妄想別館 弐号棟


芸術の街 その2


事態は思わぬ方向に展開して行く。
政府が善後策を講じていると、突然『霧が晴れた』との情報が飛び込んできた。
人々は「いったいなんだったんだ」と、思いつつもホッとした。
しかし『ぬか喜び』であった。
霧は晴れたが、Q地区と連絡もつかなければ、誰も地区外に出てこない。
いやいや、現状は悪い方向に進んでいるようである。
なんとなれば、政府宛に謎の男から驚愕きょうがくするような声明文が届いたのだ。

私は神よりつかわされた、究極のエロスを追求する芸術家である。
私はQ地区を『芸術の街』と、宣言する。
市民諸氏一般人の立入は厳禁とする。
今後Q地区は芸術作品の展示場所及び工房として使用するつもりである。
ここで作成したすばらしき作品群は、都内随所に展示していき、
いずれは都内を我が芸術作品で埋め尽くしたいと思っている。
愚衆の諸君も真の芸術を鑑賞できることを光栄に思うがいい。
なお、私の神品には絶対に手を触れないように。
神聖なものであるからして、少しでも隠したり、動かしたりする者には容赦ない鉄槌てっついを下す。
                                            以上である

ふたたび美穂たちの会話である。
(碧)「芸術家だってさ」
(美穂)「名前を名乗ってないね」
(夏美)「それよりどういう事。何言ってるのかな?この変態野郎は!」
よくわからない部分が多いが、文面からそのような習癖の男であろうと確信した夏美がえる!
碧もあきれたように「さあてね?」と、言っている。
しかし男がやろうとしていた『内容』は、すぐに明らかになった。
声明文の通り、この変質者は即、具体的な行動を起こしたのだ。

次の日である。
都内各所に、全裸体の人間が多数現われた。
皆、何かの動作をしたような格好のまま、石のように動かない。
とは言っても、もちろん死んでいるわけではない。
(何も持っていないが)重い荷物を持って急ぎ足で歩いている男性。
(スマホは持っていないが)スマホを見て何か考えている女性。
大急ぎで走っている女子高生。
(同じく何も持ってないが)何か食べながら歩いている男子中学生。
おしゃべりをしながら並んで歩いている小学生の女の子。
買い物途中であろう、中年の奥さんもいる。
手には何も持っていないが、あきらかに何かをぶら下げていた様子で、キリリと前を向き歩いている。
使い古したおっ〇いや立派な線の入った土手を見せつけながら。
それなりの年齢の女性が全てを堂々と晒して歩いて姿、何をか言わんやである。
子どもから老人まで男女を問わず。
誰もかれも皆一糸まとわない全裸。
衆目の視線を一身に浴びてもまったく動くことのない。
〇区に5体、▽区に7体、▢◇区に2体、✕市に3体、その他。
都内のアチコチにパラパラと現われた、いや置かれていた。
交差点。駅のホーム、コンビニの前、などなどランダムに。
この彼、彼女たちは、Q市にいた人たちであった。
時間を止められ、全裸の芸術作品にされてしまったのだ。
そして裸体像は、日を追うごとに、都内各所に数を増やしていった。
何ということだ!
どうやったかはわからないが、明らかに人為的な仕業だ。
変態男の声明文とはこういうことだったのだ。
しかしながら異常事態はこれだけでは済まなかった。

大勢の乗降客がある駅の改札口付近。
人ごみの中に局部丸出しの女性が置いてあった。
衆人環視の中、気の毒に思ったのだろう。
見るに見かねて、通りがかりのご婦人が、ソッと持っていたタオルをかけてあげた。
もちろん人目を遮るようにしてあげる配慮だったが。
ところがそのご婦人はその場からスーッと消えてしまった。
そして、▢区のスーパーマーケットの前で、何かを覆うような格好で固まっていた。
ご婦人は全裸姿になっていた。
彼女の善良な好意を知らない小学生の男の子が近づいて来る。
しわしわのおっ〇いとしなびて垂れた割れ目を見て、面白半分に叫んでいたが、ついにそれをつまんでしまった。
彼は一瞬でその場所から消えて、数分後に都内で有名な▢◇公園の噴水の前に、再び現われた。
笑いながら、何かをつまむようにしてして立っている。
銅像のように固まってしまって、かわいい、オチ〇チンを多数の通行人の前に晒して。
すぐにそれに興味を持ったOLたちが近づいてきて・・・

