妄想別館 弐号棟


三勇士の最期 その8


(賊)「まずい、スーパーガールだ!」
いきなり飛び込んできたグリーンに対して、悪人たちは右往左往だ。
ここは違法薬物の取引現場。
なにげないビルの中に、違法な薬物がよりどりみどり。
思っていた以上に、大掛かりな取引が行われていたようだ。
グリーンは入手した情報をもとに、急襲をしたのである。
(G)「警察よ。無駄な抵抗はやめなさい!」
数人が狂ったように暴れだし、猛然と部屋の外へ逃げようとするが、
「1人も逃がさないよ」
置いてあった観葉植物が伸びだして、たちまち犯人たちに絡みついてしまった。
「往生際の悪い!そら、おとなしくしなさいよ」
もがいて逃げようとする犯人を、軽いストレートを当てて動かなくした。
すぐあとから警官たちも踏み込んできて、捕物はあっけなく片が付いた。
あとは犯人たちを警官に引き渡しておしまいだ。
しかしだ・・・
彼女は暗い顔をしてつぶやく。
「こいつらも違うようだ」

碧がいなくなってからすでに3か月、美穂について言えば5か月だ。
夏美の焦燥は尋常ではない。
彼女は手掛かりや情報を得るため、懸命になって悪人たちを捕まえてきた。
いや、あえて事件に係わるようにしているのだが・・・
「またハズレか。こんな小物ではないよ・・・」
今回も事件自体は悪質だが、やっている連中は凶悪犯ではなさそうだ。
「もっと大物の悪党か妖怪が関わっているはずだ」
夏美は日を空けずして、碧の署の署長とも連絡を取り合っている。
署でも、碧がいなくなって大騒ぎの事態となっている。
幸いなことに、署長と夏美は、あのエロ芸術事件以来の旧知だ。
署長は親切に「何かわかったらお知らせします」、と言ってくれている。
彼としても、なんとかして美穂と碧を救出したいと思っている。
それに夏美、スーパーガールグリーンの力も借りたいのだろう。

夏美は確信している。
「美穂と碧は必ず生きている。ベネチアンマスクがある限り」
同時に彼女は、
「もしスーパーガールの抹殺を企むのなら、あたしにも必ず何か仕掛けてくるはずだ」
とも、考えている。
悪人たちにとって、スーパーガールは不倶戴天ふぐたいてんの敵である。
この世にいてもらっては困る邪魔な存在だ。
「必ず接触があるはず。そして絶対に敵の術中にはまってはいけない!」
敵の罠にはまってしまったら、2人を助けることも叶わなくなってしまう。
夏美は意識して冷静に努めるようにしている・・・のではあるが・・・
ハッと気がつくと我を忘れている。
とにかく事件と聞くと、飛び出して行って・・・気がつけば、いつの間にか悪人たちを完膚なまでに・・・
「これではいけない! もっと慎重にならなければ」
しかし、行方不明の2人のことを考えると、居てもたってもいられなくなって・・・
今日も夏美は、焦りと不安と後悔の一日であった。
そして、彼女が恐れていた通り、ツバーンの作戦は『とにかく夏美をじらすこと』であった。
2人がいなくなれば、そして何の手掛かりもなければ、彼女は自ずから自滅するだろう、と。

さて某洞窟の中。ドラコメソッド商会の本社はこの洞窟の奥にある。
ここに、ピーイーが訪れている。
(Mr.Pe)「夏美をここで倒すんだって? あんたの本社の真ん前じゃないか」
(Mr.Th)「夏美を本社の看板にしようと思っています」
妖怪たちがもっと集まってくるようにしたいと言っている。
(Pe)「看板娘? 洒落しゃれのつもりなのか。まあいいや。で、どうするんだい」
(Th)「これを使おうと思ってますが、いかかでしょうかね」
(Pe)「ふうん。これをね・・・」
目の前にあるのは、きれいな水晶に閉じ込められた鬼の死骸だ。
(Pe)「いつ見ても気味が悪いな」
鬼はもがいた末に封じ込められたのだろう。苦しそうな恰好になっている。
(Pe)「この中に、夏美を閉じ込めるっていうのか?」
(Th)「はいそうです」
(Pe)「ちょっと待て、この石は確か、ええっと・・・」
(Th)「封魔石です」(コレクション争奪戦の巻をご参照のほど)
(Pe)「そうそうそれだ。でもこの中に人間を閉じ込められるのか?」
その通りで、この水晶のような物は呪符の特殊形である。
つまり夏美がいつも持ち歩いている護符みたいなものだ。
妖怪は封じられるが、人間はどうだろう。
そもそも、この中から鬼を出すことができるのだろうか?
(Pe)「その封魔石に閉じ込められた妖怪は、絶対出られないんじゃなかったのかな?」
(Th)「その通りです。ですが策があります。任せてくださいよ」
ツバーンは自信がありそうだ。目がキラリと光った。
彼も妖怪である。彼の仲間も、いや顧客か、も多数ほうむり去られている。
彼はいつも物静かな態度ではあるが、はらわたの中は、煮えくり返っているに違いない。

