イエロー奮戦記 その5
「うー、うーん・・・」
夏美は気がついた。
「まだ、夢を見ているのかな?」
意識がボーッとしている。
なにより体の自由がきかない。手足が動かないのだ。
「ここはいったい?あたしはどうしたんだろ・・・」
ポツポツと思い出した。メデューサに石にされたはずだ。
「だから体が動かないのか」
「でも、どうして考えることができるんだろう?」
しかしその解答はすぐに見つかった。
目の前に置いてある物を見たとたんに絶叫を上げた。
(夏美)「ギャーッ!碧!ちょっと碧ぃぃぃ!」
碧はその声で気がついたが、彼女も夏美を見てギョッとした。
顔が恐怖で引きつっている。
大きく目を見開いて同じように叫び声を上げる!
(碧)「夏美ぃ!あ、あんた、えっ?あんたそれ、それでも生きてるの?」
碧と夏美は首だけだった。
2つの首がテーブルの上に向き合って置かれているのだ。
そして、スーパーガールブルーとグリーンの体も、彼女たちの目の前、いや首の前にある。
ブルーはバリアを張った格好のまま、グリーンは何かを避けようとした恰好のまま。
体の方は完全に石になってしまっている。
ただし首はない。その首はテーブルの上で生きている。
(Me)「気がついたか2人とも」
メデューサがいつの間にか出てきて立っている。
碧と夏美は状況がまだわからない。
(碧)「これは・・・どういうことなのォ!」
(夏美)「あんた、あたしたちに何をしたぁ!」
悲鳴のような絶叫を上げ続ける2人だが・・・
彼女たちはすでに負けているのだ。むなしい響きである。
メデューサはうれしくてたまらないように、ケラケラと高笑いしながら、
(Me)「妖術をかけて首だけ元に戻したんだよ。フン、胴体の方はもういらないだろ」
(碧)「ど、どうするの、こんなことして」
さすがに声が震えている。
メデューサは碧の頭をなでようとするが、
碧は「う、やめてよ!触らないでよ。触るなー!」と叫んで噛みつこうとする。
(Me)「おやおや、自分のご主人様に向かって、なんという態度だろうね。
よしよーし。まあ、これからじっくり躾けてやるからね」
(碧)「ご主人様? 躾ける? って何のことヨ?!」
(Me)「お前たちは、じきにあたしのペットになるんだよ」
(夏美)「ペット?ペットって何よ?」
(Me)「この術はな、妖怪を作る術とでもいうかな」
(碧 夏美)「えっ!?」
(Me)「そうだな、あと半年もすれば完全なろくろ首になれるんだよ」
ろくろ首、すなわち首だけの妖怪である。
メデューサは、スーパーガールの首だけを、妖怪に変えようしているのだ。
(Me)「ちょうど、宮殿の番犬代わりがほしいと思っていたんだ。よかったよ。霊能力の強い人間が見つかって」
「ホホホ」と、彼女のあざ笑う声を聞きながら、2人は真っ青になった。
このままここにいたら、妖怪にされてしまう!
逃げようとするが、首だけでは無理である。
首は転がって動かないように、ガッチリと固定されていた。
「いやだ、ふざけるな」と、再び大声で叫ぶが、
(Me)「生きのいいこと」
メデューサは喜ぶばかりだ。
夏美の顔に近づいていって、
(Me)「特に夏美、お前はケタはずれた霊力を持っているから、さぞ立派な妖怪になれるよ。楽しみだねえ」
夏美は恐怖で目を見開いている。やっと、絞り出すような声で、
(夏美)「ふざけるなよ!なんであたしが妖怪なんかに・・・」
メデューサは大声で笑い出した。
(Me)「もうお前たちは、自然に妖怪になるばかりなんだよ。時間の問題さ。
せいぜい人間のうちにあがいておくことだね」
「やめろ」「ふざけるな」と、2人はさらに大声で騒ぎ立てるが・・・徐々に絶望感は増すばかり。
追い打ちをかけるように女が言った。
(Me)「そらお前たち。もうスーパーガールにもなれないんだよ」
なんと、石になったベネチアンマスクを持っている。
(夏美)「あ、ウソ・・・でしょ・・・」
完全に石化して、石細工のオブジェのようになっている。
碧はなおも、元に戻せと騒いでいたが、
とうとう「うるさい!」と、引っぱたかれてしまった。
(碧)「あうーーぅ・・・」
(Me)「こんなものがあるからいけないのかな。こうしてあげるわ」
怪力でバキバキとマスクを砕いてしまった。
(碧)「そ、そんなぁ・・・」
(Me)「どう絶望した?いい顔だ。ホホ」
首どうしが困った顔で会話をしている。
(夏美)「碧どうしよう!」
(碧)「どうしようって言われても・・・」
しかし、碧は夏美を見て再びゾッとした。
(碧)「夏美ぃ!あんた、あんた、その頭!」
(夏美)「え?」
夏美の頭から角のようなものが生えだしている。
メデューサは大袈裟に驚いて・・・笑いが止まらない。
(Me)「おやっまあ。もう角がはえはじめたのね。これは早いじゃないか。早い早い!
