我夢中でした。『ブシュー』とKさんの体や手足に向けて。
彼女は徐々に徐々に、マネキンの光沢を呈していき、テカテカなボディに変わっていきました。
割れ目と乳首はどうしようか?
性器がついているので他のマネキンとは違い、明らかに目立ちます。
でもうまい具合いに、布テープがありました。
それを張り付けて、その上からスプレーを再度吹きかけました。
少しテープのデコボコと縁が見えますが、よーく見ないとわからないくらいに何回も何回も丁寧に。
「首から下はこれでいいかな」
そして顔です。
髪の毛にはかからないように気を使いながら。
彼女と目があった時はさすがに気まずく、思わず『ごめんなさい』と言ってしまいました。
人の顔にスプレーをかけるなんてね。
Kさんには非常に失礼なことをしたと思います。
だって、この時まではまだ、Kさんは人間だと思っていたんですからね。
しかし・・・
目まで塗り終えてしまうと、もはやどうみても完全なマネキンです。
人間を塗っていたという、違和感は消えてしまいました。
スプレーはすぐに乾きました。幸運ことにこのスプレーは水をかければすぐ洗い流せるんですよ。
私はできあがったマネキン、いえいえ彼女の体を再びマネキンのあった倉庫に持っていき、顔を向こう向きにして立てかけました。
あとはどうする!
廃棄のマネキンには髪の毛がないから・・・
廊下にある物品ロッカーから、古くなったウイッグ(カツラ)を持ってきて、本物のマネキンの頭に接着剤で貼り付けて・・・
「これでよし」
大変なことに気が付きました。
本物のマネキンは首や手足が外せるようになっているので、継ぎ目があります。
「どうしようか」
でもすぐにひらめきました。
「ボロボロになって捨てる予定の衣装があったっけ」
私はコートのような厚手のものを3着ほどもってきて、マネキンに着せました。
Kさんのマネキンは、うまくあちこち切り裂きながらなんとか着せました。
私は確信がありました。
一般の人は羞恥心からか、こういったマネキンの服を全部脱がせて丸裸にはしないようです。
継ぎ目にさえ気づかなければ多分大丈夫だろうと。
さらに、1着だけだと不自然なので、他の2体にも着せたのです。
「もう少し工夫がいるな」
やはり彼女は他の10体に比べて少し小さめなので、一緒に並べると目立ちます。5体をわざと床に倒すようにころがして、2体はバラバラにしました。
彼女ともう1体を壁にもたれかけるようにしました。
本物の2体だけがまともに立ってるような感じです。
『乱雑に置きっぱなし』という感じを演出したのですが、結果的にはこれがうまく行きました。

Kさんのマネキンと本物の10体のマネキンはわからなくなりました。
私は警備室に戻りました。

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