体屋さん その3
(あ・・・)
体が全然動かない。
手足はおろか、眼球さえも動かせない。
目に映っているのは先ほどの部屋のままだが、その周りの状況がわからない。
胸の鼓動もない。息もしていない。
(あー、自分は死んでしまったのか)とも思ったが、どうも違うようだ。
(あたしは、どうなっちゃたんだろう?)
と、思う間もなく、突然ギヤマンが視界に現われた。
スーパーガールRを抱えて。
(あっ、あたしだぁ!)
スーパーガールRがギヤマンに寄りかかるようにしなだれている。
ようやく自分の置かれた状況が理解できた。
(ギヤマン)「拍子抜けするくらいに簡単に引っかかったねぇ。それじゃ早速」
彼は壺をとりだし、スーパーガールRの口に、彼仕様(彼の爪と髪の毛と血液)の呪液を流し込んだ。
(真理子:あたしに何を飲ませてるのよ!)
叫ぼうとしてももちろん口は動かせない。
その一方で、ガラスの外のスーパーガールRはたちまち生き返った。
ガラス板にゆっくりと近寄ってくると、全裸で直立姿勢の真理子をジロジロ見ている。
彼女の体はギヤマンに取られてしまったのだ。
「アッハッハ」と、ギヤマンは大笑いをしている。
隣のスーパーガールRもいっしょになって笑っている。
(ギヤマン)「もうスーパーガールRは僕の物だ」
(SR)「えーと、どうやるんだっけ。『変身解除』か。よし」
スーパーガールRが『変身解除』と唱えると、真理子の姿に戻った。
ガラスの中の真理子を楽しそうに見る、ガラスの外の真理子。
無表情でスーパーガールRを見るしかないガラスの中の動けない真理子。
(真理子:そ、そんなバカな・・・あたしが、あたしが・・・)
ガラスの中の彼女は無表情ではあるが、実際は焦りに焦っている。
必死になって(返せ、触るな)と心の中で叫ぶが、ただそれだけである。
(ギヤマン)「もう一回やってみようぜ」
(真理子)「変身」と叫んで、スーパーガールRになった。
自分の体を、スーパーガールRの体を、自分(SR)が、いやいや、ギヤマンがいいように触りまくっている。
彼女はこの動作を何回も繰り返して喜んでいる。
(SR)「よし、これはいい物を手にいれた」
スーパーガールRは自分の手、胸、足、その他ボディをうれしそうに見ている。
体をパンパンたたきながらギヤマンに振り返り、
(SR)「今日はこのすばらしい体でやるとするか」
(ギヤマン)「敵ながらナイスなボディだものな。いやいや今日からは僕自身か」
ガラスの真理子はギョッとした。
(ギヤマン)「兄貴の敵とやるのもいいもんだな。ハハハ。それじゃ今夜は本物の肉体で楽しませてもらうからな」
ギヤマンがガラスの真理子をチラリ見しながらニヤリと言った。
(真理子:な、何を言ってる、あたしの体だぞ、返せ、やめろぉ)
再びスーパーガールRが覗き込むようにガラス板に近づく。
ベネチアンマスクの中から凄みのある目つきで、
(SR)「何か言ってるかもしれないが無駄だぞ。お前は明日処刑してやるから楽しみに待っていろ」と大笑いをし、
(SR)「それから近いうちに仲間の脱獄にも一役買ってもらおうと思ってるからな。この体を使ってな」
スーパーガールRなら、警察も油断するに違いない。
悪人たちの集団脱走を企てているようだ。もちろんその報酬を目当てに。
スーパーガールRは「変身解除」と、真理子の姿に戻り、
(ギヤマン)「さあて、それでは行くかな」
2人とも出て行ってしまった。
電気を消された室内は真っ暗になった。
(真理子:あたしは、あたしは・・・いったいどうなるんだろ)
今の真理子はまったくの無力だ。
体を取られて、瞬きすらできないガラスの中の写真なのだ。
さすがの真理子も泣きたくなった。
しかし写真では・・・泣くことなどもちろんできない。
真夜中をはるかに過ぎた頃。
(真理子)「ただいまぁ」
美代子は飛んできて「あんた連絡もしないで、一体何をやっていたのよ」
(真理子)「え、ちょっとね」
(美代子)「ちょっとってなによ。きちんと説明しなさい」
(真理子)「うるさいなあ」
真理子は無視するように、
(真理子)「ちょっと疲れたからもう寝るわ」
(美代子)「疲れたってあんた・・・」
服ははだけているし、髪の毛もバサバサだ。
おしゃれ好きの彼女にしては珍しい。
なによりベネチアンマスクをカバンの縁に引っ掛けているではないか。
これには美代子も怒った。
(美代子)「マスクの扱いには十分気をつけろって、さんざん言ってるでしょ。なんなのそれは」
しかし真理子はカバンを放り投げて足でわきに押しやると、
(真理子)「明日、あした聞いてあげるから」
真理子は手をブラブラ振って、あくびをしながら部屋にはいってしまった。
美代子は呆気にとられた・・・が、
(美代子:なにかおかしいな)
いつもの真理子ではない。それに奇妙な話と状況がよく似ている。
美代子への口答えはともかく、マスクの扱いについては十分理解しているはずだ。
それなのに・・・
でも不思議だ。真理子のようだが、どこかしら違和感がある。
ニセモノが化けているとも考えたが、やっぱり体は間違いなく真理子だ。
しかし催眠術の暗示だけで、ここまで複雑で細かい行動や動作ができるとも考えられない。
しいて言うなら、なにかに取りつかれた真理子がいる、と感じた。
さすがに美代子はスーパーガールで母親である。
直感で「まちがいなく中身はニセモノ」と思いはじめている。
次の日の朝、美代子はいつになく真理子を注視している。
朝食中に真理子が「あたし学校やめる」
美代子はキョトンとした。
(美代子)「やめるってあんた。やめてどうするの。働くの?」
(真理子)「彼氏と一緒に商売するんだよ」
(美代子)「か、彼氏、彼氏って誰。それに商売って何をするの」
(真理子)「あとで教えてあげる。ところでおかあさん警官でしょ。▽✕刑務所のセキュリティーシステムに詳しい」
(美代子)「いきなりなんでそんなこと聞くのよ?」
(真理子)「なんででもいいじゃない。どうしても知りたいんだよ。知ってるなら教えてよ」
(美代子)「そんなこと身内でも教えられないよ」
真理子は「チェ。それならいいや。自分で調べるから」
そういうと、食べた食器をほったらかしたまま「まあまあだな」と言い、出て行ってしまった。
美代子はお箸とお茶碗を持ったまま呆然と見ていたが、
(美代子:やっぱり、後をつけてみるかな)
- 3 -
*前次#
物語の部屋 目次へ