よしよし。これなら半年もかからないな。ひと月もすれば完全に妖怪になれるかな。いやもっと早いな」
2人は常人より能力が高い分、呪術の吸収も早いのだろう。
(Me)「いやいや、これなら数日ってところかな。これはうれしい誤算!」
夏美が絶叫する。
(夏美)「そんなぁ!いやだっ!いやだよお!妖怪なんかになりたくないよ」
さんざん妖怪を倒してきた夏美ではあるが、自分が妖怪になろうとは。
夏美は護身の術を使って、必死になって進行を食い止めようとする。
(夏美)「●✕〇▽✕▲!」
呪文を唱えたのだが、すぐに口から煙が出て、バチッと大きな音がした。
(夏美)「痛いっ!うわーっ!あ、頭が割れそうだっ!」
(Me)「それは当然だろ。だってお前はもう妖怪なんだもの」
術をかけるとすべて自分にはね返ってくる。
妖力よけの最強の護身術であるはずが、妖怪になりかけている彼女、自分にも強力に効いている。
泣きたくなった。いや、べそをかいている。
恐ろしげに見ていた碧も、角のようなものが生えだした。
舌も真っ赤になって二つに割れて伸びている。
(碧)「いやだよう。本当に妖怪にされちゃうよ」
(Me)「そうそう、その顔だ。絶望したり怒ったりすると、早く妖怪になれるんだよ」
そしてさらに絶望の
極めである。
メデューサが「そうだった、そうだった。忘れてたよ」と言って、
(碧)「あーっ!なにをする気よ!」
石像になった碧、碧の体を首の目の前に持ってきた。
そして腕をそっとなでる。
腕はサラッと崩れて、セメントの粉のようになった。
碧は目を見開いて、狂ったように叫ぶ。
(碧)「なにを・・・なんてことするのよ。あたしの体だぞ。それは・・・やめてぇ!」
(Me)「なにするって、神殿の補修に砂や土も必要だろ。こうやって石像を崩してさ・・・」
体を撫でると、碧の石像はサラサラ崩れて行って・・・完全な砂の山になってしまった。
(碧)「やめて―ぇ。あ・・・あたしの体が・・・」
碧は泣き叫んでいたが、メデューサは気にも留めない。
夏美は「なんてことすんのよ!」と、メデューサを睨みつけるが、
(Me)「おお、なかなかいい目をしているな」
(夏美)「うるさいよ!」と、どなる。
(夏美)「落ち着いて碧。ベンチアンマスクがあれば、あ・・・」
それは、石になって砕かれてもうないのである。
メデューサは、
勿体つけるように、今度はグリーンの体を持ってきた。
夏美は無言で睨みつけているが、あっという間に、彼女のボディ、石像も砂となってしまった。
2人分の体が大きな砂の山となっている。
(夏美)「碧、泣いちゃだめだよ、泣くと、それだけ早く妖怪になってしまうよ」
その通りであった。
碧の角はもうほとんど伸びきっている。目も吊り上がって、恐ろしい形相と化している。
夏美はそれを見て「あっ」と、声を上げてしまった。
どうみても鬼の顔だ。
碧は夏美の驚きようで、自分の状況に気がついたのか、
(碧)「もうだめだね。あたしたち妖怪になっちゃうのかな」
(夏美)「このままだと、たぶんね。でもあきらめちゃだめだよ!」
とはいうものの・・・メデューサはさらに
執拗に挑発を繰り返す。
絶望的になるように。怒らせるように。まるで嫌がらせのごとくだ。
そして・・・とうとう2人は心が折れてしまった。
必死に抵抗はしていたが、意外なほど早く妖怪にされてしまった。
角や牙が生え終えると、首は空を飛べるようになった。
同時にメデューサに逆らう気も失せて、完全に彼女の
僕となってしまった。
(Me)「よしよし。こいつらの正気も完全になくなったようだな」
メデューサはすこぶる満足そうである。
2つの鬼生首はフラフラと、メデューサのまわりをじゃれるように飛んでいる。
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