妄想別館 弐号棟


悪人、ゲームで遊ぶ その3


ブルーは気がついた。
(ここはどこだろう?)
野原の真ん中に立っている。
遠くに森があり、そのさらに向こうに山並みが見える。
のどかな田舎の風景のようではあるが、全然知らないところだ。
(いったい、あたしは、あれっ?)
体が動かない。手足も、首も、いやいやそれどころか、
(目線まで動かないって!これはいったい・・・)
遠くの景色の一点を見つめたままになっている。
ブルーはとまどい、焦りだす。
(どうしたっていうんだ。体が、体全部が完全に固定されちゃってる)
落ち着け落ち着けと、自分に言い聞かせながら、今までの状況を思いだしてみる。
(そうだ、女性の悲鳴を聞いて、グリーンと駆けつけたんだよね。それで・・・うっ)
向こうから10人くらいの女性が現われた。
若い女性、高校生や大学生のようだ。
(なんなの、あの子たちは?)
6人ほどは素手、2人が竹刀。あとは、弓とバットを持っているのが1人ずつ。
ブルーは声をかけようとしたが・・・もちろん声も出ない。
(ちょっと、どうなっているの)
10人はブルー目掛けて襲ってきた。
(いやだ、なにするの。あたし動けないんだよぉ)
ところが、
(あっ!)
突然体が動いた。同時に今の今まで考えていた事をすべて忘れてしまい、
(なんだ、あたしはあいつらを殺さなきゃならないんだっけ)
ファイテングポーズをとると、いきなり水鉄砲を撃ちだした。
それをもろに浴びた3人は・・・ブルーのこの技に耐えられるわけがない。
全身バラバラになって吹き飛んでしまった。
しかしブルーは良心の呵責など起きない。満足そうに、
(よしまず3人倒したぞ)
その隙に、1人がバットで殴りかかってきた。
避けると同時にまわし蹴りが頭に命中して、吹っ飛んだ。
いつも悪人と戦う時でさえ、逮捕を前提に多少は手加減をするものだが、今は違う。
彼女は理性が消えている。まったく脳裏に浮かばない。
さらに3人には水の玉を顔にぶつけて倒した。グニャリと倒れるともう動かない。
竹刀を打ってきた2人も腕でかわし、素手で殴り倒した。
(あとは・・・)
矢が飛んできた。
(あ)、これはよけきれなかった。
矢はブルーの胸に命中はしたが、彼女は反射的に液体になり修復してしまった。
もちろんノーダメージである。
(小賢しいな!)
水鉄砲を吹きかけると、弓を持ったまま女性の上半身が吹き飛んだ。
残った下半身が崩れるように倒れる。
これもリミッターなしのフルパワーである。
普段、ベネチアンマスクの能力をこんな使い方はしない。
というよりも、このようなことは初めてである。
あっさりと全員を倒してしまい(こんなものかな)と、つぶやいた。
(ん?あれ!)
構えた恰好のまま、体がまた、またしてもまったく動かなくなった。
そして、彼女は・・・
突然、理性が戻った。目の前のあり様を見て、驚くと同時にゾッとした。
(あああーーー、あ、あたしは何てことをしてしまったんだあ!)
見える範囲に死体やバラバラになった手足が落ちている。
一般の女性をフルパワーで手に掛けるなんて。
(いったい、いったい、なんで、どうして、どうしてこうなった!)
しかも何人かは行方不明になっていた少女たちであることにも気がついた。
(そんな、そんな、うそだよぉ・・・)
彼女は目の前が真っ暗になっていった。

ワインとウイスはモニター画面を見ている。
画面上にはブルーがファイテングポーズのまま止まっている。
(ワイン)「やっぱり、このブルーって強ええゎ。さすがスーパーガールだけあるよ」
(ウイス)「それはそうだろうよ。そんな女子大生みたいなのじゃ、倒そうったって無理無理」
(ワイン)「じゃあ、次はこれなんかどう」
(ウイス)「お、いいんじゃない。少しは勝負になるだろ」

ブルーは目の前の死体を見て呆然としている。
自分が間違いなくやったという自覚はあるし、その時の感情も思い出した。
問題はどうして理性がなくなったのか、ということなのだが、ブルーは理由がさっぱりわからない。
ゲームのアバターにされてしまっているのである。
『ウイスとワインの操作通りに動くしかない』と、いう当然の理屈など知る由もない。
ただ良心の呵責と人殺しの恐怖に怯えるのみである。
(いやだいやだよ。あたし人を殺してしまった!)
彼女は頭を抱えてしゃがみこみたいが、もちろん止まった状態のままだ。
(これは夢だよ。あ、あたしが人を殺してしまうなんて)
彼女は心の中では泣いているが、そぶりも見せず、ファイテングポーズのまま固まっているしかない。
悪人たちの次の指示があるまでは・・・

次の瞬間(ハッ)と、気がついた。
体はやはり動かないのだが、一番最初の状態、つまり野原の真ん中に直立している。
死体は全部消えていた。
(あれ?やっぱり今のは夢だったのかな)
彼女の心の中は、そうであってくれと祈るばかりだ。
しかし・・・
野原の向こうから突然2人が現われた。
見覚えのある顔である。
(あ、山崎巡査長、榎本巡査。ここはいったい、どうな・・・)
突然、体が動き出して・・・理性が消えた。
警官2人は拳銃を抜いて構えている。
(なんだ、あの警官たちは。そうか、あの2人は敵なんだっけ。殺さなきゃ)
ブルーは再び構えた。そのとたんに2人は発砲してきた。
何発かがブルーに命中したが、もちろん全然きかない。
(なによ。そんなのが、あたしにきくわけないでしょ)
ブルーは構え方を変えると、
(とっておきの技を見せてあげる)
ブルーは右手から水を噴き出し、それを極々細くした。
圧力を最大にして振ると、それは刀のように細く固く鋭くなった。
金属でも切断できる、いわゆる『ウォータージェットカッター』である。
こんな技も普段は使わない、相手を確実に殺してしまうから。
そのとおりで、フッと触れただけで、2人の首は簡単に落ちてしまった。
(なんだ、全然弱いのね。あたしに歯向かうなんて)
そしてまた動けなくなった。
ウォータージェットを振っている途中のポーズのまま。
まるでフィギュアのような恰好で固まっているが、同時に意識も戻った。
そして、目の前の地面を見て「ギョッ」とした。
首が2つ転がっている。
(うわぁーーーー!山崎さん、榎本さん!ちょっとしっかりしてよお)
悲しそうに(心の中で)叫ぶが、もげた首は戻らない。
いやゲームの世界なので簡単に戻るのだが・・・
転がった榎本巡査の首は恨めしそうにブルーを見ている。
ブルーは動けないので目をつぶれず、また目を逸らすこともできない。
(ヒィー!)
ブルー、碧は精神がおかしくなりだしている。
(もういやあああああーーー。誰か何とかしてえ。助けてぇぇぇーーー)
データ変換の影響も現われ始めているようだ。
彼女の記憶や思考は少しずつ飛びだして、ところどころおかしくなってきている。
警官2人の名前はすでに忘れている。
(おまわりさんを・・・ピストルで撃ってきた人を、殺してしまった)
しばらくすれば、恐怖や不安の感情も消えてしまうだろう。
でもそれは『幸いなこと』と、言っていいのだろうか?

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