「だからさぁー、言ってんじゃん」
『………(ジト〜)』
「なにもしてねぇ、添い寝しただけだって」
『嘘つけ。がっつり胸揉んでただろうが』
「そりゃあ純の胸育乳中だもん」
『遠回しに貧乳って言ってますよねそれ』
「でも俺とするようになってから少し大きくなったよね」

てへっ☆とワザとらしくあどけてみせた五条悟に対し、中指を突き立て冷たい視線を送る純。『性格偏差値底辺が』と吐き捨てれば「褒めるなよ〜」と予想以上に腹立たしい返事が返ってきた。

「つーかさ、別に良くない?減るもんないし」
『いや、何も良くないでしょ。私の尊厳が減ります』
「でも純さ、俺のこと好きでしょ?」
『………』
「嫌いじゃないって顔に書いてある」

ヘラヘラ笑いながら自らの頬を指さして、純の座る隣のベッドに移動する。縁に片膝を乗せながら「おいで」と手招きすると、少し警戒し身構えている純が首を横に振った。もちろん素直に言うことを聞くとは思っていない。五条はわずかに眉を下げ、純の名前を口にしてから今度は「来て」と軽く両手を広げた。

『…五条先輩ずるいんですよ』
「俺をここまで本気にさせたお前の方が十分ずるいよ」

小さく頬を膨らませ近づいてきた純の体をギュッと抱きしめ、額に優しくキスをした。これからまだ何十年と続く長い人生の中で、まさかこんなにも早く生涯を共にしたくなるような、心の底から好きだと感じる相手に出逢えるなんて予想もしていなかった。それ以前に、一人の異性に対して一途になれる誠実さが自分にあったことに驚いた。

「それに」
『?』
「可愛い彼女の寝顔に欲情しない男はいないだろ?」
『…お尻撫でないで下さい』
「ヘヘッ。いいの、俺の純だもん」

全く悪びれる様子を見せずに「いいケツしてんね〜」とスカートの中に侵入してきた五条の手を掴み捻り上げる。性格以外は他に類を見ないほど完璧なくせに、まじでこうゆうところなんだよと苛つく純。イケメンだからといって全ての行動を許せる寛容さは持ち合わせていない。

『あ、そんなことより先輩。早く東京に戻らないとですよね?』
「ああ、それなら…」
『私携帯壊れたままだったんだ…霧島さんと連絡取れますか?』
「霧島なら先に帰した。報告も任せてある」
『え?先に?』
「そ。俺らはもう一泊してから明日の新幹線で帰る」
『なぜ?』
「決まってんじゃん。秋田観・光!するからだよ」



秋田県といえば、誰もが知るきりたんぽやなまはげといった代表的な独自の文化を築き上げてきた魅力あふれる自然の地域。せっかく観光するのなら、都会にはない大自然に触れ、地元の料理に舌鼓を打ち、この地域特有の文化を見てみたいと期待に胸を膨らませ『Let's go!秋田観光!』と五条のテンションに合わせて繰り出して来たのだが…。

「はい、あ〜ん」
『…いや、あ〜んじゃねーし。…マジかこの人…』
「え〜、食べないの?美味しいよ、この金萬」
『なんで食べかけ寄越すんですか?普通に汚いです』

五条悟の観光とは、自己満足なスイーツの食べ歩きである。そう理解したのは観光を始めて1時間が経った頃であった。『なまはげ見たいです』と言えば「昨日祓った特級がなまはげみたいだったから却下」と言われ、『"五条先輩と"きりたんぽ鍋が食べたいです』と願いを押し通すためにワザと女子力を振り絞って言ってみれば、「え〜、気分じゃない」とヘラヘラ笑われ殺意が芽生えた。「俺純と食べたい物あるからそっち行くよ」と自分の我儘はすんなり通す五条に付き合わされるハメになり、仕方なくここまでついて来たが…。

「あ、じゃあこれやるよ。さっき買ったチョコ」
『チョコ?』
「土産で人気なんだって。はい、手ぇ出して」
『へぇ〜。秋田でチョコってイメージな…』

金萬を頬張りながらポケットから取り出したチョコを純の手の上に半笑いで乗せた五条。そんなお土産もあるんだな〜と呑気にそれを受け取った、次の瞬間ー。

『…え…?…ッ!ギャァァァァァァアッ!!!』
「…ブッ…」
『なにっ!?マジでなに!?』

女らしからぬ悲鳴を上げ、物凄いスピードで乗せられた物体を放り投げた純。期待通りのオーバーリアクションを収めるべくいつの間にか携帯を取り出し動画撮影を始めていた五条は、笑いを堪えながら驚きと共に飛び跳ねた純にカメラを向ける。

「…ククッ…純、チョコ落とした」
『違うっ。虫だった…イモ虫っ』
「プッ…その顔っ…超ビビってんじゃん。ウケるっ」
『……あ、てめぇグラサンごらぁっ…!盗撮すんな!』
「アハハハハハハッ」

五条が純に手渡したのは、チョコレートで作られた虫の幼虫。精度が高くて言われるまでは本当にイモ虫を手渡されたと思ってしまうくらいにリアルである意味気持ち悪い。また五条悟の悪ふざけだと理解すると、純はぷんすかと怒りながら携帯を取り上げようと近づき手を伸ばした。

「七海に送ろ〜」
『はぁ!?』

それだけはやめてくれと、五条の携帯を取り上げようと手を伸ばす。が、20cm以上もある身長差が埋まることはなく、どう足掻いても「チビ」と罵られ小馬鹿にされるだけだった。何度も宙を切る純の手をぱしっと掴みケラケラと笑ったあと、指を絡ませ手を引き歩き出した五条。

『ちょ、ちょっと…!』
「やっぱお前といると楽しいわ」
『…私はストレス溜まるんですが…』
「あ!あの店入ろーぜ」
『まだ甘い物食べるんですか!?』
「食うよ。ちなみに〆はフルーツ特盛りのパフェ食うんだ〜」
『……うぇ…』


*painted in black-楽
(束の間、休息。)



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