妄想別館 弐号棟


三勇士の最期 その4


ドターンと、大きな音がした。
(何の音? え、あたしが倒れたの?)
何の痛みも感じずに、彼女は床の上にグニャリと倒れていた。
(う、動けない!どうしたんだ。何が起こった?まさか・・・)
体がビチビチにこわばってしまって、今度こそ体のどこも動かすことができない。
手足を投げ出した、全裸のはずかしい恰好で転がっているのはわかるが、
自由がまったくきかず、体勢を治すことができない。
それどころか、瞬きも呼吸も脈も、命の鼓動というものがすべて消えた感じがする。
ピーイーとツバーンがニヤニヤしながら上から覗き込んでいる。
手下たちが自分の両腕を持って引き起こそうとしている。
(まさか、本当にあたしはラブドールに・・・ なんで、どうし・・・)
美穂の意識はここまでで途切れてしまった。

(Pe)「おい、お前たち、この女を立たせろ」
手下に指図して、両側から支えるようにして美穂を立たせると、
(Pe)「アッハァ〜 やっぱりすばらしいものだな」
美穂は両腕を支えられて、酔っぱらいのように、フニャリとよろけている。
しかしながら・・・ムチムチなボディに整った顔立ち。
ついさっきまで、手下をやっつけて得意だった時の凛々しい表情をしている。
まちがいなく超一級の美人だ、と、ピーイーはあらためて思った。
彼は目を輝かせながら、
(Pe)「イヒヒ、思い知ったか。お前はもう完全なラブドールなんだよ。ハアハア・・・」
ピーイーは、だらけた顔になり乳房をもむように撫ではじめた。

ツバーンはあきれて見ていたが、
「確認しますよ。いいですね?」と、ピーイーに言っている。
ピーイーが「ああ、そうだったな」と、美穂ドールから離れる。
ツバーンはナイフを取り出し、ラブドールの腕をザックリと切りつけた。
男たちは「あっ」と息をのむ。
傷口がパックリと開いているのに血がまったくでない。
さらにツバーンは、わざと人形を床に突き倒した。
「いったい何をするのだろう」と、男たちが見ていると、驚くことが起った。
ツバーンが「変身」と唱えると、傷口が光りだし、あっという間に、
「あ、傷が消えてしまった!」
さらになんと、グニャリと崩れていた美穂ドールは、腰に手を当てた仁王立ち姿で立っている。
つまり『決めポーズ』の格好だ。
これらはボードに書いてあった替文の初期状態である。
形状記憶ラブドールとは、こういうことであった。
もちろん美穂ドールはベネチアンマスクをつけているわけではないが、これはマスクの復元能力のためである。
これでどんな格好、どんなに傷つけても『変身』呪文の一言で、元通りになるのだ。
その代わり・・・もう美穂がスーパーガールになることはない。

ピーイーはラブドールに夢中になっている。
彼女の体をやさしくなでながら、
(Pe)「ああ美穂、愛しいラブドールよ。今日からは俺の女として大事にしてやるからな」
ツバーンと手下は再びあきれる。いや、今日は何度あきれたことだろうか。
たったいままで宿敵だったやつに、なんというザマだ!
でもまあいい。あっけなく1人は片付いた。
(Th)「それじゃぁ、ベネチアンマスクは私がいただきますよ」
(Pe)「ああ、好きにしろ」
人形の愛撫でそれどころではないようだ。

2か月後、ツバーンがピーイーのビルを訪れる。
ボンボンのラブドールを膝の上に置いたピーイーは、すこぶる上機嫌だ。
ラブドールは、スケスケのブラとパンティのみをつけている。
下着はパンパンのボディにペッタリと貼りついて、その下の形状が丸見えだ。
彼は押しつぶすように人形に抱きついて、ベタベタと撫でまわしている。
ツバーンは(この人の性癖には閉口するな)と思った。
(Th)「毎日そうやっているんですか? もう2か月も経ちますよ。そろそろ飽きるんじゃないんですか?」
(Pe)「いやいや、そんなことはない。それにこの方が美穂もうれしいだろ」
ダランと仰向けになっている彼女はまるで「そうなんですよ」と言わんばかりの顔をしている。
(Pe)「ほらこのニコリとした笑顔。いやされるだろ」
(Th)「そうですかねぇ・・・」
(Pe)「それにな、美穂はいろいろと忙しんだぜ。それに便利だし」
射撃の的に使っているという。サンドバッグの代わりにもなるという。
(Th)「はあ?まるで訓練の道具みたいですね」
(Pe)「部下たちがな、ホレ、この人形にコテンパンにやられた体たらくだった連中。
この人形を貸してやったら、俄然がぜん張り切りだして、気合の入りようがすごくてな」
格闘術も射撃の成績も、以前とは比べ物にならない程よくなっていると。
(Th:裸の人形で訓練か。それは成績も上がるかもしれないな・・・)
おまけに人形は『変身』の一言で、どんなにボロボロになっても一瞬で元に戻るのだ。
重宝する事、この上もなしだ。
(Th)「便利な使い方もあったものですね」
さらにこの美穂ドールは、夜は夜でピーイーの相手をしているのだろう。
なるほど彼女は忙しそうだ。
(Th)「凄腕すごうで強敵のスーパーガールイエローが、今や用途多々の便利なラブドールになってしまうとはねぇ・・・ ところでですね・・・」
ツバーンは用件を切りだそうとした。
ピーイーも、阿吽あうんの呼吸で、ツバーンの言おうとすることが、よーくわかっている。
(Pe)「うん、そろそろ2か月か。それじゃ次のやつを仕留めるとするかな」




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