妄想別館 弐号棟


鬼の復活話 その2


目抜き通りから、少しく奥まったところにある洒落しゃれた喫茶店。
(夏美)「遅くなった遅くなった」
呼び出した本人が入ってきた。
キョロキョロと見渡すと奥の席に美穂と碧が座っている
2人も気がついて「こっちこっち」と軽く手招きする。
(夏美)「ごめん遅くなっちゃった」
(美穂)「いいから座りなよ。何頼む?」
コーヒーを注文して一息つくと、勢いよくしゃべりだした。
(夏美)「ちょっとぉ、大変なのよ。聞いてくれる」
碧が紅茶を飲みながら「もちろんよ。そのために呼んだんでしょ」
美穂も笑いながら「なによ?どうしたっていうのよ」
(夏美)「人食い鬼がよみがえったみたいなんだよ」
美穂と碧は、飲もうとしていたコーヒーの手を止めた。
「もっとくわしく教えてよ」
500年ほど昔、N地方の山中に、人間を襲って食べる鬼がいた。
それを、徳の有る高僧数人が悪戦苦闘の末、封印力のある石の下に封じ込めたそうだ。
(美穂)「ん、ん、それで」
もちろん、それ以来被害はなくなった。
封印石は山の奥にあったこともあり、誰も近づかなかったのだろう。
ずっと静かな状態だったそうだ。
ところが最近、誰かが、それを動かしたらしい。 
(美穂)「ははあ、それで鬼が出てきたっていうわけね」
(夏美)「おそらくね」
警察の発表ではクマに襲われたことになっているが・・・違うだろう。
遺体も遺品も全く残っていない。痕跡が何もない。
消えてしまったとしかいいようがないそうだ。
それに、行方不明の女性の数も半端じゃない。
(夏美)「一日に数人が行方不明になった日もあったらしいよ。やっぱりクマの仕業じゃないと思うな」
(美穂)「物騒な話だね」
(夏美)「たぶん食べられてしまったんだよ」
(碧)「フーン。それで、その鬼を退治しようというのね」
(夏美)「そうなんだけどさ、ちょっと無理っぽいんだよね」
(美穂)「何言ってんのよ?」

夏美が言うには、鬼を退治することはできないという。
彼女たちの能力でも無理なようだ。
(夏美)「力や技で倒すことなんか絶対にできないんだよ。力が強すぎてさ」
鬼がどのような能力を持っているかは夏美でもよく知らない。
霊力のある石で封印するのが精いっぱい。唯一の対策なんだそうだ。
(夏美)「下手をすると返り討ちにあうよ。なにせ、次元の違う妖怪だからね」
(美穂)「それじゃどうすればいいの」
その封印石を、元通りにするだけでいいそうだ。
そうすれば鬼はその下に吸い込まれて出てこれなくなる。
(碧)「なんだぁ。簡単じゃない」
(夏美)「いやいや、そう簡単にはいかないと思うよ」
(美穂)「なんでよ?」
鬼たちが必ず邪魔しに来る・・・だろう、と夏美が言う。
(美穂)「ちょっと待って。『たち』って言った?」
(夏美)「そう、鬼は三匹いるんだよ。兄弟なんだって」
でも今ならまだ鬼も目覚めたばかりで、能力の覚醒も完全ではない。
妨害される前に、また被害が拡大する前に、石を戻してしまおうというわけだ。
「ここ!」夏美が地図をとり出して、指で示した場所は、かなり山奥の場所だ。
ふもとから歩くと相当な距離になるだろう。
(美穂)「山登りってことね」
(夏美)「まあね」
(碧)「でもとにかく、そこまで行って、石を元の場所に戻してしまえばお終いなんでしょ」
スーパーガールになれば、それほど難しい話でもなさそうに思えた。
(美穂)「なんだ、やっぱり簡単なんじゃないの」
(碧)「そうだね、面倒で大変かもしれないけど、難しくはないんじゃないかな」
美穂と碧はホッと息をついて、再びコーヒーを飲みはじめた。

(夏美)「あたしが思うにさ・・・」、
鬼の事情を知っている者はそうざらにはいないはず。
さらに鬼を封じ込める方法なんて誰も知らないだろう。
彼女たちが某地点まで行って、石を戻さなければ、鬼の被害はなくならない。
それ故、彼女たちはわざわざ、そこに出向かおうとしているわけである。
そう考えると何か見えてくるのではないかな?
(夏美)「あたしたちを誘い出すために、誰かがわざと石を動かして鬼を出したんじゃないの?」
碧も美穂も無言で見つめ合っている
(美穂)「その可能性は、・・・十分に考えられるね」
裏で糸を引いている奴がいるに違いない。

数日たって、出発前日の午後である。
美穂はどうにも不安な感じがしてしょうがない。
大学の研究室の中、椅子に座って腕を組んでいつまでも考えている。
どうにも気になる。
作戦では鬼どもが現われる前に、石を元通りにすることになっている。
石を動かして運ぶだけだ。作業自体は簡単に終わるだろう。
でももし鬼たちが邪魔をしに現れたらどうする?
2人が3匹の鬼に対峙している間に、もう1人が石を元に戻す。
でもでも、さらにもしも、鬼たちも、それを見越して何か策を考えていたら・・・
「うーん・・・まずいよね・・・」
そして、
「あたし達が鬼を封じ損なってしまったたら・・・どうなるのだろ?」
野放しになって女性を食べ放題!
「いやいや、それは・・・」
えらい状況になってしまう。考えただけでもおぞ気がする。
鬼に不覚を取るつもりはないけれども、夏美は勝つことはできないとも言っている。
別にもう一手、何か考えておいた方がいいのかもしれない。
「用件的には石を元に戻すだけなんだけれどもなぁ。何かないかな?」
その時にノックがあり「入ります」と声がした。
「はい?どうぞ」
2人の生徒が一緒に入ってきて、頭を下げて「すみません」と言っている。
「なに。どうしたの?」
(佐藤)「あのぉ、遅れていたレポート持ってきたんですが」
(鈴木)「僕もなんですが・・・」
これを聞くと、美穂は少々ムッとして、
(美穂)「今頃なんですか!提出日はとっくに過ぎて・・・ん?」
2人は結構がっしりした体形だ。何かのスポーツをやっているのかも。
美穂はいいことを思いついた。
(美穂)「あ、そっか。ちょっと座ってくれない。それの提出を認めてあげる代わりにさ、お願いがあるんだけれどもな」
「?」
(美穂)「君たち、山登りとかやった事があるかな?」
「や、山登りですか?」
2人は顔を見合わせている。




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