妄想別館 弐号棟


ハプニング その7


カーテンが上がるにつれて、6人の足首、脛(すね)と見えてくる。
舞台の周辺からは、拍手が起き、写真を撮る音も始まった。
しかし突然「ウワーッ」というどよめきが起きた。
「うっそぉ!」と叫びながら喜ぶ男子。「ハダカハダカぁ」と目を覆う女生徒。
絶叫が上がる中、カーテンは完全に上がって舞台上の全貌が見えた。そこには、
全裸のあかねが、理恵が、啓が、久美子が、美江が、そして夏希が、手足を広げて大事な所を観客に向けている。
筆で書けば『見せている』の一言だが、観客、特に男子生徒の心情といったら『筆舌には尽くせない』か!
また6人はまったく動く気配がなく人形のようになっている。
観客をまったく無視して遠くの方を見据えたままだ。
これは気が利いている。彼女たちと目が合ってしまうと、実はじっくりとは見づらい。
鑑賞するのに、この状態は、はなはだ都合がよいのである。
卑猥中の卑猥、しかしこれこそパフォーマンスである。いやハプニングというべきか。
学校中の誰一人として『想像のその字』さえもつかないようなハプニングが!
彼女たちに紙きれを送った輩(やから)でさえも『そんなことするわけがない』と、期待していなかっただろう。
それが目の前で起きている。

ここはE組。美江のクラスの女生徒たちも不審に思い、
「美江、美江ったら」「一体どうしちゃったのよ」と叫んでいる。
(美江:しゃべるわけにはいかないの)
彼女たちからすると、まるで美江が何かの力で固まってしまったように思えるらしい。
「聞こえてないのかな?」「そんなことないでしょ」
まばたきはしているものの、どんなに呼びかけても反応しない。
「でも丸見えじゃない」「恥ずかしくないのかな」
(美江:恥ずかしいに決まってるでしょ。すぐにもやめたいよ!)

A組あかねのクラスでも同じように、
「どうしちゃったの」「素っ裸じゃないか」と、驚愕の声が起きている。
あかねは6人の中では一番プロポーションがいいわけで、比較的マシな声もチラホラと。
「お〇ぱいが大きくてやわらかそう」「割れ目がポッテリしてる」「おマ〇コの線がすごく長いな」
(あかね:言うに事欠いて、いやらしいな。あんまりじろじろみないでほしいんだけれどな)
しかし観客から見ると、あかねもどうどうと裸を晒しているようにしか思えない。
「小林はわざと見せてんだな」「立派な、お〇ぱいやおマ〇コを自慢したかったんだろ」
(あかね:何をバカなこと言ってんのよ)
全く動かないのをいいことに、何人かが前の方に出てきて、股や胸のすれすれで写真を撮り始めた。

「啓、啓」「どうしたの、丸見えよ」という声に交じって、
「マ〇コの写真を撮ったぞう」と大声で下品に叫んでいる者がいる。
少し小柄な啓は、他の5人に比べて開きすぎるくらいの恰好になっている。
細い手足が伸び切っている様を、クラスみんなが『すごく大胆な』と思った。
(啓:いやあ、これは盛り上がったな)
最後の思い出に考えた構想としては、大成功と言えるだろう。
(啓:少しはしたなかったかな。みんなはどうなってるんだろう)
周りを見ることができないが、観客の騒ぎからそれと知れる。状況は啓と同じはずだ。
写真にも残るし、
(啓:あたしたち6人のすべてが記念か。これは語り草になっちゃうね)

パシャパシャとすごい、いや、すさまじい写真の音を聞きながら、
(理恵:はあぁ、もう好きなだけ撮ればいいでしょ)
理恵も観客のなすがままに写真を撮られている。
まったく隠そうともしない、嫌がるようなそぶりもない。
人形のように正面向こうの舞台を見つめたまま、目の前の観客には全く反応しない。
(まったくもう!)
某男子たちの声が聞こえてきた。
「女子クラス委員緒全員の裸、お〇ぱいとおマ〇コを写真集にしないか」
「そうだな。後で6人のを比べてみようぜ」
(理恵:品評なんかするなって!!!)

観客たちは、むろん彼女たちが何を考えているかはわからない。
中には「よくここまでできるね」と思っている者もあった。
『観衆の前で全裸』とは送別会のプログラムとしては度が過ぎているのではないかと。
しかしほとんどの生徒たちは、お得だ。千載一遇のチャンスだ。卒業前のプレゼントだ。
理由はともあれ、とにかく見なければ、とにかく写真を撮らなければと、プログラム中では最大の盛り上がりとなったのは事実である。
しかし大騒ぎも舞台も回りだすと、礼儀上、観客たちは静かに見物しだした。

彼女たちは、声を掛けられても、ドアップで写真を撮られても、商品棚の人形のように大の字のポーズのままだ。
まったく身動きもせずに、立体的な模様のようにピシッと揃った姿勢は、非常に美しいものに見える。
回転舞台の効果もこうなると絶大だ。
裸の女性たちが順々にスーッと近づいてきて、またスーッと遠ざかっていく様は、何か不思議な世界を連想させる。
興奮していた生徒たちも、だんだん夢をみているような錯覚になった。
「これって本当に現実なのかな」「見ちゃいけない物を見ている気がする」「全裸の女子が回ってるなんてありえないわ」

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