ハプニング その3
次の日になった。送別会の2日前である。
夏希が見せびらかすように「あたしのところにも来てた。しかも2枚」
『夏希先輩のビキニが見たいです。お願いします』と『松嶋先輩、一生のお願いです。水着姿を見せてください』
(啓)「夏希のは下級生からなんだ。しかも懇願されてる」
(あかね)「すごくうれしそうだね」
昨日や一昨日より、くだけて明るくなった、いやいや、はしゃいでいるような感じがする。
(夏希)「そ、そんなことないよ。それに水着になるかは別の話。やっぱりいやだ」
(美江)「だけどさ、水着の話はもう広まってるんだ」
(啓)「そのようだね」
久美子も加わってきて「困るんだよねぇ。あたしにもまた来てたンだけどさ。これこれ」
『松本久美子、裸で踊りまくってくれ!』
(美江)「あはぁ、久美子のストリップ希望か」
(久美子)「何を言ってんだ。本当にふざけてるよ」
昨日までの分も含めて、どれもこれも全部別人のものだ。
(あかね)「いったいあたしたちにリクエストがあるのは何人くらいいるんだろう」
(啓)「さあてね。でも結構多そう」
さてここから昨日の続きが始まった。さあ、どうするか。
「やっぱり、最初の案が一番楽そうで無難なんだけどな」
「それじゃ全くつまらないし受けないよぉ。絶対何かパフォーマンスを付け加えないと」
「それに、第二部がつまらなければ、第一部がうまく行っても帳消しでしょ」
「それは困る」
「やっぱり、立ちポーズをやめて何か踊りを振り付けてみようか」
「そもそも、もう時間がないんだってば。あさってだもん」
「振り付けがだめなら、やっぱり立ってるしかないじゃないの」
「いや、だから、それを避けて何とかしようと考えてるわけで」
「さっきからずっと堂々巡りね」
「いい案も時間もないんじゃ、どうしようもないな」
「第二部をやめちゃうとか」
「えーーー!」
「それは敗北よ、と思うわ。ここまできたのに」
「そうだよ。それだけは避けたいわ。絶対に」
「じゃあどうすんのよ」
喧喧囂囂(けんけんごうごう)というか、蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)というか・・・
さすがの才女たちも、エキサイトして騒ぐばかりで、これと言った妙案がさっぱり浮かんでこない。
しかし水着であれば、舞台上で動こうが動くまいが、ポーズを取ろうが取るまいが、いや極端に言ってしまえば、舞台の上にいるだけで、強烈・猛烈なインパクトになるに違いない。
自然、討論の行方は水着の方向に傾いて行った。
実行委員会室に相談に・・・
(理恵)「昨日の水着の件なんですけれども・・・」
理恵たちが入ってくるのを見ると、件(くだん)の彼女は待ってましたとばかりに、
(女子実行委員)「あ、はいはい。レースクイーンが使うような、金色のレザービキニがありますよ」
(啓)「えっ、金色のレザービキニって?革でできてる水着みたいな?」
(女子の実行委員)「そうです。ブラとボトムのみなので、ま、見た目はビキニの水着ですね」
これも昔、使おうとして買い込んだ時の余りだそうだ。
(女子実行委員)「丈夫な革製なので、動き回るにも重宝しますよ。どうぞご自由にお使いください」
(啓)「使ってくださいって、それはさすがに派手すぎるでしょ。もう少し高校生が着るような地味なのはないの。
例えばフリルが付いたワンピースみたいなものとかは」
(女子実行委員)「うーん、ないですねぇ。でも演出ということなら、できるだけ派手な方がいいと思いますが」
この実行委員さんは、あっけらかんと言っている。
ぶっちゃけた話、彼女にしてみれば、理恵たちが何を着ようとどうでもよい。
受けて会場が盛り上がりさえすれば良いわけである。
(女子実行委員)「どうせ数日で卒業式なんだし、バカ騒ぎもおもしろいのでは。まあ無理にとは申しませんが。ただし他に水着はないですので、あしからず」
理恵たちは送別会の『トリを務める』ことになっている。プログラムの本当に一番最後。
下級生たちが送別会をせっかく盛り上げても、最後の最後でこの6人が『ガクッ』とシラケさせてしまったら、すべてぶち壊しだ。
結局、泣きそうになっている夏希を説得し、度胸を決めて決行することにした。
(女子実行委員)「それじゃ6人分用意して、お渡ししますね」
戻ってきた彼女たちは、第二部のパフォーマンスについて再検討中を始めたところである。
(美江)「腰に手を当てたポーズでもいいけど、水着だったらもっとインパクトのあるポーズがあるんじゃない」
久美子がやけ気味に「どうせなら、手足を広げたらどう」
(理恵)「え、それは・・・大胆だよね」
(夏希)「そうだよ。それじゃまるで晒すようになるんですけど」
(久美子)「どうせ見せるんなら、出し惜しみしたってしょうがないでしょ」
(理恵)「そうかもね。恥ずかしがってたら、却ってみっともないかもよ」
事ここに至っては、グズグズ言ってても仕方がない。
それにこのポーズなら、ほとんどノー練習で済む。これで決まり。
問題は、短時間とはいえ両手を挙げたままじっと動かないでいることだろう。
動いて姿勢を崩したり、体の一部でも手で隠したら、見てくれが悪くなり台無しになりそう。
しかし、これはとにかく『忍』の一字しかないと、みんなは心得たのだった。
- 3 -
*前次#
物語の部屋 目次へ