「あれ?五条は?」
「あそこ」
「…?」

残暑が残る9月半ばの高専。1.2年合同の強化授業を行なっているグラウンドに、冷たいお茶の入ったペットボトルを両手に抱えた家入が戻ってきた。休憩中の夏油はその問いかけに短く答え、手渡されたボトルを受け取りながら五条たちのいる場所を指さした。

「純〜、泣いてる?」
『…っ…五条先輩のクソったれ…!死んじゃえアホ!』
「純、そうゆうの日本語でなんつーか知ってる?」
『…?』
「負け犬の遠吠え」
『うわ、うざっ!』
「ププーッ。二階級特進のクセにだっせぇ〜っ」
『うっせーよ丸縁サングラス!バーカバーカッ』
「俺から一本取ってからバカって言えよバーカッ」

サングラスの隙間から覗く六眼からは、挑発的な意思が汲みとれる。自分をからかい楽しんでいると感じた純は、絶え絶えの呼吸を整えて五条を睨みつけた。彼と同じ二年の夏油と家入は独特の雰囲気はあるものの、尊敬に値する呪術師だ。なのになんでこいつは…と、純は心の中で『サイコ野朗っ』と地団駄を踏んだ。

「悟の奴、最近あの子にご執心だ」
「可愛いもん、純。いい子だし」
「異例のニ階級特進ね。嫌でも悟の玩具にされる」

すでにパシリ扱いされているし、用もないのに呼び出しては無茶振りばかりされているし、典型的なタチの悪いイジメっ子に目を付けられ、なんとも可哀想な子だな…と夏油は切長の瞳を憐れむように細めた。

「程々にしろって注意しなよ。なにあの低レベルな言い合い」
「勿論言ったさ。でも聞かないんだよ」
「…もしかしてとは思うけどさあ」

隣に腰を下ろした家入に視線を移し、言葉を待つ。

「五条の奴、純が好きなんじゃないの?」
「………あれで?」

二人から少し離れた場所ではジャイアントスイングを喰らいながら『五条このクソ野朗〜〜っ!』と叫ぶ純がいる。好きな子相手にアレはないだろうと意を込め家入に問いかけると、だって五条悟だもんと説得力のある回答が返ってきた。

「よく言うよ。好きな子ほどイジメたくなるって」
「それ、せいぜい中2までだと思うよ」
「アイツの脳内年齢は小3の夏休みじゃん」
「……怒られるよ。否定はしないけど」

『ギャーッ!』という叫びと共に空高く放り出された純。「受け身取れよ〜」という五条の言葉に苛立ちを覚えながらも綺麗に身を翻し着地すると、体に付いた砂やら土を払いヘラヘラしているうざい先輩に舌打ちをした。

「純、昼メシ行くぞ」
『嫌です!私はこれから任務終わりの七海と合流して…』
「は?七海?俺の誘いを断る気なら殺す」
『…い、嫌でっ…』
「早くキャンセルしろ」
『……もしもし。七海…あの、今日の予定だけど』

まじな殺意に手早く携帯を取り出し、絶望に満ちた表現で七海との予定をキャンセルする。楽しみにしていたのに!と沸々と湧き上がる怒りを電話越しに感じたのか、「五条さんか」と同情するような声色が聞こえてきた。

「今の見た?」
「見た」
「五条の奴、いよいよマジだね」
「だね…」


*第印象が最悪だったもんで



*前  次#


○Top