別のある地区では・・・
「これは私の息子だ」と、動かない少年を連れて帰ろうと手を触れた男性が、銀座の交差点で、何かを抱きかかえた恰好のまま固まっている。
堂々と・・・立派な一物をあらわにした姿で!
手を繋いでやってきた女子中学生のうちの1人が、「あ、やっだぁ」と言いながら傘の先で突いてしまった。
そして、渋〇駅のハチ公像の横に、仲良く手をつなぎながらスッポンポンで立つことになった。
イケメンの若い学生が、すかさず彼女たちの裸体を見つけて近寄ってきた。
「おっ、この娘、俺の超好み」とか何とか言って、
オッパイを摘まんだまではいいが、直後に某駅のホーム上に。
彼が立っているホームはラッシュアワー時で押し合いへし合いの状況である。
「やめて、いやぁ!」「押さないでくれぇ」と、の声もむなしく、
周りの人々に押されて彼に触れてしまった人たちが、次々と消えていった・・・
欲情を抑えきれずに若い女性に手を触れた者もいた。
もちろん、目抜き通りでヌード人形として飾られることになったのは、言うまでもない(こういう輩が一番多い)。
好青年の裸といっしょに自撮りをしようとして、誤って彼に触れてしまった女子大生もいた。
彼女自身が誰かの自撮り対象、いえいえ、大勢の前でヌードモデルになってしまった。

とんでもない事態が続出しだした。
さあ、こうなってくると、うっかりしたことができなくなってくる。
何かで覆い隠すとか、あるいは移動させるとか、そうする者はいなくなってしまった。
『裸だから気の毒』などと親切心を起こすと、自分も即、オブジェになってしまう。
裸体は白昼晒されたままである。雨が降っても風が吹いても。
日ごと、都内のいたるところ、裸体はどんどん増えていく。
老若男女、美人やイケメンもいれば、浮浪者のような者もいる。
しかし普段見られぬ他人の素っ裸ということで、それはそれで各人の興味の対象になるのだろう。
一応見ておこうという者がほとんどで、興味を持って裸体に触れて二次感染(?)する事故も(事故と言うのだろうか?)後を絶たない。
いや、むしろそっちの方が多いのかもしれない。
しかし、それはそれこれはこれ。もはや国民の不満は爆発寸前だ。
政府や警察は何をやってるんだ!
自分の大事な人を裸で晒され、猥褻物わいせつぶつに変えられて陳列され。
風紀の乱れはこの上もない。
おまけにこれらの裸体は、明日のわが身かもしれない。
当然のことながら政府に対する風当たりが強くなった。
しかし政府の治安能力では・・・ほとんど無力であった。
ただし世間ではまだ一筋の希望が残っていた。
「スーパーガールたちが何とかしてくれるよ!」

(碧)「あす、次の調査隊がもう一度踏み込むんだって」
(美穂)「えっ、大丈夫なの?」
(碧)「うーん、一応10分で撤収するように厳命の指示は出てるんだけどさ」
碧も歯切れが悪い。それはそうだろう。Q市内の状況はわからないままだ。
加えて時間停止の原因、犯人はもとより犯人の意図もさっぱりだ。
しかし裸体は増えていくし、謎のエリアは少しずつではあるが外に広がっている。
(碧)「とにかく、これ以上放っておけないし」
警察としても世間の圧力で何か実行せざるを得ない状況になってしまっている。
(美穂)「あたしたちも何か手伝おうか」
(碧)「ありがたいけど・・・」
とりあえず警察の面目もあるからと碧は断った。
美穂と夏美はなんかしっくりこないが、
(夏美)「まあ碧がそう言うなら・・・」
もう少し成り行きを見守ることにした。




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