ふと、ピーイーは水晶の向こうに奇妙な物があることに気がついた。
(Pe)「あれはなんだい?」
マネキン人形が木の柱にガッチリと固定されている。
胸を思い切り反り返らせて、両手を広げて両足を水平近くまで開いている。
(Pe)「マネキンを縛り付けているように見えるが・・・」
ピーイーが振り返ると彼は意味ありげに言った。
(Th)「そうですマネキンです。フフ、まあ見ていてくださいよ。夏美はミスターピーイー様、好みのオブジェにして差し上げますよ。
楽しみに待っていてください」

そしてついに・・・
夏美のところに悪人たちからメール文が届いた。
『美穂と碧を助けたければ、◎区にある◇▽ビルまで来い。
警察には絶対連絡するな。1人で来い。それが条件だ。
たがえれば、2人は永久に戻らなくなると思え。 ピーイーより』

夏美は指定されたビルにやって来た。
条件にも書いてあったとおり1人で。
署長には連絡を入れようかとも思ったが・・・やめておいたのだ。
奴らのことだ。たぶん、異世界での戦いになるだろう。
警察の助勢は無駄だろうと思っている。
人間が異世界に入っていくのは容易ではないし、却って足手まといになる公算の方が大きいかも。
警官たちを人質にとられたら、圧倒的に不利になってしまう。
そういうわけで、夏美は最初から1人で戦うつもりであった。
でもこれは・・・思慮が少し欠けていたのかも。夏美はやはり焦っていたのだ。
でも彼女の決心は一つで固かった。
「待ってて、美穂、碧。必ず助け出してあげるから!」

ビルの中に入っていくが誰もいない。
「妖気の気配はないな」
いや、結界を張って気配を消しているだけだろう。
廊下をしばらく歩いて行くと、案の定だ!
いつの間にか洞窟の中に立っている。
「やはり異世界につながっていたんだな」
ここから先は普通の人間で入って行けない。
でも彼女は「ここまでは想定済みだよ」と、気にもとめない。
呪文を唱えて、スーパーガールに変身した。
さらにしばらく進んで行くと、奇妙なものが置いてある。
「なんだろう、あれは?」
巨大な水晶のような物であった。
澄んだ透明の石の中に鬼が閉じ込められているのが、よ―く見える。
(G)「鬼か・・・」
夏美は水晶のまわりをゆっくりと一回りする。
(G)「これは封魔石。すると中の鬼は大昔に大僧侶たちに封印された・・・」
(Th)「さすがミスグリーン。それをご存じのようですね」
ハッとして振り返るとツバーンが立っていた。
いやもとい。彼女に隙は無い。
グリーンは後ろの声を聞いた瞬間、振り返ると同時にツタのムチをツバーンに打ち下ろしていたのだ。
先手を打ったすばやい動き、彼女の常とう手段だ。
振り返り終わった時には、あっけなくツバーンは縛り上げられている。
超一瞬の早業だったが、ツバーンは驚くでもなくまったくの余裕だ。
ニコニコしながら、
(Th)「ヤレヤレせっかちな事で。まだ挨拶も終わっていないのにな」
グリーンが呪文を唱えると、護符が手の中に現れた。
妖怪たちからすれば、恐れおののくほど強力な代物のようだ。
見ているだけでも、妖気が吸い取られていくようだ。
(Th)「これはまた、すごい物を取り出しましたね」
(G)「正直に答えなさいよ。美穂と碧はどこ。どこなの!」
いつものグリーンではない。目が怒りに燃えている。
(Th:やはり、相当焦っているな)
(G)「さっさと言いなよ。言えったら!」
(Th)「知る必要はないでしょう。あなたもすぐに消えるんですから」
(G)「何だとぉ」
これまたグリーンらしくない。相当な怒りで我を忘れているようだ。
グリーンは力を入れてツバーンを締め上げる。
(G)「この呪符をぶつけてやろうか!そうすれば、あんたは一瞬で消えてしまうよ」
(Th)「できますかね? あ、痛い痛い。勘弁してほしいな」
(G)「さっさと2人を返せ。ふざけてる暇はないんだ。そうしないともっと締め上げる・・・」
突然、ツバーンがガシャンと崩れた。
(G)「あ、人形か!」
彼女はあきらかに冷静さを失っていた。




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