「あのクソ呪骸!今度会ったらスクラップにしてやるっ」
『やっぱり呪骸だったんだ…ケムッ…』
「ああ、胸糞悪くなるほど精巧な造りだった」
『…変な気配はそのせいか』

凄まじい唸りを立てる炎の波に包まれて、全焼してしまった小屋の前に立つ純と五条。一時間ほど燃え続けた炎の中から無事に抜け出せたのは、五条の術式のおかげだった。

『捕まえなくてよかったんですか?』
「呪骸だぜ?どうせなにも吐かねーだろ」

相手が組織的に動いているのなら、余計な警戒心を持たせたくはない。高専関係者が動いていると知れて雲隠れでもされたら面倒だと五条は言った。
一般人に上手く溶け込みなに食わぬ顔で社会活動を行なっている呪詛師というのは厄介だ。己の力に慢心し、簡単に人を誑かし、呪い、そして殺す。罪の意識など感じていない輩がほとんどで、病的な思考は犠牲者ばかりを量産していく。

「呪詛師に呪骸に得体の知れない呪物のフルコースだな」
『使われた呪物も残穢からして、結構危険度高そうでしたよ』
「絶対人喰って成長するタイプの呪物だろ」
『強さに比例して取り込む人間の数増えたりします?』
「全然あり得る」
『……』
「成長しすぎた呪物がいつ暴走するかも分かんないし」

引きつった表情を浮かべている純を横目に、これ以上の人死は勘弁だとため息を吐いた五条が気怠そうに後ろ髪を掻いた。

「高専戻ったらまずは呪詛師の捜索任務だな。面倒くせえ」
『呪霊祓うより厄介じゃないですか』
「しゃーないから傑も巻き込むか」
『なら灰原と七海にも協力してもらっ…』
「却下」
『(ムカッ)』
「にしても臭ぇ!」

"服に臭い着いちまう…"と、この場所を見つけた時に嗅いだ死臭に続き、今は辺り一帯に焦臭さが充満している。先ほどのような鼻をつく強さでないにしろ、独特なクセのある刺激臭は長時間嗅いでいたら気分が悪くなりそうだと純は表情を歪めた。

「一旦戻るか」
『じゃあ霧島さんに連絡します』





助監督の霧島は、ホテルの駐車場に停めた車の中で不満気な表情を浮かべた。

「学生呪術師の本分は学業でしょうが…」

ぽつりと愚痴をこぼした彼女の手元には、任務の詳細が記された数枚の資料がある。
そこに書かれている任務内容は『一般人10名の捜索及び保護』そして『原因の解明と呪霊の討伐』と、大きく分けて二つだけ。よくある任務内容だと思っていた。しかし、ここに来るまでの道中五条たちから受けた調査報告は今後の任務内容を大幅に変更し、等級が一気に跳ね上がることを確信させるものだった。

呪霊ではなく、呪詛師(にんげん)相手。
呪術師ならば避けては通れない経験なのかもしれないが、まだ未成年の学生にそこまでの責任を負わせるのはいかがなものかと数年前から感じている。
しかし立場上、呪術師だから仕方がないとただ受け入れることしかできないのが現実だ。

「霧島、ちょっといいか」
「?」

わが子を思う母親のような気持ちでため息を吐いたのと、数分前に車を降りて、純とともに宿泊するホテルのフロントに向かったはずの五条が助手席側の窓を叩いたのはほぼ同時のことだった。

「どうかされました?」

切長の瞳をわずかに開いて窓を開けると、両手を制服のポケットに入れた状態で腰を屈めた五条が"頼みごと。"そう言った。

「なんでしょう」
「さっき伝えた神咲かんざきって奴さ」
「はい」
「悪いんだけど最優先で調べてくんない?」
「…え?」

樹海の中、二人が目撃した人物は全員で4人。
恐らくは敵の中核に近い呪詛師の男と彼の呪力により操作されていたという呪骸の少女。そして使い捨ての下っ端2人だ。神咲という名は下っ端の男たちが口にしていた名前だと聞いていたが、なにか引っかかることでもあるのだろうかと霧島はためらいがちに頷いてみせた。

「分かりました。なにか気になることでも?」

神咲という名を耳にした時、純が明らかな動揺をみせていたことを思い出す。おかしいとは感じたが、直接確認はしなかった。なぜか聞いたところで純は本当のことを話してはくれない。
そんな気がしたのだ。
しかし曖昧な理由を霧島に話す気はないらしく、五条は小さな溜息を吐いてから口を歪めた。

「言われたことだけやってくれればいいから」
「(イラッ)」

=余計な詮索はするな。ということだ。
年上を敬うということを知らない五条は当たり前のように霧島を見下し、上から目線でそう言った。

「…了解、しました…」
「じゃよろしく」
「(五条悟っ……やっぱり嫌いっ!)」

喉まで出かかった不満をなんとか飲み込んで、霧島はひらひらと手を振りホテル内へと歩き去っていく五条を睨みつけた。




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