妄想別館 弐号棟


チョウチンアンコウ その3


午前中はさんざん遊びまくって、お昼も食べ終わった頃の出来事である。
省吾がクーラーボックスから、缶ビールを取り出した。
(省吾)「さあ飲もうぜぃ」
(慎之介)「ビールなんか飲んで大丈夫なのかよ」
(省吾)「平気平気、酔いが醒めるまで砂浜で遊ぶから」
「うわぁ。梅酒もサワーもあるじゃない」と、覗き込んだ美月が言う。
女性たちのためにわざわざ用意してきたのだろう。
俺も含めてみんないける口だが、
「ちぇ」風邪気味の俺は、酒を飲むことができない。
(省吾)「あれ、お前は飲まないの」
(壮太)「いや、風邪気味で薬をのむから」
(省吾)「あっそう」
あっさりと言われてしまった。
(壮太)「あーつまらん」
しかたがない。
お昼も食べ終えたし薬をのむとするかな。
この薬・・・
いや、医者から厳重に注意されている。
『この薬といっしょに、お酒は絶対に飲んではいけませン。
睡眠薬のようになって熟睡してしまい、30分くらいは目が覚めないでしょう。
薬をのんで泳いだらおぼれてしまいますよ』

その時突然、結衣が叫び声をあげた。
(結衣)「あ、あれ見て見て、客船が通る」
はるか沖合に、結構大きめの、それもかなり豪華な客船が進んで行く。
みんなは一斉に目を向けた。
後ろの方でカバンから薬を取り出していた俺も顔を上げた。
あんなのに乗ったら優雅な船旅ができそうだな。
船を見ながら錠剤を口に運ぼうとしたが、
「あ!」うっかり落としてしまった。
本当に本当の偶然だったが、優香の持っていたサワー缶が真下にあったのだ。
その中に、みごと『ポチャン』と。
(壮太)「・・・!」
俺は一瞬考えてしまった分、優香に声をかけるのが遅れた。
わずかに生じた一瞬の間、そのタイミングで、彼女は残っていたサワーをグッと飲み干してしまった。
もちろん優香は何も気づいていない。
(壮太)「わっ、おい!」
俺はあわてて優香に呼びかけたが、キョトンとした表情で俺の方に振り向き、
(優香)「え?何?」
(壮太)「い、いやなんでもない」
どうしよう!いやどうしようもないのだ。
なにげなく、優香が飲んでいた缶の中をのぞき見るが、空だ。
何もない、錠剤はない!
あー、やっぱり飲んじゃったんだ。
(慎之介)「おい、それじゃ、そろそろ向こうの岩場まで行ってみようぜ」
(美月)「そうだね」
結衣たちも立ち上がりパタパタと体をはたきだしたが、優香だけは、
(優香)「あたしはパス」
見ると、もう目がトローンとしている。
(優香)「あたしは朝早かったから少し休んでるわ。眠くなっちゃった」
バックからゴソゴソとバスタオルを取リだしている。
彼女は朝の4時に起きたとか、言ってたっけ。
(結衣)「それじゃ優香は留守番しててね。行きましょう」
俺も断る理由はないので・・・みんなについて行った。

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